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戦争文学 せんそうぶんがく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

戦争文学
せんそうぶんがく

戦争をテーマとする文学。戦争を扱った文学作品は古今東西にわたって数多く存在する。ホメロスの『イリアス』はトロイ戦争に取材したもの,また日本文学では「軍記物語」として『平家物語』や『太平記』がある。しかしこれらの古典的作品を,特に戦争文学の名で呼ぶことは必ずしも適当ではない。ナポレオン戦争を背景としたレフ・トルストイの『戦争と平和』も同様である。もっと実戦に密着し,戦場体験に基づく戦争文学は,20世紀になって出現した。第1次世界大戦では,エーリッヒ・マリア・レマルクの『西部戦線異状なし』やアーネスト・ヘミングウェーの『武器よさらば』などが生まれた。それらは戦争に対する批判をも含むものであり,この傾向は現代の戦争文学において一般的である。第2次世界大戦の作品としては,ノーマン・メーラーの『裸者と死者』やジョン・ハーシーの『ヒロシマ』などがある。ノーベル文学賞を与えられたウィンストン・チャーチルの『第2次世界大戦』も偉大な戦争文学に数えてよいであろう。日本文学では,桜井忠温の『肉弾』 (日露戦争) ,火野葦平の『麦と兵隊』 (日中戦争) ,大岡昇平の『レイテ戦記』 (太平洋戦争) などがある。

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百科事典マイペディアの解説

戦争文学【せんそうぶんがく】

戦争を題材にした文学。近代以降の作品をさし,〈軍記〉,〈戦記〉とは区別される。記録的なものから反戦的な思想をもつ作品まで,その幅は広い。E.M.レマルクの《西部戦線異状なし》はその一例。

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世界大百科事典 第2版の解説

せんそうぶんがく【戦争文学】

戦争を題材とする文学であるが,近代以降の作品についていい,平安末期から室町・戦国期にかけての戦乱を扱った叙事的な古典文学は〈軍記〉〈戦記〉などとよばれる。また,反戦を主題とするものを特に〈反戦文学〉とよんで区別することもある。E.M.レマルクの《西部戦線異状なし》,E.ヘミングウェーの《武器よさらば》など,世界文学のなかに戦争文学の観点からすぐれた作品をひろいあげることができ,今日,現に戦時下にある地域についての注目すべきルポルタージュも生まれているが,以下,特に日本文学について記す。

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大辞林 第三版の解説

せんそうぶんがく【戦争文学】

近代戦争を題材にした文学。特に、戦争という特殊状況における人間の苦悩を主題にしたものをいう。レマルクの「西部戦線異状なし」、メーラーの「裸者と死者」、桜井忠温の「肉弾」、大岡昇平の「レイテ戦記」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

戦争文学
せんそうぶんがく

戦争を題材とした文学。まず、叙事詩的なとらえ方のものに、日本では、『保元(ほうげん)物語』『平治(へいじ)物語』『平家物語』『太平記』などの軍記物語の系譜があり、西洋でも、ホメロスの『イリアス』や武勲詩以来、戦争を扱った文学が大きな流れをなしている。また、直接の文学作品ではないが、カエサルの『ガリア戦記』、ペロポネソス戦争を扱ったトゥキディデスの『歴史』、百年戦争のフロアサールの『年代記』などの実録や、歴史の系統のものに第二次世界大戦のチャーチルの『第二次世界大戦回顧録』六巻(1948~54)がある。近代の戦争文学は本質的に反叙事詩的、反公共的(私的)な性格が強いが、トルストイの『戦争と平和』(1863~69執筆)やノーマン・メーラーの『裸者と死者』(1948)などに叙事詩的な流れが認められよう。
 これらと対蹠(たいせき)的に、兵士・個人の観点から戦争批判を打ち出したものに、第一次大戦後の、レマルク『西部戦線異状なし』(1929)、ヘミングウェイ『武器よさらば』(1929)、ドス・パソス『三人の兵士』(1921)その他があり、これらと同種のものとして、第二次大戦後の日本の戦後派の反戦文学、梅崎春生(はるお)の『桜島』(1946)・『日の果て』(1947)、野間宏(ひろし)『真空地帯』(1952)、大岡昇平『俘虜(ふりょ)記』(1948)・『野火』(1951)、大田洋子の原爆文学『屍(しかばね)の街』(1948)などがある。
 いわば戦争とともに歩んできたともいえる日本の近代史の流れのなかで、戦争文学はナショナリズム、愛国心、民族愛を強調したものが主流をなした。日清(にっしん)戦争下の国木田独歩(くにきだどっぽ)の『愛弟通信』(1894~95)や、日露戦争を描いた桜井忠温(ただよし)の『肉弾』(1906)、水野広徳(ひろのり)の『此(この)一戦』(1911)、日中戦争から太平洋戦争にかけて、火野葦平(あしへい)の『麦と兵隊』(1938)以下一連の兵隊もの、日比野士朗(しろう)『呉淞(ウースン)クリーク』(1939)、上田広『黄塵(こうじん)』(1938)・『建設戦記』(1939)、丹羽(にわ)文雄『海戦』(1942)、岩田豊雄(とよお)(獅子文六(ししぶんろく))『海軍』(1942)などがあった。
 この反面、ヒューマニズム、人間愛、博愛心をうたった反戦文学も数多く書かれている。日清戦争直後の泉鏡花(きょうか)『海城発電』(1896)、広津柳浪(りゅうろう)『非国民』(1897)などに始まり、日露戦争下の与謝野晶子(よさのあきこ)『君死にたまふこと勿(なか)れ』(1904)、大塚楠緒子(くすおこ)『お百度詣(まいり)』(1905)などの反戦詩、続いて自然主義時代の田山花袋(かたい)『一兵卒』(1908)、第一次大戦下の武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)『或(あ)る青年の夢』(1916)などを経て、1921年(大正10)の『種蒔(ま)く人』創刊以後、反軍国主義的な作品群が目だつようになり、とくに関東大震災の翌年『文芸戦線』が創刊され、プロレタリア文学運動が全盛期を迎えるや、創作集『戦争に対する戦争』(1928・南宋書院刊)に代表されるプロレタリア反戦文学の盛行をみるに至る。同書には、江口渙(かん)『馬車屋と軍人』(1917)、越中谷利一(えっちゅうやりいち)『一兵卒の震災手記』(1927)、黒島伝治『橇(そり)』(1927)、立野信之(たてののぶゆき)『標的になった彼奴(あいつ)』(1928)など20編が収められているが、とりわけ黒島はプロレタリア反戦作家の代表的存在といってよく、過酷なシベリア出兵時の体験を生かした『渦巻ける烏(からす)の群』(1928)その他一連のシベリアものの佳作のほか、本格的な『反戦文学論』(1929)を残している。プロレタリア詩人による反戦詩集としては、北川冬彦『戦争』(1929)や金子光晴(みつはる)『鮫(さめ)』(1937)が注目されるが、こうした反戦文学の流れも日中戦争勃発(ぼっぱつ)後断ち切られ、戦争中はもっぱら戦意高揚を意図した戦争文学が氾濫(はんらん)する。そして、戦後は逆にその反動として、被害者意識を全面に押し出した傾向文学としての反戦文学の隆盛をみるが、1950年代のなかば以後、日本の戦争文学も、被害者でありながら同時に加害者であった戦争下の日本人の運命を真摯(しんし)に追求するようになり、阿川弘之(ひろゆき)の『雲の墓標』(1955)や遠藤周作の『海と毒薬』(1957)、それから、その延長線上に、井伏鱒二(ますじ)の『黒い雨』(1965~66)や大岡昇平『レイテ戦記』(1967~69)、そして大西巨人(きょじん)『神聖喜劇』(1960~80)などの大作を生んだ。ほかに五味川(ごみかわ)純平の『人間の条件』(1956~58)、吉村昭(あきら)の『戦艦武蔵(むさし)』(1966)や田宮虎彦(とらひこ)の『沖縄の手記から』(1972)もあげておきたい。
 また、ベトナム戦争に従軍、その体験をもとに描いた開高健(かいこうたけし)の『ベトナム戦記』(1965)や『輝ける闇(やみ)』(1966)なども、戦争文学の一大収穫といえよう。[大久保典夫]
『板垣直子著『現代日本の戦争文学』(1943・六興商会出版部) ▽安田武著『戦争文学論』(1964・勁草書房)』

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