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アメリカ・インディアン諸言語 あめりかいんでぃあんしょげんご

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アメリカ・インディアン諸言語
あめりかいんでぃあんしょげんご

カリブ海の島々、および南北アメリカ両大陸で、ヨーロッパからの移住者が到着する以前から話されている先住の人々の言語。アメリカインディアンの諸言語の間には非常に多様な相違があるので、彼らの祖先は、アメリカ大陸に移動する以前のアジアですでに異なる言語を話していた諸集団が移住したものと考えられている。したがって、アメリカ・インディアン諸語が互いに親縁関係をもつ単一の語族を形成するとは考えられていない。しかし、エスキモーアリュート諸語およびナデネ諸語(アパッチ語はその一例)を除く南北アメリカの土着語は、単一の語族を形成するという説はある。ただし、このように大きな語族は、まだ仮説でしかない。
 アメリカ・インディアン諸言語の数は、約800とする者から、北アメリカ200、中央アメリカ350、南アメリカ1450、総計約2000とする者まで諸説がある。ヨーロッパからの移住民が初めに到着したときは、北アメリカを例にとると、現在の言語数の1.5倍ないし5倍の数の言語があったと推測されている。世界の言語総数を約5000とし、アメリカ・インディアンの諸言語はその16%であるとする者もいる。[青木晴夫]

分類

分類には「大語族」「語族」「語群」の区別が使用される。大語族は、同系である蓋然(がいぜん)性はあるが、その証明がまだなされていない言語集団で、語族や孤立言語を含む。語群は、同系である証明が十分でない語族の下位群である。語族は、祖語が再構され親族関係が証明された言語集団である。
 北アメリカの言語分類は、1891年にパウエルJohn W. Powellが試みたメキシコ以北の諸言語を55語族に分類したものが、現在も多少改訂しただけで使われている。1920年代までには、語族をさらに大きな大語族にまとめる研究が続けられ、1929年にサピアは、北アメリカの言語を次のような六つの集団にまとめることを提案した。(1)エスキモー・アリュート、(2)ナデネ、(3)アルゴンキン・ウォキャシ、(4)アズテク・タノア、(5)ペヌート、(6)ホカ・スー。その後、メキシコ湾岸のミシシッピ、アラバマ、ルイジアナ、フロリダ各州の言語を(6)から(3)へ移す提案がなされている。
 (1)は語族で、エスキモー語とアリューシャン列島のアリュート語がこれに属する。
 (2)は大語族で、アパッチ語やナバホ語を含むアサバスカ語族と、孤立しているトリンギト語(アラスカとカナダ)およびハイダ語(クイーン・シャーロット島)がこれに属する。
 (3)も大語族である。カナダ西岸のヌートカ語の属するウォキャシ語族、カナダやモンタナ州のクリー語群の属するアルゴンキアン語族、カリフォルニアのユーロク語、ウィーヨト語などがこれに属する。
 (4)も大語族で、中央アメリカにまで広がっており、アステカ王国の共通語であったナワ語を含むアズテク語族、カリフォルニアからアイダホにかけてのショショーニ語族などがこれに属する。
 (5)はカリフォルニアから北に延びている大語族であるが、最近その実在が疑われている。
 (6)の大語族には、メキシコに延びているユマ語族、モホーク語を含むイロコイ語族、ダコタ語を含むスー語族などがある。
 中央アメリカおよび南アメリカには次のような言語集団がある。
 (7)オト・マンゲ大語族 中央アメリカだけに広がる言語集団で、死語となったマンゲ語族、メキシコのオトミ語族などがこれに属する。
 (8)マヤ語族 マヤ文化を築いた人々を祖先とする人たちの言語で、メキシコの一部、グアテマラ、ホンジュラス、ベリーズなどで話される。グアテマラのキチェ語などがこれに属する。
 (9)アンデス・赤道大語族 南アメリカで言語数がもっとも多く、約200ある。このなかには、ペルー、エクアドル、コロンビア、ボリビア、チリ、アルゼンチンにわたって600万の話者を有する、かつてのインカ帝国の共通語であったケチュア語がある。
 (10)ジェ・パノ・カリブ大語族群 このグループに属する言語は、アンデス山脈以東、北はベネズエラから南はアルゼンチンまでの広い地域で話されている。
 (11)マクロ・チブチャ大語族 中央アメリカから南アメリカにかけて広がっており、九つの言語と七つの語族からなる。パナマのクナ語、グワイミ語、コロンビアのパエス語などがこれに属する。
 ヨーロッパ系のアメリカ人には、インディアン諸語は簡単で原始的だと誤解した者もいた。しかし、名詞に例をとると、中央アメリカには「おば」(伯母・叔母)という意味の単語に、「甲のおば」というときの甲が単数か双数か複数か、一人称か二人称か三人称か、さらにおばさんが単数、双数、複数のいずれかで、3×3×3=27の形を有する言語がある。動詞にも多くの情報を組み込むことができ、複雑な構造の言語が多い。[青木晴夫]
『青木晴夫著『滅びゆくことばを追って』(三省堂ブックス) ▽青木晴夫著『アメリカ・インディアン』(講談社現代新書) ▽北村甫編『世界の言語』(『講座言語 第6巻』1981・大修館書店)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

世界大百科事典内のアメリカ・インディアン諸言語の言及

【アメリカ・インディアン】より

…共通起源のものでも長い年月の間には,音声・文法構造が大幅に変化することは,同系と認められている世界の諸言語の比較によって確かめられている。アメリカ・インディアン諸言語(以下,ア諸語と略記)という用語はアメリカ大陸と西インド諸島の土着言語を指すものだが,地理上の便宜的表現にすぎない。現在までの研究によってア諸語の多くの言語に親縁関係が見いだされ,語族・大語族へと整理統合が行われてきてはいるが,単位が大きくなるにつれ分類自体に問題があるものもあり,またかなりの孤立した言語も認められる。…

※「アメリカ・インディアン諸言語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

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