日本大百科全書(ニッポニカ) 「サピア」の意味・わかりやすい解説
サピア
さぴあ
Edward Sapir
(1884―1939)
アメリカの言語学者、人類学者。ドイツで生まれ、5歳のときアメリカに渡った。コロンビア大学に学び、カナダ国立博物館、シカゴ大学を経て、1931年エール大学の教授になった。若き日にF・ボアズに出会い、アメリカ・インディアン諸言語の記録と分析を通じて得られる新しい展望を知った。社会科学としての言語学という把握を行い、各言語は文化を離れては存在しないと考えた。言語と文化は起源的には密接な関係にあるが、言語は変化が緩やかなために、時とともにその関係は薄くなっていく傾向にあると述べて、言語形式と文化との厳密な対応関係を否定したが、その関連性を否定したのではない。また、習慣的な思考の溝としての言語記号の働きに注目するとともに、潜在的な無意識を扱うための操作的手段としての顕在的な言語記号を重視した。このことから、ことばと人格の関係についても貴重な考えを示した。言語と思考の関係についてのサピアの主張は、彼の影響を受けながら独創的な言語論を築いたB・L・ウォーフBenjamin Lee Whorf(1897―1941)の考えと類似しているため、後年の学者によって「サピア‐ウォーフの仮説」とよばれ、多くの学際的議論をよんできた。彼はまた、音声学の研究水準を高め、言語の構造と類型の探究を行い、歴史言語学、比較言語学の研究方法をも取り入れた。
[有馬道子 2018年6月19日]
『エドワード・サピーア著、泉井久之助訳『言語――ことばの研究』(1957・紀伊國屋書店)』▽『エドワード・サピア著、平林幹郎訳『言語・文化・パーソナリティ』(1983・北星堂書店)』