ヒポクラテス(読み)ひぽくらてす(英語表記)Hippocrates

翻訳|Hippocrates

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒポクラテス」の意味・わかりやすい解説

ヒポクラテス
ひぽくらてす
Hippocrates
(前460ころ―前375ころ)

古代ギリシアの医学者。コス島の生まれ。父もまたヒポクラテスと称し、医師であった。父から医師としての手ほどきを受け、その後、小アジア、ギリシアの各地を遍歴し、多くの哲学者、医学者と交わったのち故郷に帰り、診療を施し、著述を発表した。テッサリア地方のラリッサで死んだと伝えられる。

 彼の所説を集めた『ヒポクラテス全集』Corpus hippocraticumは、ヒポクラテス一人だけの主張を集めたものではなく、彼に同調した人々の考えをも加えたものとされているが、これらのなかからヒポクラテス自身の見解を求めることは比較的容易である。彼の人体の生理・病理についての考えは体液論に基づき、人体は火・水・空気・土の四元素よりなり、人の生活はこれらに相応する血液・粘液黄胆汁黒胆汁によって左右される、とした。そしてこれら四液の調和が保たれている状態をエウクラジーeukrasieとよび、人は健康であり、不調和な状態をディスクラジーdyskrasieとよんで病気にあるとした。病気そのものと病気の症状をはっきり区別し、病的状態から回復しようとする力をフィジスphysisとよび、「病気を医するものは自然である」との説をたてた。予後学を重視し、瀕死(ひんし)の患者の顔つきについて述べた部分は今日でもなお使われている。そのほか、医師の倫理任務などについても重要な指摘・見解を多く述べており、ヒポクラテスの名を一段と高めている。

[大鳥蘭三郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒポクラテス」の意味・わかりやすい解説

ヒポクラテス
Hippokratēs; Hippocrates

[生]前460頃.コス島
[没]前377頃.テッサリア,ラリサ
医聖といわれる古代ギリシアの医師。医者の家に生まれ,ギリシアだけでなく小アジアにも広く旅行して,医学を教えたり,医療を施して,当代最高の医師といわれたという程度しか明らかでない。 60~70巻からなる『ヒポクラテス全集』 Corpus Hippocraticumは彼の没後,前3世紀中にアレクサンドリアの学者によって編集されたもので,解剖学,婦人小児の病気,食餌療法や薬物療法,外科などを扱っており,近代まで医学界に大きな影響を与えた。同全集中の『金言集』 Aphorismiは 19世紀まで教科書として使われ,医師の倫理を説いた「ヒポクラテスの誓い」は現在でも医学部の卒業式などで朗読されている。

ヒポクラテス
Hippokratēs

[生]?
[没]前491/前490. ヒュブラ
古代シチリア,ゲラの僭主 (在位前 498頃~491/0) 。前 498年頃兄クレアンドロスの跡を継いで僭主となると,7年足らずで東シチリアの大部分を征服して支配下におき,シチリアの僭主支配の原型をつくった。ヘロロス河畔でシラクサ軍を大敗させたが,コリントやコルキュラの介入で征服には失敗。前 491/0年頃シクリ人と戦い,戦死。

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