日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
リーチ・フリークエンシー
りーちふりーくえんしー
reach & frequency
広告計画におけるメディア・ミックスを効率的に推進するあたり、当該の広告物を単一のあるいは複数の媒体に、複数回放送または掲載したとき、それが視聴者(オーディエンス)に到達する状況を表す用語として、1960年代までは印刷および電波の両媒体において使われた。しかし、1970年代以降は、各媒体が相互に独自の役割を果たすようになり、おもに民間放送のテレビあるいはラジオにおいて、CM(コマーシャル・メッセージ)が視聴者あるいは聴取者に、どの程度到達するかを知る尺度として用いられるようになっている。一定期間中に何本かのCMを放送した場合、そのCMに少なくとも1回以上接した世帯(個人)が、電波の到達エリア内の世帯(個人)の何パーセントであるかを示す指標をリーチとよび、累積到達率あるいは単に到達率と訳している。つまり、リーチはCM訴求が到達する範囲を示す。これに対し、CMが到達する頻度をフリークエンシーとよび、反復到達回数あるいは単に到達回数と訳す。到達回数の平均値をさすことが多いため平均到達回数ともいう。二つの概念はセットになって使われる。
CMを何回か放送した場合、CM1回ごとの視聴率(聴取率)を単純に足したものを延べ視聴率(延べ聴取率)あるいは総視聴率(総聴取率)GRP(gross rating point)といい、それはCM放送本数と平均視聴率(聴取率)の積に等しい。しかし、これはリーチを示すことにはならない。たとえば10人に10個の菓子を1個ずつ分ければ、100%行き渡ることになるが、1人が2個も3個もとれば全員には行き渡らない。同じように、CMを何回も見る人もいるし、まったく見ない人もいる。GRPとリーチとの関係は多くの実測例から明らかになっているように、CM放送本数やその視聴率(聴取率)から、おおよそどれくらいのリーチが得られるかを推定することができる。フリークエンシーは、GRPをリーチで除して得られる。したがって、リーチもGRPをフリークエンシーで除して得ることができ、
リーチ×フリークエンシー=GRP
という式が成り立つ。
リーチ・フリークエンシーとGRPの関係をわかりやすくするため、例をあげよう。かりに、テレビのスポットCMを3本放送し、1本目から3本目まで、それぞれCMの視聴率が15%、10%、5%だったとする。 で、Aは3本のCMのうち1本を、Bは2本を、Cは3本ともを、それぞれ見た人を示している。Aの部分の外周をつなぐ線によって囲まれる部分は、3本のCMのうち少なくとも1本を見た人の割合であって、リーチを示す。1本目と2本目の両方のCMを見た人が3%いたとすれば、2本のCMによるリーチは、15+(10-3)=22%となる。3本目のCMの場合、1本目と3本目、2本目と3本目、1本目から3本目まで全部見た、という3種類の重複関係のなかに、1本目と2本目の重複視聴者が含まれる部分が出てくる。3種類の重複が3%だとすると、(5-3)%を1本目と2本目のリーチに加えて、3本のCMによるリーチは、22+2=24%となる。一方、GRPは3本のCMの視聴率の和だから、30%である。したがってフリークエンシーは30÷24=1.25となる。
リーチ・フリークエンシーの考え方は、今日、放送広告特有の概念となっており、とりわけテレビのスポット広告セールスの武器として使われている観がある。こうした時代を反映して、コンピュータを利用したリーチ・フリークエンシーの推定式が、ここ数年多く誕生している。なかでも、テレビスポットCMのリーチの代表的推定式としては、修正指数曲線が用いられる。リーチをR、CM本数をxとすると、R=K-ae-bxという式によってリーチが得られる。ただし、eは自然対数の底、a、b、Kはそのつど定まる係数である。なお、印刷媒体においても、かつては広告効果の指標として利用されたこともある。印刷媒体の場合は、二項分布に従うといわれ、R=1-(1-a)n(aは広告接触の比率、nは広告投下の回数)という式を使う場合が多い。
[伊藤誠二]