香料植物(読み)こうりょうしょくぶつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「香料植物」の意味・わかりやすい解説

香料植物
こうりょうしょくぶつ

揮発性の芳香成分を多量に含み、香料の原料となる植物をいうが、食品・菓子・飲料に加えて味覚を刺激する香辛料植物とは区別される。また、よい香りがする植物から、かならずしも技術的・経済的に香料の基となるよい精油がとれるわけではなく、こうした採油されない植物は香気植物とよばれ、香料植物とは別にされることもある。採油されない理由としては、(1)香り成分が変化しやすい、(2)採油率が悪いか、植物全体に対して採油部分が少ない、(3)採油しても香料的価値が少ない、すなわち、ほかの安価な材料から同じ香り成分がつくりだせる、などがあげられる。現在利用されている香料植物は、およそ57科に属し、種類は500ほどである。

[加藤 高]

採油部分

採油される精油は、樹幹、樹皮、枝葉、根茎、果実、果皮、花、つぼみ、種子、樹脂などの特定の部分に集中して含まれていることが多い。また、同じ植物でも採油部分、採油法、および産地によってその成分が異なるため、香料としての価値や用途に差が生じる場合がある。香料植物のおもなものを、利用部分によって分類すると次のようになる。

(1)幹(材または樹皮)……リナロエ、エンピツビャクシンニッケイ、ヒバ、クスノキ(芳樟(ほうしょう))など。ほかに芳香料名として白檀(びゃくだん)、沈香(じんこう)、安息香(あんそくこう)、乳香(にゅうこう)、蘇合香(そごうこう)、桂皮(けいひ)など。

(2)葉(小枝)……ハッカ、レモングラス、シトロネラソウ、ニオイテンジクアオイ、シソ、マンネンロウパチョリ(香草(こうそう))、ゼラニウム、トドマツ、ベイジュ、ユーカリノキ、ジンジャーグラス、カユプテクローブ(丁字(ちょうじ)・丁子(ちょうじ))、セージ、クロモジなど。

(3)花……ジャスミン、ラベンダー、マンネンロウ、ヘリオトロープ、ライラック、バラ、カナンガ、ラバンジン、ダイダイ、イランイラン、アカシアなど。

(4)果皮……オレンジ、レモン、ベルガモットなど。

(5)果実……ウイキョウ、ダイウイキョウ、コエンドロ、バニラ、アーモンド、ニクズク、カルダモン(ショウズクの果実)、アニス、コショウなど。

(6)根(地下茎)……ベチベル、クスノキ(本樟(ほんしょう))、イボリイリス、コスタス(木香(もっこう))、ニンニクなど。

(7)つぼみ……クローブ、アギ(ガルバナム)など。

[加藤 高]

香料植物の分類

香料植物を分類学上からみると、そのほとんどは種子植物であるが、なかには、緑藻類、紅藻類、褐藻類といった海藻を溶剤抽出して香料の一部として使うこともある。また、菌類にはマツタケなどのように香気の優れたものがあるが、精油分が0.03%程度しかないことと、採油法および多量栽培が困難であるため、現在のところ活用されていない。しかし、今後に向けての研究が進められる可能性は残されている。地衣類のツノマタゴケからは有機溶剤抽出によって、レジノイドまたはコンクリートとよばれる成分が1.5~5%程度得られるが、これはオークモスoakmossとして知られ、高級男性用化粧品にかなり使われている。

 ほとんどの香料植物を含んでいる種子植物は、裸子植物と被子植物に分類されるが、裸子植物では松柏(しょうはく)類(マツ目)が多く、マツ科のトドマツからとれるアビエス油とマツからとれるテレビン油は、近年その生産量は減少傾向にあるが、合成香料の原料として現在でも重要である。このほか、スギからとる杉油、ヒバからとるヒバ油などが知られているが、生産量は少ない。

 被子植物は単子葉植物と双子葉植物に分かれるが、単子葉植物ではイネ科のシトロネラソウ、ベチベル、レモングラスのほかパルマローザ、ジンジャーグラスが重要で、現在でも合成香料・単離香料の原料のほか、調合素材としても使用されている。ラン科のバニラ豆からとるバニラは食品香料のうちでももっともよく使われるものの一つである。このほかの単子葉植物では、ショウガ科のショウズク属からとるカルダモン油、ショウガ属からとるジンジャー油があり、いずれも香辛料として、食品香料ではたいせつなものである。以下、単子葉植物に含まれる香料植物名をあげる。括弧(かっこ)内は精油名。ヤシ科=ココヤシ。ユリ科=セイヨウニンニク(ガーリック油)、アスパラガスヒヤシンス。ヒガンバナ科=クチベニスイセン(ナルシス油)、キズイセン(ジョンキル油)、チューベローズ(オランダスイセン)。

 双子葉植物には離弁花植物と合弁花植物がある。離弁花植物のクスノキ科クスノキ(本樟、芳樟)からは樟脳油、芳樟油がとれ、日本でも古くから採油していたが、近年ではまれになってしまった。この科には、現在でも多量に使用されているニッケイがある。ニッケイには中国産ニッケイとセイロンニッケイの2種類があり、両者は混同されやすいので注意を要する。中国産ニッケイからはカシア油・桂油(けいゆ)・桂皮(けいひ)油がとれるが、これらの精油は、シンナミックアルデヒドが主成分で、樹皮・小枝・葉のどの部分も類似した含有量を示している。

 一方、シナモン油をとるセイロンニッケイでは、樹皮からの桂皮油はシンナミックアルデヒドが60~70%、オイゲノールが4~10%であるのに対し、葉からの桂葉油は逆にオイゲノールが80~90%と高くなっている。この違いには興味深いものがある。クスノキ科には、さらにオコチャ油をとるサッサフラスも含まれる。

 ミカン科のミカン属からは、ライム油、ペチグレン油、オレンジ油、ネロリ油、ベルガモット油、レモン油など、多くの精油がとれる。また、アミリス属からはアミリス油、サンショウ属からはサンショウ油が採取されている。

 以下、離弁花植物の香料植物名をあげる。括弧内は精油名・香辛料名。コショウ科=コショウ(クベバ油・香辛料ペッパー油)。クワ科=ホップ。ビャクダン科=ビャクダン。アブラナ科=クロカラシ、シロカラシ、オウカラシ(それぞれからマスタード油)。ユキノシタ科=ニセジャスミン(シリンガ油)、クロスグリ。センダン科=マホガニー(マホガニーウッド油)。ムクロジ科=ガラナ(ガラナ油)。ブドウ科=ブドウ(コニャク油)。

 ニクズク科のニクズクからは、香辛料として重要なニクズク油がとれるが、ニクズク油というのは、ナツメグ油とメース油の総称名である。ナツメグ油は、ニクズクの成熟した堅果中の種子をそのままか、または圧搾するか、溶剤抽出してできるコンクリートを水蒸気蒸留して得られるものであり、メース油は、種子の仮種皮をとり、乾燥して水蒸気蒸留して得られるものである。

 合弁花植物にはシソ科=ノハッカ、ラベンダー、エゴノキ科=ライラック、キク科=ニガヨモギ、カミツレなどがある。

[加藤 高]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「香料植物」の意味・わかりやすい解説

香料植物
こうりょうしょくぶつ
scented plants and spices

植物体に精油成分などを含み,芳香や香辛料をとるために利用されてきた一群の植物。芳香をとるための植物としては,バラ科が特に有名であるが,モクセイ科,クスノキ科,シソ科などに多数の植物種が知られている。また食品に添加する香辛料をとる香辛料植物には,コショウが代表的な植物であるが,トウガラシ,ショウガ,ワサビなど,多くの種類が古くから栽培されている。

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