香り、芳しきものを意味するアロマaromaと療法を意味するテラピーthérapieを合成した芳香療法を表すことばで、植物の精油(植物の組織中に含まれる揮発性の油、エッセンシャルオイル)を使った自然療法のこと。英語の発音に従って、アロマセラピーともいう。古代エジプトに起源をもつといわれ、日本でも奈良時代にはジンコウ(沈香)のような香木や、その樹脂である伽羅(きゃら)を焚(た)いた煙を薬用に用いていた。1920年フランスの科学者ルネ・モーリス・ガットフォセが実験室で火傷(やけど)した際、ラベンダー油を患部に塗ったところみごとに完治した。この事実が精油研究のきっかけをつくり、ガットフォセによって1927年「アロマテラピー」の本とことばが世に出ることになった。
芳香性のある香料植物の精油を用いた治療法は沐浴(もくよく)、吸入、湿布、マッサージなど、精油のなかに秘められた生命力を利用するというもので、神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系などを刺激し、精神、肉体の両方に薬理作用と心理的効果を期待する伝承療法である。芳香療法に用いられるのは、ハーブなど自然界の植物から抽出した精油でなければならない。精油は皮膚を通じ、結合組織とリンパ液を通って血液循環に入る。それぞれの器官に達して作用し、体内に3~4時間存在し、そのあと肺と腎臓(じんぞう)から排出されるが、精油はその後何日も続く自然な治療プロセスを引き起こすのである。本来、人には病気やけがのように、体の異常をきたしたときだけでなく、精神的な圧迫、過労や心労などに対して、自律神経、内分泌、免疫系のシステムが総合的に働き、正常な状態を維持しようとする機能がある。それが人間のもっている自然治癒力であり、その自然治癒力を高めようとするのが芳香療法である。
[森田洋子]
『森田洋子著『香りのレシピ アロマテラピーとアロマコロジー』(小学館文庫)』
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