デジタル大辞泉 「他界」の意味・読み・例文・類語
た‐かい【他界】
1 自分が属さない世界。よその世界。
2 死後の世界。あの世。来世。また、夢や忘我状態のときに魂がさまよう所。
3 死ぬことを婉曲にいう語。「祖父は昨年暮れに
[類語]死ぬ・死亡・死去・死没・永逝・長逝・永眠・往生・逝去・物故・絶息・絶命・大往生・お陀仏・死する・辞世・成仏・昇天・崩御・薨去・卒去・瞑目・落命・急逝・夭折・夭逝・亡くなる・没する・果てる・眠る・
他界という観念あるいは表象は,人間が死を不可避の宿命と自覚することに発生の基盤をもっている。身体的な死が人間存在にとって究極の,それ自体としては解決不能の悲劇ととらえられるとき,他界,すなわちこの世界とは別の世界がどこかにあり,そこで死者が第二の生を生きるという観念をもつことは,死という問題を想像力の領域ないし文化の領域で解決することに等しい。他界観は,したがって,死後の運命についての観念つまり終末論の一部である。他界あるいは冥界の表象は多くの民族文化あるいは宗教において最も喚起力のある,しばしば絵画的とすら言いうる具象的なイメージをともなっている。これによって,死後の生という経験的に立証することのできない事象が,人々の心象世界のなかにある種の実在感をもって根をおろすことができるのである。仏教やキリスト教のような組織宗教の場合には,こうして呈示される他界のイメージは,天国や極楽にしても地獄にしても,一応の一貫性をもっているが,組織化の進んでいない宗教や民間信仰の場合は,互いに矛盾するいくつものイメージが共存していることが多い。たとえば日本の民俗宗教においては,山岳の頂きを他界の在所とする山上他界観や,海の彼方に他界があると考える海上他界観,あるいは洞窟などを他界の入口とみなすような地中(地下)他界観が併存している。これらの異なるイメージの存在は,地域差あるいは伝承の由来の違いによる差異というよりも,むしろ互いに矛盾しつつも多くの具体的なイメージを重ねることによって他界そのもの,死後の生そのものの実在性を例証する効果をもたらしているのだと言えよう。このことは未開と呼ばれる諸民族の他界観について特にあてはまる。
未開文化の他界観は,その詳細については当然のことながら民族ごとに異なり,しかも上述のように一民族のあいだでも相当の多様性ないしあいまいさが見られる。しかしそこからいくつかの一般的な特徴を取り出すことは可能である。まず第1に,他界はこの世界・宇宙のどこかに地理的・地形的に措定される。山上,海上,地下,天上のいずれかが他界の所在とされることが普通であるが,東部インドネシアからオセアニア一帯の諸民族においては,祖先が住んでいたと伝えられる土地や島を他界とみなすこともある。この場合,死者はいわば自分たちの起源の地に戻ることになる。こうした故郷ないし本来の居所への回帰という観念は,他界が祖先の地として明示されていない場合でも,かなり頻繁に見られる観念である。これを第2の特徴ということができよう。たとえば,西ボルネオのイバン族のもとでは,天寿をまっとうして死ぬことを〈帰る〉と表現する。彼らによれば,他界こそが人間のもともとの住家であり,この世は一時的な仮りの住いだからである。第3に,未開文化の他界はこの世の複製ないし写し絵であることがきわめて多い。他界での第二の生は本質的にはこの世の生活の延長であり,多少この世より住みやすいとしても(たとえば労働の軽減・収穫の保証によって),組織宗教が呈示するような極端な理想郷のイメージによって彩られることはまれである。一般に未開文化の他界観では,倫理的な善悪の基準にもとづいて個人の行くべき他界が決まるという観念は未発達である。文化によっては,正常な死に方をした者が行く他界と,事故死などの異常死をした者が行く他界とが分化していることもあるが,この場合でも,倫理的終末論にともなう死後の審判の観念および罰としての地獄のような表象は普通欠けている。
組織宗教あるいは歴史宗教の他界観の特徴は倫理的終末論にある。キリスト教やイスラム教は,古代のユダヤ教では漠然と地下の暗黒の世界と考えられていた死後の世界に,天国と地獄という強力な具体的イメージをもつ二つの他界と,倫理的規準による死後の審判の観念を導入した。同様のことが仏教のバラモン教に対する関係についても言いうる。バラモン教の初期形態にあっては微弱であった地獄の形象は後代にはよりはっきりしたものになったが,その場合でも地獄は倫理的な意味での悪業というよりも,宗教的儀礼を怠ったことへの罰であった。八熱地獄に代表される仏教の地獄像は,これに対して,明白な倫理的善悪観のうえに成り立っているのである。死後の審判の観念は,これより先,ゾロアスター教の他界観においてすでに完成を見ている。死者はミトラ神によって裁かれたのち,その善者は〈選別者の橋〉を渡って天へ,悪者は橋から引きずりおろされて地獄に落ち,多くの苦悶に耐えなければならないとされている。一般的に,組織宗教の天国イメージは原古からの他界観をさらに理想化したものであるのに対し,その地獄イメージは新たな思想的営為の所産であるということができよう。
→死 →黄泉国(よみのくに)
執筆者:内堀 基光
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[信仰と参詣]
神道の世界観は,高天原(たかまがはら),葦原中国(あしはらのなかつくに),黄泉国(よみのくに)(根の国(ねのくに))の三つの世界を考えるが,この天上,地上,地下の垂直的な世界観のほかに,海上のかなたに妣(はは)の国,常世国(とこよのくに)があるとする水平的な世界観が併存している。またそれらの世界とは別に,山中に他界を想定する信仰も広く存在していた。人間が死ぬと霊魂は肉体から離れて,他界に行くと考えられた。…
…第1は,来訪神が新年や小正月,豊年祭,節祭など1年の季節の変り目に1度来訪することである。第2は,こうした来訪神が海上はるかなる他界から来訪すると信じられていることが多いことである。南島ではこうした海上他界をニライカナイとよび,そこから来る来訪神をニロー神,ニイルピトとよんでいる。…
※「他界」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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