ドイツの作家カロッサの第一次世界大戦従軍日記。1924年に刊行され、34年には『従軍日記』と改題された。多忙で単調な開業医生活のなかで詩才を生かすことに行き詰まりを感じていたカロッサは、大戦が勃発(ぼっぱつ)すると軍医を志願し、1916~18年、西部戦線と東部戦線に従軍した。本書は16年10月4日から12月15日までの記録を収めており、第一次大戦の生んだ戦記文学の最高のものと評価された。ここで描かれるのは、悲惨な戦闘、兵士や現地人の運命であるが、多く存在する戦記物のなかでこの作品を際だたせているのは、そのような状況にあって自然と人間の美しさを見つめようとする作者の静かなまなざしであり、暗黒の奥にこそ光明を求めることをやめない作者の敬虔(けいけん)で豊かな心である。「蛇の口から光を奪え」というこの作品のモットーは、戦争という危機に身を置いた作者の精神的態度を端的に語っている。
[平尾浩三]
『『ルーマニア日記』(高橋健二訳・岩波文庫/高橋義孝訳・新潮文庫)』▽『福田宏年訳『ルーマニア日記』(『世界文学全集25 リルケ・カロッサ』所収・1979・学習研究社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…第1次大戦中は従軍医。その記録《ルーマニア日記》(1924)はヒューマニティに満ちた戦記文学である。戦火のもとで幼い日の思い出をつづり《幼年時代》(1922)を発表,以後《青春変転》(1928),《指導と信従》(1933),《美しき惑いの年》(1941)など作者の内的成長を跡づける自伝的作品を書き続けた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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