リーチ(読み)りーち(英語表記)Bernard Leach

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リーチ」の意味・わかりやすい解説

リーチ(Edmund Leach)
りーち
Edmund Leach
(1910―1989)

イギリス社会人類学者。ケンブリッジ大学工学を専攻し、中国などで数年過ごし、その後ロンドン大学でマリノフスキーに師事して人類学を学んだ。ラドクリフ・ブラウン流の構造機能主義が主流となっていたイギリス人類学のなかで、彼は理論と民族誌の根源に帰って「人類学の再考」を行い、現代社会人類学の全領域にわたり、つねに知的挑戦に満ちた問題提起を続けた。

 名著とされる『高地ビルマの政治体系』(1954)では、高地ビルマ諸社会を、(1)専制的・階層的なシャン国家型、(2)カチンの無階層的なグムラオ型、(3)両型の中間のグムサ型、と分類する。そして(3)が(1)や(2)に変化する原動力は、個々人が地位と力で競い合って生じる社会経済変化によると説いた。また『プル・エリヤ――セイロンの村』(1961)では、所有継承関係を規定しているのは、フォーテスの説くような出自関係によるのではなく、生態環境(地縁関係)であると主張した。また儀礼の考察などを通じて、レビ・ストロースの構造人類学の立場に近づいていった。『人類学再考』(1961)、『神話としての創世記』(1969)、『文化コミュニケーション』(1976)、『社会人類学』(1982)などの著書がある。

[宮坂敬造 2019年1月21日]

『青木保・井上兼行訳『人類学再考』(1974/新装版・1990・思索社)』『江河徹訳『神話としての創世記』(1980・紀伊國屋書店/ちくま学芸文庫)』『青木保・宮坂敬造訳『文化とコミュニケーション――構造人類学入門』(1981・紀伊國屋書店)』『長島信弘訳『社会人類学案内』(1985・岩波書店)』


リーチ(Bernard Leach)
りーち
Bernard Leach
(1887―1979)

イギリスの陶芸家。香港(ホンコン)に生まれる。父は弁護士。1906年ロンドン美術学校に入学しエッチングを学ぶ。09年(明治42)来日。上野桜木町に住み、白樺(しらかば)派同人に銅版画を教えたのを機に富本憲吉との交流が始まる。ついで柳宗悦(むねよし)、浜田庄司(しょうじ)、河井寛次郎ら民芸運動の指導者とも親交を結び、6代目乾山(けんざん)に入門して楽焼(らくやき)を習得。20年(大正9)浜田を伴い帰国、セント・アイビスに築窯して作陶生活に入る。第二次世界大戦後もたびたび来日して展観や講演活動を続け、国際文化交流に貢献、64年(昭和39)勲二等瑞宝(ずいほう)章を受章した。李朝(りちょう)陶磁や日本の民芸陶磁を原点とした東洋陶磁の特質にイギリスの伝統陶技を盛り込み、独自の作風を展開した。セント・アイビスに没。著書『陶工の本』が知られている。

[矢部良明]

『石川欣一訳『陶工の本』(1955・中央公論美術出版)』『C・W・ニコル著、松田銑訳『バーナード・リーチの日時計』(1982・角川書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リーチ」の意味・わかりやすい解説

リーチ
Leach, Bernard (Howell)

[生]1887.1.5. ホンコン
[没]1979.5.7. セントアイブス
イギリスの陶芸家。幼年時代日本で過ごし,銅版画を志してロンドンの美術学校に学んだ。在学中 L.ハーンを愛読して日本に憧れ,1909年再来日。東京上野で銅版画の学校を開いたが,柳宗悦富本憲吉らを知って陶芸に興味をもち,宮川香山,6世尾形乾山について陶技を学んだ。 1917~19年千葉県我孫子で乾山の本窯を譲り受けて製陶。 1920年に浜田庄司を伴って帰国し,イングランド南西部の漁村セントアイブズに日本式の登り窯を築く。 1936年ダーティントンホールに移り,そこを本拠として作陶と後進の指導にあたる。またヨーロッパやアメリカでも指導し,欧米の工芸家たちの活動を助成して工芸隆盛に重要な役割を果たした。第2次世界大戦後もたびたび来日,通算 21回に及び,民芸窯で制作しては個展を開いた。日本,朝鮮の陶芸にイギリス陶芸の伝統を合わせた独自の民芸調陶器を制作し,日本の民芸運動にも貢献した。 1966年,勲二等瑞宝章を受章。主著に『陶工の書』A Potter's Book (1940) がある。

リーチ
Leach, Edmund Ronald

[生]1910.11.11. シドマウス
[没]1989.1.6.
イギリスの社会人類学者。ケンブリッジ大学教授 (1972) 。台湾,クルディスターン,ビルマ,ボルネオ,スリランカ各地で調査。鋭い理論批判を展開し,イギリス社会人類学会の中心的な存在として活躍した。主著『ビルマ高地の政治体系』 Political Systems of Highland Burma (54) ,『人類学再考』 Rethinking Anthropology (61) ,『神話としての創世記』 Genesis as Myth and Other Essays (69) ,『文化とコミュニケーション』 Culture and Communication (76) ,『社会人類学案内』 Social Anthropology (82) 。

リーチ
Leech, John

[生]1817.8.29. ロンドン
[没]1864.10.29. ロンドン
イギリスの風刺漫画家。初め医学を学んだが美術に転向,エッチング,木版,銅版によって上品でユーモラスな作品を数多く制作した。 1841年以来死ぬまで,イギリスの風刺雑誌『パンチ』誌に多くの社会的,時事的漫画を発表。主要作品は『アイルランド小旅行』 (1859) 。

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