内科学 第10版 「アレルギー性結膜炎」の解説
アレルギー性結膜炎(その他のアレルギー性疾患)
アレルギー性結膜疾患(広義のアレルギー性結膜炎)はⅠ型アレルギーが関与する結膜の炎症疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの,と定義される(アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会,2010).一連のアレルギー反応のメカニズムは,アレルギー性鼻炎,喘息,アトピー性皮膚炎などのアトピー性疾患と類似している点が多い.
分類
臨床像の違いから,眼瘙痒感,充血を主症状とする季節性アレルギー性結膜炎および通年性アレルギー性結膜炎と,結膜の増殖性変化や角膜上皮障害を伴う春季カタル(vernal keratoconjunctivitis),アトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivitis),巨大乳頭結膜炎(giant papillary conjunctivitis)に分類される.
原因
スギ花粉症などの季節性アレルギー性結膜炎では,樹木や草花の花粉がアレルゲンとなっており,花粉の飛散時期に症状が出現し,花粉飛散量の増加とともに症状が悪化する.通年性アレルギー性結膜炎や春季カタルは,ダニ,カビ,ハウスダストがアレルゲンとして関与している.アトピー性角結膜炎は,これらのアレルゲンに加え,眼瞼の搔爬行動も悪化の一因と考えられている.
病態
季節性および通年性アレルギー性結膜炎ではⅠ型アレルギー反応の即時相が主体である.涙液中に外界から飛入したスギ花粉などのアレルゲンが結膜組織中のマスト細胞上の抗原特異的IgE抗体を架橋すると脱顆粒が起こり,ヒスタミンをはじめとするケミカルメディエーターが結膜局所に遊離される.おもにヒスタミンが結膜の血管や三叉神経のC線維の自由終末に存在するヒスタミンH1受容体に結合し,充血,瘙痒感を引き起こす.また,この一連の反応によって,結膜下の血管へサイトカインや接着分子が働きかけ,おもに好酸球が結膜上皮中や涙液中に浸潤してくる. 春季カタルなどの重症型アレルギー性結膜疾患における結膜の増殖性変化や角膜上皮障害形成の病態には,活性化好酸球や組織傷害性蛋白の関与が考えられる.これらの患者の涙液や結膜には,活性化好酸球が多数浸潤し,角膜障害が重症になるほど活性化好酸球の浸潤が急激に増加する.
臨床症状
1)季節性および通年性アレルギー性結膜炎:
眼瘙痒感を特徴とし,充血,流涙,眼脂など急性結膜炎の臨床像を呈する.スギ花粉症などの季節性アレルギー性結膜炎では,毎年,樹木や草花の花粉の飛散時期に症状が出現する.ダニ,ハウスダストなどをアレルゲンとする通年性アレルギー性結膜炎では,季節を問わず症状が出現する.季節の変わり目に症状が悪化する場合が多い.細隙灯顕微鏡所見では,眼瞼結膜の乳頭,充血,腫脹,濾胞と,眼球結膜には充血,浮腫を認める.所見の程度は,結膜炎の重症度によりさまざまである.
2)春季カタル:
アトピー体質の学童,特に男児に好発する.通年性アレルギー性結膜炎と症状は類似するが,悪化時には,激しい眼瘙痒感や,角膜上皮障害のため,異物感や眼があけていられないほどの眼痛や視力低下を自覚する.上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖(図10-34-4)や角膜輪部にはTrantas斑とよばれる炎症細胞の浸潤による白色の小隆起や堤防状隆起など結膜の増殖性変化が認められる.また,角膜には,点状表層角膜炎,潰瘍底に堆積物が沈着し遷延性の角膜上皮欠損を伴うシールド(shield:盾型)潰瘍(図10-34-5),潰瘍内の堆積物が蓄積し角膜面よりやや隆起して観察される角膜プラークなど多彩な所見を呈する.
3)アトピー性角結膜炎:
アトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎で,顔面,なかでも眼瞼を中心に皮膚炎の増悪化が起こる思春期以降のアトピー性皮膚炎患者に認められる場合が多い.眼瞼結膜には白色の瘢痕を伴う場合が多く,乳頭の大きさはさまざまである.また,アトピー性眼瞼炎には,ブドウ球菌,連鎖球菌や単純ヘルペスウイルスなどの感染を伴いやすく,これらも角結膜所見の悪化に関与することが推測される.
4)巨大乳頭結膜炎:
コンタクトレンズ装用,義眼,手術時の縫合糸などの物理的刺激とコンタクトレンズに付着した蛋白などアレルゲンにより発症する.上眼瞼結膜に直径1mm以上の比較的均一なサイズの巨大乳頭を認めることを特徴とする.自覚症状は,アレルギー性結膜炎に類似し,眼瘙痒感,眼脂が主体である.コンタクトレンズ装用後に眼瘙痒感が出現し,重症になるとコンタクトレンズの上方へのずれがおこるなど,コンタクトレンズ装用と症状の発現に関連がみられる.
診断
診断のために,臨床症状の確認,Ⅰ型アレルギー素因の有無,結膜局所でのⅠ型アレルギー反応の証明を行う.結膜上皮や眼脂中には,通常,好酸球は存在しないことから,スメア中に好酸球が認められれば確定診断となる.眼局所でのⅠ型アレルギー素因の検査には,涙液中総IgE検査が簡便である(庄司ら,2012).アレルゲンの特定には,皮膚テストやRAST法,CAP法,MAST法,AlaSTAT法などの血清学的検査が用いられている.
鑑別診断
アレルギー性結膜炎と鑑別すべき疾患は,結膜の充血や眼脂を主症状とする細菌性結膜炎や流行性角結膜炎を代表とするウイルス性結膜炎などの感染性の急性結膜炎である.角膜潰瘍を伴う春季カタルやアトピー性角結膜炎は,細菌性角膜潰瘍や角膜ヘルペスとの鑑別が難しい場合がある.角膜擦過物を用いた病原体検索が的確な診断のために必要である.
予防・治療
1)セルフケア:
アレルゲンを回避する工夫はアレルギー性結膜炎の予防や症状の軽減の効果がある.スギ花粉によるアレルギー性結膜炎に対し,花粉情報の活用,花粉防御用メガネの装用,人工涙液による洗眼は有用である.
2)治療:
抗アレルギー点眼薬を第一選択とし,症状がおさまらない場合は,ステロイド点眼薬を併用する.抗アレルギー点眼薬には,メディエーター遊離抑制薬とH1受容体拮抗薬の作用を有するものがある.スギ花粉症では,花粉飛散がピークになる前から抗アレルギー点眼薬を開始する「初期療法」により,花粉飛散時期の症状を軽減し,症状発現期間の短縮が認められる.
春季カタルの治療には,抗アレルギー点眼薬,免疫抑制点眼薬,ステロイド点眼薬が用いられる.眼瘙痒感,充血,眼脂などの炎症症状が強く,角膜にも所見を呈する中等症以上の症例では,抗アレルギー点眼薬,免疫抑制点眼薬,ステロイド点眼薬で開始し,巨大乳頭の縮小化や角膜上皮障害の軽減などの改善がみられれば,ステロイド点眼薬の回数や濃度を漸減する.免疫抑制点眼薬には,0.1%シクロスポリン点眼薬と0.1%タクロリムス点眼薬がある.0.1%シクロスポリン点眼薬は重症な角結膜所見の改善にはステロイド点眼薬との併用で1カ月程度と効果の発現は緩徐だが,安全性は高い(高村ら,2011).一方,0.1%タクロリムス点眼薬は,ステロイド抵抗性の重症例に対しても短期間で治療効果が得られている.ステロイド点眼薬は,副作用として眼圧上昇を伴う場合があり,ステロイド点眼薬投与中は,定期的な眼圧測定を含めた眼科での経過観察が必要である. 薬物治療によっても角膜所見の悪化が継続する場合には,乳頭切除や角膜プラーク除去などの手術的治療を行う場合もある.[高村悦子]
■文献
アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌,114: 831-870, 2010.庄司 純,内尾英一,他:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌,116: 485-493, 2012.
高村悦子,内尾英一,他:春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査.日眼会誌,115: 508-515, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報