改訂新版 世界大百科事典 「ワキ方」の意味・わかりやすい解説
ワキ方 (わきかた)
能楽において,能のワキ,ワキヅレ,ワキ後見の各役を担当する演者とその集団。シテ方,囃子方,狂言方に対しての呼称。現在,宝生流,福王流,高安(たかやす)流の3流がある。廃絶した流派に進藤流(明治期に廃絶),春藤流(大正期に廃絶)の2流があった。宝生流は,シテ方宝生流と区別して脇宝生(わきぼうしよう)と称し,また金春(こんぱる)座付であった春藤流の分れなので下掛(しもがかり)宝生流とも称される。観阿弥・世阿弥時代には,シテ方とワキ方とが未分化で,《風姿花伝(ふうしかでん)》にいう〈脇の為手(して)〉とは現在のワキやシテヅレのことを意味し,〈棟梁の為手〉(現今のシテのこと)に対し文字どおり脇役の意だったが,室町中ごろからしだいにワキ独自の技法を確立し,分業制になった。比較相対的にいえば,シテ方の演技が抒情的・歌舞的であるのに対し,ワキ方の演技は叙事的・現実的であるのが特徴。
→ワキ
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報