改訂新版 世界大百科事典 「ローティー」の意味・わかりやすい解説
ローティー
roti
北インドで作られるパンの総称。チャパーティーchapati,ナーンnan,プーリーpuriなどの代表的パンや,そのバリエーションを含む。なかでも最も広い地域で日常的に作られるのはチャパーティーで,レストランでローティーとだけ注文すればこれが出てくる。精製してないままの全粒の小麦粉(アーター)を使うのが特色で,水(ときにはギー)を加えてよくこね,無発酵のままめん棒で丸くのし,鉄板で両面を焼いただけの素朴な味である。仕上げのときに炭火の中に放りこむと,丸いボールのようにふくらんで水気がとび,おいしく仕上がる。のして,焼いて,ふくらませて……という作業を手順よくやりとげるにはかなりの年季が要る。女の子も〈チャパーティーが焼けたら一人前〉といわれるゆえんである。プーリーはチャパーティーと同じドウ(こねた小麦粉)を油で揚げたもの。アムリッツァルのシク教の本山であるゴールデン・テンプルでも,信徒にサービスされている。ときに精白した小麦粉を使うこともある。ナーンは必ず精白した粉を使い,練ったあと発酵させてから手で大きな木の葉形に広げ,タンドールという土の窯に貼りつけて焼いたもの。肉や魚を同じ窯で串ざしにして焼いたタンドール料理と対(つい)になって出てくるパンジャーブ発祥のごちそうパンである。
その他ドウの中に野菜を練りこんだものは,中味によって〇〇・ローティーと呼ばれ,もてなし料理になる。材料もチャナ・ダール(ヒヨコマメ)やラギー(キビ)を使うこともあるし,味も塩味,酸味などがみられる。ナーン以外は大体がパン皿大(ほぼ手の大きさ)であるが,ルマリ・ローティーrumali rotiと呼ばれるものは,ドウを皿回しのように指先でくるくる回しながら〈絹のスカーフ〉のように薄く,中華鍋くらいの大きなものを形づくる。ちなみに西洋風のいわゆるパンはパン・ローティーと呼ばれる。
日本で〈ご飯〉あるいは〈めし〉といえば,米を炊いたものと同時に食事そのものを指すが,ローティーも同様に食事,さらに敷衍(ふえん)して〈生活〉あるいは〈なりわい〉をも意味して使われることが多い。〈ローティーのために働く〉とか〈そんな仕事ぶりじゃローティーは食えないよ〉といういい方がよく聞かれるし,事実,北インドの貧しい農民にとっては,一日に数枚のローティーが文字どおり命の綱となっている。
→パン
執筆者:辛島 貴子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報