翻訳|herb
それぞれが個性あふれる香りをもち、花、茎、葉、種子、根などが、薬品、食品、染料その他さまざまな用途に用いられ、美容や家事に至るまで人々の生活に役だち、うるおいを与えてくれる有用植物の総称。特有の香りをもつものが多いので香草と訳されるが、香りの強いものばかりとは限らない。ラテン語のherba(緑の草)が語源である。代表的なハーブであるラベンダーがラテン語で「洗う」を、セージが「救済」を意味するように、またディルがノルウェー語の「なだめる」から生まれたように、ハーブが人々の生活といかに深いつながりがあったかは、それらの語源からもうかがえる。ここでは、植物に含まれる成分が生活に役だち有効に利用できるものであれば、ゴボウやニンジンのような一部の野菜も含めてハーブとして扱う。
[森田洋子]
クレソン(ウォータークレス)やセイヨウタンポポ(英名ダンデライオン)のようなミネラルやビタミンを含むハーブは野菜の代用となり、また含まれる成分によっては利尿作用、消化作用、強壮作用、鎮痛作用、消炎作用、抗菌作用などがあるハーブもあり、これらはその特性を生かして薬草(薬用植物)として利用されてきた。ハーブをお茶のように湯で浸出して飲むハーブ・ティーは、色や香りを楽しむだけでなく、ストレス解消にも役だつし、料理の風味や香りづけに用いられるハーブ・スパイスは香辛料として食欲増進、さらには食品の防腐剤としても役だつ。芳香のあるハーブを乾燥させてドライ・フラワーにしたり、ポプリ(香り壺(つぼ))や匂(にお)い袋(サシェ)など香りを利用する小物をつくることもできる。鉢植えのハーブを観葉植物のように部屋に置いておくだけでも、観賞用のみならず芳香が部屋に満ちるなど、生活に役だつ。また、ハーブで布を染めると、素朴な色合いを生み出す草木染めの染料にもなる。美容と健康のためには、ハーブを風呂に入れたり、精油(エッセンシャルオイル。植物の組織中や表面にある香りの袋に含まれる揮発性オイル)を植物油でうすめたものでマッサージすると、体の細胞の活性化を図ることもできる。生のままや乾燥したハーブに湯を注ぎ、冷めたら漉(こ)してビンに詰めれば、オリジナルの化粧水、ハーブ・ローションができあがる。このように人々は多様な用途をみいだし、生活のなかに取り入れてきた。ハーブを生活に役だてるためには、それぞれのハーブの特質とそれにあった使い方をよく知り、有効に利用することがたいせつである。
[森田洋子]
古くから人々は植物とともにあり、試行錯誤を繰り返しながら一つ一つ積み重ねた経験に基づき、その治癒力を発見してきた。「主は地より薬をつくり給(たも)うた」と聖書にもあるように、神から授かったたいせつなものとして植物と薬は一体と考えられていたのである。ハーブについての記録はすでに紀元前5000年ごろの中国、紀元前2800年ごろのエジプトに存在していた。紀元前2100年ごろのバビロニアの古代遺跡から発見された粘土板に書き残された、植物を神に捧(ささ)げる絵模様からも、宗教儀式、病気の手当、悪魔払いなどに用いられていたことがうかがえる。古代エジプト人たちはハーブを神から与えられた植物としてたいせつに扱い、「聖なる植物」として神に捧げ、衣類や唇までハーブで染めていた。古代アラビアの狩人たちにとっては、獲物の保存のための防腐剤として必要なものであった。古代ギリシアでは、エジプトから受け継がれた知識がベースとなり、医学の基礎を築き始めていくことになる。紀元前5世紀ごろのギリシアの学者で医学の祖とよばれるヒポクラテスは、ハーブによる治療法を400種も考案していたといわれる。植物学者であり哲学者でもあったテオフラストスによって書かれた『植物誌』9巻や、1世紀後半の皇帝ネロの軍医で植物学者でもあったディオスコリデスの薬草学に関する書物『薬物誌』には、600種もの植物の薬効が記録されている。オリエントの人々は、ハーブには悪魔から身を守ってくれる力があると信じ、「お守り」としてつねに身につけていた。ヨーロッパにペストが流行したときには、その殺菌力を利用し、街中をハーブで焚(た)きしめて菌を追い出した。このように、自生している草花や木の実などを生活のなかに取り入れることで植物の不思議な力を発見し、それぞれの植物のいちばん適した使用法を人々は身につけてきたのである。中世には、修道僧がこれらの薬草療法を守り続け、知識保存のために手書きで本を写し取り、修道院の庭でハーブを育て、薬をつくり始めた。15世紀なかば、印刷技術の発明によってその知識伝達が容易となったハーブの世界は、大いに前進してゆくことになる。
1629年、イギリス国王ジェームズ1世の薬剤師だったジョン・パーキンソンは、庭づくりの本を出版してハーブを料理や家事に必要なものとして紹介し、生活のなかに生かす術を広めた。1652年には、占星学者のニコラス・カルペッパーが薬草に関する本を出版し、医者にみてもらえない人々のために、野生のハーブの知識とその処方を公開した。人々のハーブに対する関心が高まり、修道僧のなかにも、薬店を開業する人が出現した。彼らは自らが医療に用いるハーブを育てながら園芸と医学を広め、それぞれのやり方で薬を調合していたのである。これは1886年、ロンドンでハーブ取扱い者(ハーバリスト)の資格制度ができるまで続いた。
17、18世紀と、花やハーブを用いた庭園づくりに情熱を傾けたイギリスでも、19世紀のビクトリア朝のころにはハーブに対する関心が薄らいでいた。また、1806年ケシからモルヒネの単離物質がつくり出されるなど、有機化学の研究が医療の方向を変え始めていた。改めて人々がハーブを見直し始めたのは1960年代のことである。合成薬剤の副作用が問題となり、昔からの伝承療法が見直されるようになったのである。人々は、料理、ポプリ、美容、染色などの材料となり、しかも簡単に家庭で育てることのできるハーブを見直し、自分で育てる楽しみを知った。香りへの興味、健康志向、さらには生態学的なバランスや汚染のない自然を求める人々の関心の増大という事情もあろう。古人の知恵の膨大な蓄積が、新しい発見を伴って、いま生活のなかによみがえってきたのである。
[森田洋子]
昔から人は体調を崩すと、野山にある草を症状に応じて探し出して利用してきた。虫に刺されるとオオバコの葉をすりつぶして塗り、その浸出液は去痰(きょたん)を助けた。ウルシにかぶれるとクリの葉を、食中毒の際にはサクラの樹皮を煎(せん)じ、ヨモギの葉は止血剤として重宝したであろう。安土(あづち)桃山時代末期、李時珍(りじちん)の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』が中国からもたらされたことで民間療法が広まった。やがて江戸時代末期になると、ヨーロッパのハーブが西洋医学として日本に入ってくることになる。
食生活においても、中国の人たちがあらゆる食材の薬効を研究し、記録に残してきたように、ヨーロッパの人たちもまた、生野菜の薬効を考え、サラダとして食する習慣を身につけた。日本人は、山菜や薬草を食しながらもその効能には気づいていなかったようである。四季がはっきりした日本において、香りの季節感を味わうことのほうに重点が置かれていたためであろう。『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』に、日本にはいろいろな香辛料があるのに、人々はその利用法を知らない、と記されているように、大陸の狩猟民族であった人々の間では肉のくさみ消しに必要不可欠であったハーブが、農耕民族である日本人の食生活にはあえて必要とされず、人々は意識しなかったのかもしれない。
しかし日本にもハーブとよべるものがたくさん存在し、その代表格のシソは、奈良時代から利用されていたという記録が残っている。日本人の味覚にあうシソは数多くの料理に添えられる。その種子は縄文遺跡からも発見されている。刺身に添えるワサビが魚の毒を消すように、吸い物に浮かべるミツバの香りは消化を助けてくれる。ゴボウも、ヨーロッパではハーブとして扱われ、血液浄化、利尿、緩下、尿酸を排出する作用があるとされ、リウマチ、痛風の薬となっている。葉は挫傷(ざしょう)のパップ剤、また根や葉の煎液は扁桃腺(へんとうせん)炎、口内炎の際のうがい薬、あせも、かぶれ、湿疹(しっしん)には粗く刻んだ根や葉を布袋につめて入浴剤にしてもよい。浸出液は抜け毛防止剤にもなるなど、その評価は高い。
わが国における自然志向、健康志向の高まりは、われわれの目を世界の植物や健康法に向けさせ、世界のハーブが生活のなかに入ってきた。そのため、日ごろ知らず知らずに食してきた野菜や薬草がハーブだったことに気づき、改めて身の回りにある日本のハーブや昔からの伝承療法、食生活が見直されることになった。
[森田洋子]
ハーブには数多くの利点があるが、ハーブが暮らしにもたらす喜びもその一つである。ハーブを庭で栽培したり、室内で鉢植えにしたりすると、さまざまな香りが漂い、優美な色彩があふれ、暮らしが豊かに潤う。しかも、私たちの知らないうちに、健康に役だっていたりする。ハーブを入手するには、栽培しているハーブ園をはじめ、ハーブ、スパイス、またその関連商品を販売している専門店やデパートで、種子あるいは苗の形でほとんど手に入れることができる。そのほか料理用のハーブは、八百屋(やおや)やスーパーマーケットの野菜売り場で、また鑑賞用のものは園芸店でも入手できる。以下に、日々の暮らしのなかで使われるハーブの利用法とその効能について述べる。
[森田洋子]
古代エジプトの女王クレオパトラは、バラの花びらを贅沢(ぜいたく)に浮かべた風呂に入り、バラの花びらから抽出した油を湯上りの肌に塗ったという。衰えた肌をバラ浴で若返らせることができることも、保湿効果があることにも気づいていたらしい。またハンガリーの女王エリザベートは、高齢になって容色が衰え、リウマチに悩まされたが、ある特効薬で見違えるほど肌は美しくなり、足の痛みも和らぎ、頭脳までも明晰(めいせき)になったという。その特効薬が、のちにハンガリー・ウォーターとして知られる香水になるが、その主成分はローズマリーであった。このような逸話からも知れるように、昔からハーブはボディーケア(体の手入れ)に利用されてきた。17世紀から18世紀にかけて、鉛白などを用いて肌を白くするといった危険な方法がとられた時期もあるが、やがて自然化粧品が注目され、花やハーブを用いた化粧水などは各家庭で手作りされるようになり、それは20世紀に化粧品製造が事業化されるまで続いた。化学物質のような危険性のないハーブは、清浄作用だけでなく、デオドラント効果(防臭・脱臭)を備え、肌を自然な酸性に保ちながら老化を防ぎ、さらには栄養補給をしてくれる。ラベンダーなどのように、肌のしみ、吹き出物、傷などに対する治癒力を備えているものもある。以下に、ハーブを使ったボディーケアの例をいくつかあげる。
(1)スキンケア 脂性肌には、アストリンゼント(収斂(しゅうれん))効果のあるハーブを選ぶ。アストリンゼント・ハーブは、肌をひきしめ、毛穴を閉じ、肌の損傷の治癒を促す。乾燥肌には保湿効果のあるエモリエント・ハーブ(柔軟化ハーブ)を用いる。これは肌の表面の荒れを防ぎ、柔らかなしっとりした肌をつくる。敏感な肌の人は、チャービルなどのように刺激性の少ないハーブを選び、アレルギー反応に注意しながら使用するなどの慎重さが必要である。浸出液は、ミネラルウォーター500ミリリットルに対して、ハーブ10~20グラムで調製し、漉(こ)して冷蔵庫で保管する。バラ水、ラベンダー水も利用できる。手足のあれや気になるしみの部分に塗ることができるマッサージオイルは、ホホバ油10ミリリットルに対しローズマリー精油4滴で調製する。
(2)ヘアケア 髪には、失われた脂分を補い、しなやかさとつやを取り戻すための手入れ(コンディショニング)が必要である。ハーブの多くはクレンジング(洗浄)効果とコンディショニング効果を備えているため、シャンプー剤として用いることができる。液は、サポニン(泡立ちやすいせっけん状の物質)を含むソープワート(シャボンソウ)の茎を2センチメートルぐらいにカットしたもの10本を、水500ミリリットルをベースにして、つやのない黒髪にはローズマリー、ヘアダイした髪にはカモミール(カミツレ)など、自分にあったハーブを加えてつくる。また、ローズマリーの濃いめに出した浸出液や精油などをすすぎ湯に加えて、シャンプー後のリンスとして用いる。
(3)口腔(こうくう)衛生 清浄作用、消毒作用の特性をもつハーブは口腔衛生に適し、気になる口臭予防の役割を果たしてくれる。ニンニク臭はセージ、タイム、ミント、アルコール臭はカルダモン、セージ、生理時の口臭はクローブ(チョウジ)、クロフサスグリの葉、虫歯の予防はオレガノ、歯を白くするのはセージ、レモンの皮、歯垢(しこう)をとるのはイチゴ、パセリが有効である。いずれも生葉(皮)のままガムのように噛(か)むとよい。歯みがき粉として用いるにはセージかハコベ一つかみをみじん切りにし、ハーブ2に対し1の割合で塩を加える。160℃のオーブンで約20分加熱し、冷めたらすり鉢でよくする。きめ細かくするなら、さらに10分オーブンに入れ、ふたたびよくすり、粉状にする。
(4)その他 ほとんどのせっけんはアルカリ性なので、肌の自然な酸度のバランスが崩れ、肌がつっぱったりヒリヒリしたりするが、ハーブせっけんは肌に優しく、そのようなことがおこりにくい。作り方は、無着色・無香料のせっけんを用い、粗く削ってボウルに入れる。ラベンダー、バラ、カモミール、ミント、ローズマリーなど好みのハーブを選んで浸出液をつくり、30分ほどしてからボウルに浸出液を漉しながら注ぐ。煮立った湯で湯煎(ゆせん)にし、かき回しながらせっけんを溶かす。滑らかになるまで泡立て、そのハーブの精油を加えて攪拌(かくはん)する。容器に移して冷まし、固まるまで乾燥した場所に置いておく。
[森田洋子]
ハーブが精神に大きな影響を与えることはよく知られている。メディカル・ハーバリスト(ハーブ療法士)などにより、長い間実験が重ねられ、ハーブの精神的効用が立証された。それはリラックスの効果と同時に、神経系を刺激して高揚させる働きをするのである。またアロマコロジーということばは、香りを意味するアロマaromaと、心理学を意味するサイコロジーpsychology、生態学を意味するエコロジーecologyを合成したものであるが、これは香りの生態学的・心理学的効果の研究・応用を意味する。ラベンダーの香りをかぐことで、リラックスしたときにみられるα(アルファ)波や徐波などの脳波が多く出たり、レモンの香りによって集中力が高まるなどの効用が知られ、人間環境のなかに香りを取り入れ、その香りがもつ効果を応用しようとするのがアロマコロジーである。また、アロマaromaと、療法を意味するフランス語、テラピーthérapieを合成したアロマテラピーaromathérapie(英語ではアロマセラピーaromatherapy)は、芳香療法を表すことばで、植物の精油を使った自然療法のことをいう。これは、本来人間がもっている自然治癒力を高めようとするものである。このような療法を専門的に行う人はアロマテラピストまたはアロマセラピスト(芳香療法士)とよばれる。
ハーブを使ってリラックスした気分を味わうには、ハーブ湯がいちばん手軽な方法である。生葉あるいは乾燥したハーブを袋に詰めて風呂に入れると、精油が湯に溶け出し、皮膚を通して血液の流れに入り込むことになり、心地よい入浴剤となる。乾燥したハーブであらかじめ浸出液をつくり、漉した状態で風呂に入れてもよい。また、ホップに含まれるルプリンという催眠作用のある物質をうまく利用したのが、ホップ枕(まくら)である。モスリンで小さな袋をつくり、その中に軽くホップを詰めて、枕の横に平たくして置く。ホップに混ぜるハーブは、乾燥ライム、レセダ、乾燥させて粉々にしたマージョラム(マヨラナ)、レモンバームなどがよい。
[森田洋子]
現代のように化学製品がなかったころ、暮らしのなかのさまざまな場面に必要な家庭用品を、人々は自然界のなかから探し出してきて使った。それらは有害な化学合成物質を含まず、簡単な材料でつくることができる自然製品である。以下に、その特質を利用して古くから家庭用品として使われてきたハーブの使用法を記す。
(1)衣類の汚れをとる 19世紀末までフランスの家庭で用いられていたハーブにソープワートがある。これは、葉に含まれる成分のサポニンが穏やかな洗浄力をもち、繊維を傷めないとして、古い織物を修繕する人たちの間では現在も使用され続けている。はじめに乳鉢の中で葉をつぶして鍋(なべ)にあけ、雨水か湧(わ)き水、炭酸の入っていない市販のミネラルウォーターなどを注いで浸し(水道水は添加物が含まれるため使用しない)、20~30分煮出せば洗濯用の洗剤ができあがる。次に汚れた布を冷水に浸し、冷やしたソープワート洗剤でそっと洗い、冷水ですすぐ。アンティーク・レースなどの傷みやすい布地の洗濯に適している。ソープワートの根も使用することができる。コミヤマカタバミは多量のシュウ酸を含むため、その抽出液は天然の漂白剤として使われ、葉の絞り汁は、さらしやリネンに付着したさび状のしみを抜くことができる。
(2)香りづけ ハーブの香りを利用して、衣類やリネンに香りを添えるには、ハーブの匂い袋を使う。袋には香りのよい花弁や葉を組み合わせて入れたり、ポプリ用のハーブを組み合わせて入れてもよい。ラベンダーの匂い袋には、ラベンダー油を2~3滴加えて、乾燥ラベンダーの花の香りを強める。ポプリや匂い袋は、トイレなどに置くのもよいが、戸棚や衣装ダンスに入れると香りが中に広がる。
(3)鍋の汚れをとる 二酸化ケイ素を含むトクサを磨き粉に、スギナをタワシとして使用すると、金属製の鍋の汚れを落とし、光沢を出すことができる。化学研磨剤特有の臭いもない。
(4)家具や床を磨く シェークスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』のなかに、精油やハーブで椅子を磨く話が登場するように、16世紀のころからヨーロッパの家々では、バラ水やローズマリー水で床をふき、レモンバームやマージョラムで家具を磨いていた。このように、ハーブは木製の家具や床のつや出しにも効果がある。また、傷ついた家具の手入れには、クルミの実の切り口を傷の部分にあて、何度もすり込み、そのあと乾いた布でていねいにふくとよい。傷を隠すだけでなく、良質のつやを出す効果がある。みつろうと純正のテレビン油、ハーブの精油を混ぜ合わせた家具用のクリームを、ヨーロッパではそれぞれの家庭で主婦が手作りしていた。また、室内でローズマリーやジュニパー(セイヨウトショウ、ヨウシュネズともいう)を焚けば、殺菌、消毒、消臭に効果がある。
[森田洋子]
長い歴史を通じて人々がハーブを用いてきた理由の一つは、古代エジプト人たちがハーブで部屋を薫らせたように、その芳しく清らかな香りの魅力である。人々は香りのある草を床の敷き草として用いて芳香を楽しみ、またそれらは同時に病気を予防するための空気清浄剤としての役割も果たしていた。病気が空気とともに家に侵入してくると信じられていたので、家の鍵穴(かぎあな)にまでハーブを詰める人もいた。現代の私たちの生活でも、本棚に入れたハーブはかび臭さを消し、食糧棚の中に入れることで防腐・防臭効果により食品の鮮度を保つことが期待できる。また、古代人はハーブの香りが心身に与える影響についても関心を示し、来客に与える花冠に生気を生むというマージョラムを用い、食卓には食欲の出るミントの香りをつけてもてなした。このような利用のしかたも私たち現代人の参考になる。以下に、このほかの香りを利用した小物の例をあげてみよう。
(1)ポプリpot-pourri 中世ヨーロッパの宮廷の貴婦人たちは、庭で育てた花やハーブでポプリをつくり、沈香壺(じんこうつぼ)(中に香料を入れてしばらく置き、芳香が満ちたころに蓋(ふた)をとり室内に香気を放つために使われた壺)に入れ、その芳しき香りを室内に漂わせて楽しんだ。ポプリは、その原型ができたのは16世紀イギリスのエリザベス1世の時代といわれている。インドへ、そして新大陸へと勢力を広げたイギリス繁栄の時代、王家の貴婦人たちは花やハーブを育て、当時は高価だったスパイスを世界各地から取り寄せ、それらをブレンドして秘伝のポプリをつくり、室内に薫らせていたのである。ポプリは乾燥させてつくるドライポプリと、生の花を粗塩に漬けてつくるモイストポプリの二通りの作り方がある。ドライポプリの作り方の一例としては、たとえばバラの花びらやラベンダー、カモミールやマージョラム、スパイスのクローブやカルダモンなどに、樹脂の安息香やイリス(アイリス)の根などを保留剤(精油および香料の成分が揮発して逃げ去るのを防ぐもの)として加え、よく混ぜ合わせたあと2週間ほどねかせてできあがる。
(2)ポマンダーpomander 匂い玉のこと。ポマンダーはフランス語のポムpomme(リンゴ)とアンバーグリスambre gris(竜涎(りゅうぜん)香)が一語になったものである。古代、中世においては、ペストのようにノミ、シラミなどの媒介によって感染する疾病も、かぜなどの空気伝染をする感染症と同じように汚れた空気を通じて感染すると考えられていたので、貴族たちは疾病予防のために穴のあいた金や銀の細工物にスパイスやハーブを差し込んで持ち歩き、腐敗した空気から身を守ろうとした。伝染病患者と接する機会の多かった聖職者や医者たちは、オレンジやリンゴの表面を完全に覆うようにクローブを一面に刺し、香りを定着・乾燥させた素朴なポマンダーを手作りして身を守り、それはやがて一般人の間にも広まっていった。悪魔や伝染病から身を守るためのお守りのようなものである。小さなポマンダーに紐(ひも)を通せば、ネックレスとしても用いることができる。作り方は、まずバラの花びらを乳鉢の中でつぶし、バラの精油を少し加え、ペースト状になるまで練る。形を整えてから自然乾燥させ、完全に固まる前に針で穴をあけ、紐を通す。これを身につけると体温で温められ、薫るのである。
(3)タッジーマジーtussy mussy ハーブの花を用いてつくる携帯用の小さな花束で、その原型はコサージュ(婦人服の胴部のことだが、胸や肩につける小さな花束をも意味する)や贈り物に添える花束である。15世紀、ロンドンの街角では、悪臭を消すために、人々は外出の際にはタッジーマジーを持ち歩いていた。そしてイギリスからアメリカへ渡った人々の間で、4年に一度の2月29日に、ワスレナグサ(忘れな草)のタッジーマジーを親しい人に贈るのが習慣となり、しだいに広まっていった。
[森田洋子]
植物を用いた染色技術は、中国で紀元前3000年ごろ、インド、エジプトでは紀元前2500年ごろにすでに存在していた。その技術は、やがてギリシア、ローマへと伝わり、染料に用いるためのハーブを人々が栽培していたことが記録に残されている。初期の染色は、果物の汁や花の汁、それに葉や根の煎じ液などで色をつけた簡単なものであったと思われる。中世に中断されていた染色技術は、13世紀になってようやくイタリアで復活した。16世紀にはフランスがインドから専門家を招いて染色に力を入れ始める。しかし1856年、コールタールから薄紫色の合成染料がつくり出されたことがきっかけとなり、安価で使いやすく、つねに同じ色に染まるなどの利点が商品化に適していたため、さまざまな化学染料が用いられるようになった。ところが20世紀になると、自然志向の高まるなか、ほとんどすたれていた植物染料が、その微妙な優しい色合い、かすかに残る芳香、虫がつきにくいといった多くの魅力とともによみがえった。
ハーブの抽出液は、沸騰するまでは強火で、その後は徐々に火を弱めて煮出し、染液をつくる。抽出液は酸化しやすいので、つくり置きをするのではなく、染めるときにつくるようにする。染色には、市販品か自家製のドライ・ハーブ(乾燥ハーブ)、または生のハーブのいずれも使用できる。媒染剤は色落ちを防ぎ、染料を定着させるために必要で、古くから木炭、塩、酢、ヨーグルトなどが用いられていた。現在は焼ミョウバン、木酢酸鉄、酢酸アルミニウム、酢酸銅などが市販されている。
[森田洋子]
18世紀のころからインドの人たちに利用されていたパチョリ(シソ科の多年草、英名パチュリー)は、やがて東西間で交易が頻繁に行われたことでヨーロッパに入り、そのエキゾチックな香りと防虫効果が人気をよんだ。パチョリの葉には咲いているときには匂わないが、本体の枝から離れて初めて強い香りを放つ特性がある。葉を乾燥させ、布袋に詰め、衣装ケースに入れておくと虫がつかない。またジョチュウギクは自然の強力殺虫剤である。干して粉末にしたジョチュウギクは、多くの昆虫をすばやく麻痺(まひ)させる。哺乳(ほにゅう)類に対する毒性はないが、皮膚に長時間付着するとかぶれが生じる。さらにレモングラスはシロアリ退治、クルミの葉はアリ退治、ゼラニウム(ローズゼラニウム)はハエ退治、ワームウッド(ニガヨモギ、アブシントソウともいう)はガよけのハーブとして利用されている。
[森田洋子]
ハーブには多くの薬効成分や栄養成分が含まれており、それらはハーブが料理の材料として、あるいは直接医薬品として用いられることにより、人々の健康維持に重要な役割を果たしてきた。ここでは、料理用と医療用に分けてその利用法について述べる。
[森田洋子]
昔から人々はその有用な特性についての知識をもたなくても、人間の知恵で野にあるハーブを食べてきたに違いない。もともとハーブが料理に利用されるようになったのは、香りそのものが珍重されたからというよりも、消化を助け、食物の保存に役だつ作用があったからである。消化を助けるという点では、精油がもっともたいせつな成分である。マージョラム、ペパーミント、ローズマリーなどのシソ科植物、キャラウェー、パセリのようなセリ科植物にたくさん含まれている。これらは、消化管の粘膜を滑らかにし、蠕動(ぜんどう)運動を活発にし、胃腸の膨満を抑える作用があり、また駆風薬(消化管内のガスを出す薬)としても用いられている。
料理用のハーブには、タンニンや苦味質、その他の薬理学的な有効成分も含まれている。過去においては、腐りかけた食糧のにおいを消すために、あるいは胸やけを防ぐためにハーブが活用され、またその防腐作用は冷蔵庫がなかった時代には人々の生命維持に重要な役割を果たしてもいたであろう。ハーブに含まれる薬効成分や栄養成分は、人々の健康上、大いに役だってきた。薬効では、たとえばニンニクはコレステロールや脂肪を減らして血圧を下げる。またセージは口内炎を防ぐ。栄養成分では、セイヨウタンポポ(ヨーロッパには栽培品種がある)の葉はビタミンA、チコリーはカリウム、コンフリーはほかの野菜に欠けているビタミンB12、パセリはカルシウム、クレソンはビタミンCなどが含まれている。これらはサラダに混ぜるなど直接食べてもよいが、他の調味料と混ぜるなどハーブを加工して料理に利用することもできる。以下にその例を示す。
(1)ハーブペースト バジル、青ジソ、タラゴンなどの葉を、オリーブ油に浸しながらミキサーやすり鉢でペースト状にしたもので、好みにより、松の実、オリーブの実、ニンニク、アンチョビー(カタクチイワシの塩蔵品)、ケイパー(フウチョウソウ科の低木。つぼみを酢漬けにしたものを普通、ケイパーという)などを加える。パスタ料理、ドレッシング、ソースの風味づけに用いられる。
(2)ハーブバター バラの花びら、ラベンダー、チャイブ、ホースラディッシュ(ワサビダイコン)、パセリとレモン、タイムなどを、室温に戻しておいたバターにそれぞれ混ぜ合わせたもので、冷蔵庫で保存する。バラのバターはトーストに、チャイブやパセリのバターは焼き魚に、チャイブやホースラディッシュは肉料理に添える。
(3)ハーブソルト 乾燥させたハーブと塩を混ぜたもので、貯蔵しておくと料理に重宝する。
(4)ハーブビネガー 白ワインビネガー、赤ワインビネガー、リンゴ酢など、好みのビネガー(酢)に水気をきったハーブを漬けたもので、マリネやドレッシング、ソースづくりに利用する。
(5)ハーブシュガー ラベンダーの花びら、ローズマリーの花びら、レモンバームの葉などを乾燥させてグラニュー糖と混ぜたもので、紅茶に入れたりケーキづくりに用いる。
[森田洋子]
ハーブにはそれぞれ微妙な香りがあり、その香りにはそれぞれ相性のよい食物がある。初めは一つの料理に1種のみを用い、慣れてきたらいくつかを組み合わせてみるのがよい。よく知られている料理用混合スパイス、たとえばフィーヌゼルブ(数種のハーブをそのまま束ねたり布袋に入れたりして料理に用いるもので、その組合せはパセリ、チャイブ、チャービル、タラゴンなど)、ブーケガルニ(同じくその組合せはタイム、マージョラム、パセリ、ローレルなど)のような一般的なものを使ってみるのもよい。これらは料理にまろやかな風味を加える。混合スパイスは、地方独特の香りをかもし出す場合もある。カルダモン、クミン、黒コショウ、クローブ、ナツメグ、シナモンなどを組み合わせたガラム・マサラはインドの香りであり、南米産トウガラシの粉末をベースにしたチリーパウダーは刺激のあるスパイスを混ぜ合わせたメキシコ風の香りである。また何種類かのスパイス(アニスの種子、花椒(かしょう)、フェネルの種子、クローブ、シナモン)を挽(ひ)いて混ぜ合わせた五香粉(ウーシャンフェン)(単に五香ともいう)は中国の香りである。料理用のハーブやスパイスはうまく調和させつつ変化をつけて組み合わせるとよい。使い方は、生や乾燥したもの、丸ごとあるいは挽いたものなど、数限りなくあるので、料理法とともにいろいろ試みて利用する。以下に、相性のよい料理・食材とハーブとの組合せをあげる。
(1)魚料理
・白身魚 バジル、チャイブ、フェネル(フェンネル、ウイキョウ)、マージョラム、パセリ
・エビ ディル、タラゴン
・カニ セージ、タラゴン、タイム
・そのほか フェネル、タイム、レモングラス
(2)肉料理
・牛肉 オレガノ、チャイブ、セイボリー、マージョラム
・豚肉 ラベンダー、セージ、ローズマリー、セイボリー
・鶏肉 ローズマリー、タイム、タラゴン
(3)卵料理
・オムレツ チャイブ、パセリ、タイム、タラゴン、チャービル、マッシュルーム、パセリ、ミント
・スクランブルエッグ バジル、タイム
(4)野菜料理
・サラダ ボリジ、サラダバーネット、ナスターチウム(キンレンカ)、クレソン、セイヨウタンポポの葉、ロケット
・トマト バジル
・ニンジン カーリーミント
・カリフラワー ミント
・キュウリ ミント、ディル
[森田洋子]
過去において、病気の治療薬は植物が中心的な地位を占め、ハーブが大いに利用されてきた。病気は悪霊が宿ったためと考えられていたので、ルネサンス初期まで医療と宗教は一つに結びつけて考えられ、宗教上の指導者はハーブを用いた医師であり、呪術(じゅじゅつ)師でもあった。キリスト教世界においても、やがて教会の権威が弱くなり、医学は科学として発展していくことになる。ヨーロッパ大陸では静かにハーブ療法が民間に伝承され続けたものの、北アメリカやイギリスなどでは一時的にすたれてしまった。ふたたびハーブ療法への関心が示されるようになってきたのは20世紀後半になってからである。
ところで、昔からの伝承療法とはいえ、ハーブを用いての治療法すべてを完全に理解するには、薬学、それぞれのハーブの特性、化学成分を知らないと、事故につながりかねない。たとえば、片頭痛を和らげるとされるフィーバーフューは、その主成分であるセキステルペン・ラクトンが毛細血管のけいれんを止める働きをすることでその効果を表すが、長時間使用すると口に潰瘍(かいよう)ができるといった知識が必要とされる。また妊婦が使用すると流産のおそれがあるハーブも多々あり、注意しなければならない。
ハーブから家庭治療薬を調剤するには、用いる直前に調剤すること、12時間以上保存しないこと、化学反応をおこす場合があるのでアルミ鍋は使わないこと、などの細かい点にまで注意をはらう必要がある。前述したように、ハーブは本来人間がもっている自然治癒力を高めるための手段として用いるのが理想であり、病気の治療そのものは、素人療法、素人判断を避け、専門家や医師と相談すべきである。ハーブの治療薬には、微量元素やビタミン、薬効成分が含まれていて、その効きめは穏やかで調和がとれているので、自らの回復力を応援しようとする治療法としては理想的である。以下に、ハーブを用いた治療薬の調剤法と効能について記す。
(1)浸剤 花、葉、茎、根などに熱湯を注ぎ、水溶物質を抽出する方法。密封できる蓋付きの陶器、ガラスの容器などに25グラム(乾燥ハーブを用いる場合は10~15グラム)のハーブに対し500~600ミリリットルの湯を注ぎ、漉した液をぬるま湯になるまで冷まして服用する。1回の服用量は1カップまでとする。温湿布として用いる場合は、温かいままタオルに浸し患部に当てる。ハーブを湯に浸す時間は、ミントは3~5分、ゴボウの根は10分とそれぞれ微妙に違う。また、やわらかなクレソンなどは初めからぬるま湯を注ぐ。浸剤として用いられるハーブのおもなものは以下のとおりである。
・かぜ ショウガの根、ミントの葉
・咳(せき) タイムの葉
・貧血 セージ(コモンセージ)、ヒソップの葉
・高血圧 ニンニク、ラベンダーの葉
・低血圧 ローズマリーの葉
・打撲・捻挫(ねんざ) ヒソップ、マリーゴールドの葉の浸剤で温湿布する
・切り傷 カモミール、マージョラム、ローズマリー、セイボリー、マリーゴールドの葉の浸剤で患部を消毒する
(2)煎剤 根、地下茎、枝、種子など、植物の硬い部分を利用するのに向いている。20~30グラムの乾燥させた根などに、水500~600ミリリットルを加え10分ほど浸した後、蓋をしたまま火にかける。材料を煮沸する時間は、植物の熱に対する抵抗力によって異なるが、10~15分が目安となる。煮沸したあとも、蓋をしたまま10分間浸しておく。1回の服用量は1カップまでとする。煎剤として用いられるハーブのおもなものは以下のとおりである。
・咳 タイムの葉
・口内炎 セージ(コモンセージ)の葉
・のどの痛み ヒソップの葉
・貧血 チコリーの根
・気管支炎 チコリーの根
(3)パップ剤 生葉を砕くようにして少量の水と混ぜ、どろどろの状態にし、薄い布かガーゼを用いて患部に貼(は)るか、生葉を直接患部に当てるかする。いずれの方法も長時間は避ける。刺激的なかゆみがある場合はただちにやめる。パップ剤として用いられるハーブのおもなものは以下のとおりである。
・打撲・捻挫 コンフリーの生葉
・虫刺され バジルの生葉、オオバコの生葉
・関節痛 コリアンダー(コエンドロ)の果実
・肌荒れ・発疹 ボリジの生葉
[森田洋子]
ハーブとよばれているものには数多くの種類がある。そのなかで比較的よく利用されるものをとりあげ、以下に説明する。各ハーブにはそれぞれ多くの用途があるが、ここでは便宜的に料理、医療、芳香の各用途に分けて述べる。
[森田洋子]
セリ科の一、二年草でコエンドロともよばれる。ギリシア語のコリアノン(南京虫)に由来しているが、これは葉の臭いを言い表したものである。胃を温め、食欲を増進し、胆汁の分泌を促す効果があることから、料理用のハーブとして葉、種子ともに各国で重宝がられてきた。中国では若苗の茎葉をシャンツァイ(香菜)と称し、不老不死を授ける力のあるハーブとして中国粥(がゆ)のなかに入れたり、スープ、サラダ、油炒(いた)めなどに利用する。タイではパクチーとよばれ、タイ料理のトムヤムクンには欠かせない。熟した種子は風味に富んでオレンジに似た香りをもち、やや苦味がある。種子を粉末にしたものは、インドやスリランカではカレーの基本的スパイスとして、バルカン半島ではパン、ケーキづくりに、ギリシアではワインの香りづけに用いる。
薬草として体を温める作用があるため、リウマチ、関節炎などの痛みの緩和に、また浄化作用により体の中から不必要な毒素、老廃物を取り除くのにも用いられる。「めまい草」の別名をもつように、種子は大量に摂取すると眠気を催すので注意が必要である。健胃、駆虫薬としても用いられる。コリアンダーの精油は、種子からのみ抽出され、香水の材料として用いられる。
栽培に際してはフェネルの近くには植えないようにする。またアニスの近くに種をまくと発芽、生育が早まるといわれている。
[森田洋子]
シソ科の一年草で、サマーセイボリーともいう。和名はキダチハッカ。近縁種に多年草のウィンターセイボリーがあるが、サマー種に比べて風味がきつい。いずれの種類も消化を助け、消毒作用、整腸作用があるとされ、食欲をそそるハーブとして調理に用いられてきた。葉と茎を摘み、そのままパセリのように料理に添えたり、スープ、ビネガー、ソース、ピクルスに入れて香りづけにするのもよい。サラミの風味づけにも欠かせない。インゲンマメ、エンドウなどの豆料理との相性もよく、豆とソーセージの煮込み料理に用いられる。ペパーに似た風味は肉料理、野菜料理などにも適し、塩分を控えたいときの調味料となる。
また渋い香りは、シェークスピアの『冬の夜話』のなかにも出てくるように、男性に贈る香りとされ、いまでは男性用の香水にもしばしば用いられる。乾燥させた花や葉はポプリや匂い袋(サシェ)にし、その消毒作用を利用してリネン製品の引出しなどに入れておくとよい。新鮮な葉は虫刺されの応急処置として、もんで患部に当てると痛みが和らぐ。保存するには、開花直前に葉を刈りとって乾燥させ、容器に入れておくか、冷凍しておく。
栽培に際しては、ウィンターセイボリーは肥えた土を避ける。2~3年すると葉をつける量が減るので、挿木で新しい株をつくるようにする。
[森田洋子]
シソ科の多年草で、和名はタチジャコウソウ。タイムには近縁種が非常に多く、松の香りのアゾリカスはリキュールの風味づけに、ヒメウイキョウの香りのキャラウェイタイムは肉料理に、フルーティーな香りのオレンジバルサムタイムはブーケガルニやフルーツサラダに、レモンの香りのレモンタイムは魚料理にと、香りの特徴を生かして利用するとよい。
タイムは鎮咳(ちんがい)作用、去痰作用がどのハーブよりもすぐれていて、のどの痛みに効果を発揮し、生の木枝を水に浸してうがい薬として利用するとよい。また入浴剤としても利用できる。タイムは古くから勇気、強さの象徴とされてきた。「タイムの香りのする男性」が最高のほめことばとされ、ギリシアやローマの貴族たちは男らしさを強調するのに競ってタイムの香りを漂わせていた。
草丈約5センチメートルのレモンカードやウーリータイムは芝生状に敷き詰め、10センチメートルぐらいの高さのクリーピングタイムやゴールデンクリーピングタイムは庭の縁どりに、またシルバーレモンクイーンは高さ30センチメートルぐらいの小低木なので低い生け垣にするとよい。日当り、排水、風通しのよい場所に植える。多湿と日照不足を嫌うので枝の間をすかすとよい。挿木で殖やす。
[森田洋子]
キク科の多年草。ラテン語のドラクンクルス(小さな竜)、ドラゴンに由来する。根が蛇の形に似ていることから毒蛇にかまれたときの傷の治療によいと信じられていたからである。タラゴンにはペパーのような強い香りを放ち、光沢のある緑の葉をもつフレンチタラゴン(フランスではエストラゴンとよばれる)と、芳香はやや粗雑でより細い葉のロシアンタラゴンの2種がある。タルタルソースの隠し味や粒マスタードに少し加えることで、さらに料理の味を引き立てる。チキン料理やトマト料理、また貝類の料理などのソースにも欠かせない。葉は薬用としてよりも料理の風味づけに重点が置かれるが、独特の風味と苦味を帯びた葉は、薬の苦さを和らげる効果がある。葉はヨード、ミネラル、ビタミンA、ビタミンCなどを多く含み、体内のガスを取り除いたり、消化促進、食欲増進の作用がある。乾燥させるとその効果は失われてしまうので生の葉をつねに利用しなければならない。ビネガーに生葉を漬けて保存すると、効果が維持できるだけでなく、使い道が多いので便利である。心臓病や肝臓病など、減塩が求められる場合の塩の代用としてこの葉を利用するとよい。香りの強い葉は控えめに用い、一度に多くの葉を摂取しないことがたいせつである。
やせていて水はけのよい土壌、日当りがよく強い風の当たらない場所を好む。
[森田洋子]
キク科の多年草で、和名はキクニガナ。青い花がとりわけ好まれるドイツでは、伝説のなかにもたびたび登場し、朝咲いて昼すぎに花びらが閉じることから、花時計としても人々に親しまれてきた。若葉はかすかな苦みがあり、花とともに生のままサラダにするとよい。花は午前中に摘み取り砂糖菓子にする。夏の間十分に栄養を貯えた根を秋口に掘りおこし、コーヒー豆の大きさにカットして一晩水にさらしアクを抜く。水をきり乾燥させ焙焼(ばいしょう)すれば、ノンカフェインのチコリーコーヒーができる。
アンディーブとよばれる軟白栽培された葉球は、生のままサラダにしたり、オリーブオイルで炒めたりする。葉球をつくるには秋に根を掘り、葉を落とし、湿った土の入った深い箱に入れ、上から砂をかぶせて光を遮断する。約1か月ほどして葉球の先が少し顔を出したら収穫できる。白菜を小さくした形をしている。
チコリーは、古代ギリシアの医師ガレノスが「肝臓の友」とたたえたように、胆汁の分泌を促し、また体内から尿酸を排出させる。その利尿作用のためにリウマチや痛風の治療にも用いられる。葉は貧血症や気管支炎に効きめがあるのでハーブ・ティーとして飲むとよい。炎症を抑える作用があるので湿布剤としても利用できる。
栽培に際してはアルカリ性の土壌に植える。また苗を植える際に、根の生育の妨げにならないように深く掘ってやるとよい。
[森田洋子]
セリ科の一年草で、フランスではセルフィーユとよばれている。アジア西部が原産で、ローマ人によってヨーロッパにもたらされ、料理には欠かせないものとして「美食家のパセリ」とよばれるようになった。フィーヌゼルブやラビゴットソース(フィーヌゼルブとケイパー、アンチョビーを混ぜ合わせ、レモンの絞り汁とオリーブ油を加え、ペパーで味を整えたもの)の風味づけに使われるため、とくにフランス人の食卓には欠かせない。さわやかな風味とアニスシードに似た甘さは、肉や魚に加えると独特の風味になり、オムレツなどの卵料理との相性もよい。葉を刻んでサラダに入れたり、ドレッシングの風味づけに用いる。パセリのように細かく刻んでふりかけることもできるし、葉姿のまま料理に添えるだけでもその姿は美しい。
チャービルビネガーは花が咲いたあとの種子をワインビネガーに漬けてつくるが、しゃっくりが止まらないときに思わぬ効果をもたらす。新鮮な葉のお茶は肝臓や循環器系に効果があり、かぜの際の解熱、発汗を促し、血圧を下げる効果もある。抽出液は疲れた肌に張りをとりもどすためのローションにもなる。
新鮮な芳香を維持するため、風通しのよい涼しい日陰で育てる。移植を嫌うので直播(じかま)きして間引くようにする。つねに水やりに気をつけ、土を乾燥させないことがたいせつである。乾いた土の状態が続くと、葉は赤味を帯びて使えないので注意が必要である。花芽が出たらすぐ摘みとるようにすると、いつでも新鮮な葉を維持することができる。
[森田洋子]
シソ科の一年草で、和名はメボウキであるが、イタリア名のバジリコで親しまれている。ギリシア語のバジリコン(王の薬剤)に由来し、王室の薬草として扱われていた。インドの人たちは蛇に噛まれたりサソリに刺されるとバジルの葉を絞ってその青汁を飲むという。マラリアにかかった人の解熱にさえこの青汁を用いたといわれるぐらい、発汗、解熱効果のあるハーブである。日本では江戸時代から栽培されていて、バジルの種子を目に入れると水分でゼリー状の物質が浸出し、目のごみを取り去ることができるために、メボウキとよばれて利用された。
トマトとの相性に気づいたイタリア人によって料理に使われ始め、もっとも一般的なスイートバジル以外に、紫色の葉をもつダークオパールバジル、レモンの香りのするレモンバジル、広葉のレタスバジル、さざなみ葉のグリーンラッフル、庭の縁取りに適したブッシュバジル、シナモンの香りのするシナモンバジル、クローブの香りのタンブルバジルなど50種類以上の品種が栽培されるようになった。それぞれに香りが微妙に異なり、園芸種としても人気がある。
新鮮なバジルの葉はニンニクや塩味で整えた料理の味をさらによくするため、サラダ、スープ、トマトを使った肉、魚料理などに用いられる。とくにイタリア料理のスパゲッティ、ピッツァのソースには、かならず使われる。オリーブオイルに葉を漬け込んでおくと、いろいろな料理に香りを添えて楽しめる。葉を4~5時間浸したワインは、強壮剤として飲まれることもある。バジルに含まれる成分オイゲノールがもつ防腐作用のために食品の保存剤としても使われる。
栽培には水はけと日当りがよくやや湿った所が適する。春に種子を播き、苗を畑に定植するが、春から夏にかけて畑に直播きしてもよい。寒さに弱く、霜にあうと枯れてしまう。トマトの近くに植えると、虫を寄せつけない効果が期待できる。
[森田洋子]
セリ科の多年草で、フェンネルともいう。和名はウイキョウ。葉がブロンズ色になるブロンズフェネル、球根状に肥大した葉柄のつけ根を食用にするフローレンスフェネルなどの種類もある。フェネルを料理に用いることを思いついたのはイタリア人で、いまも家庭料理に使われている。花、葉、種実とも食用になる。葉は魚に含まれる有害な粘液を取り除くことから、魚を焼くときにのせたり、魚の腹の中に詰めて料理される。肉の煮込みやソースに混ぜると風味が増す。球根状の根茎は生のままサラダに、またオーブン料理や煮物でも利用できる。身体を温め、食欲を刺激し消化を助ける働きがある種子は、パンやケーキの風味づけにも用いられる。
フェネルの特性である利尿作用は、肥満の人に、また腎臓・尿路結石の人にも効果を示す。葉の煎じ液は、疲れ目の湿布液になる。目薬のハーブともいわれ、本草家(ほんぞうか)たちは視力がよくなると考えていた。中世の人々は、フェネルを家のドアにぶらさげたり、寝室の鍵穴に詰めると、どんな魔力からも守られると信じていた。ポプリやドライ・フラワーにも適している。
移植を嫌うので、日当り、風通し、排水のよい肥沃(ひよく)な場所に直播きする。雑種の発生を避けるため、ディルの近くには植えない。トマトや豆類とは相性が悪く、近くに植えると成長を妨げるといわれている。
[森田洋子]
キク科の一年草で、和名はカミツレ。ギリシア語のカマイ・メロン(大地のリンゴ)に由来し、その名のとおりリンゴの香りがする。カモマイルともいう。一般にカモミールとよばれるのはジャーマン・カモミールで、そのほかローマン種、ダイヤーズ種、ノンフラワー種など多くの種類がある。カモミールの仲間は、ほかのハーブよりも毒性が少ないため、古代より人々に利用されてきた。聖なるハーブとして太陽神ラーに捧げてきたエジプトでは、熱病の薬として扱われていた。発汗作用があるため、かぜをひいたときにも有効である。少量月経、月経困難、更年期障害などの女性の病気にも効果があることから、ドイツでは「母の薬草」といわれている。リウマチ、筋肉痛には、カモミール精油を植物油(たとえばホホバ油)で希釈し患部をマッサージすると痛みが和らぐ。瞼(まぶた)の腫(は)れ、目の疲れは、浸出液で湿布すると楽になる。この花のお茶は鎮静効果があり、眠気を誘うので就寝前に飲むと効果的である。また花の浸出液はヘアダイして傷んだ髪につやを出してくれるので、リンスとして用いることもできるなど、日常生活のなかで幅広く利用できるので、花はつねに乾燥保存しておくと便利である。
いずれの品種も近くの植物を元気にすることから「植物の医者」とよばれている。野菜畑に植えるのも有益である。浸出液を弱った苗木にスプレーする方法もある。
[森田洋子]
ムラサキ科の多年草で、和名はヒレハリソウ。ラテン語のコンフェルウェル(分裂の際にいっしょに育つ)に由来する。ニットボーンknitbone(骨をつなぐ)やブルーズワートbruisewort(挫傷草)ともよばれ、葉や茎をもんで患部に貼りつけると、骨折、捻挫(ねんざ)などのときの手軽な湿布剤となる。コンフリーの成分アラントインが、骨、軟骨の成長を促進する作用があり、赤血球を破壊する力があることが、アメリカで報告され、医学的にも立証された。
葉にはカルシウム、ビタミンA、ビタミンCなどが含まれ、タンパク質が多い野菜として食用にも供され、新鮮な若い葉は生のままサラダに、また温野菜やてんぷらの材料としても使われる。コンフリーの葉には発癌(はつがん)作用があるという研究報告や反対に抗癌作用があるとする調査報告もある。またいくつかの研究により、コンフリーは性ホルモンに影響を与え、卵巣や精巣を刺激することがわかっている。したがって過度の利用は避けたほうがよい。
葉はまたカリウムを多く含むので、コンフリーを3~4週間浸しておいた水は、野菜用の肥料として利用できる。栽培に際しては、日陰の肥えた土に植えると大きく成長するが、育ちすぎるくらいに育つので、ほかの植物とのかねあいを考えて植えることがたいせつである。
[森田洋子]
シソ科の多年草で、和名はヤクヨウサルビア。一般にセージとよばれているのはコモンセージであるが、そのほかにも多くの品種があり、ベルベットのような葉のブロードリーフセージ、パイナップルの香りのするパイナップルセージ、紫色の葉が特徴のパープルセージ、香料を抽出するクラリーセージ、黄と白のまだらな葉のゴールデンセージ、紫色の花をつけるトリカラーセージやラベンダーセージ、黄色の花を咲かせるエルサレムセージなど、花色、香りもさまざまで、約500種類ぐらいの品種があるといわれている。
イギリスには「長生きしたければ5月にセージを食べなさい」という古い諺(ことわざ)があり、アラビアの人々は「セージを植えている家から死者は出ない」と信じていた。中国人もセージの効用を信じ17世紀ごろにはお茶3箱とセージ1箱を交換したという記録が残っている。フランスでもルイ14世が毎日セージを欠かさなかったといわれ、「健康によいハーブ」として何世紀にもわたり評価され続けている。
セージには強壮作用、消化作用、解熱作用、血液の浄化作用、殺菌作用があるため、医学上重要な位置を占めるハーブである。葉の浸出液は頭痛を和らげ、月経を促し、うがい薬として用いるとのどの痛みを解消するなどの効用があり、家庭薬として重宝されてきた。葉を生のまま歯にこすりつけることで、歯ぐきを強くし歯を白くする。また浸出液でリンスすると白髪の予防にもなる。
さらに、セージに含まれる成分フェノール酸には抗菌作用、ツヨンには防虫効果があるので、花壇の土の中、ペット小屋や押入れの中に入れたり、リネン製品の間に挟んだりして利用する。
セージが料理に使われ始めたのはチーズの風味づけとしてであったらしい。また豚肉料理やソーセージの詰め物にも用いられるようになった。若葉の天ぷらはプロバンス料理の前菜であり、イタリアでは葉をパンに添え、中東の串(くし)に刺した肉料理カバブにも用いられる。ただしツヨンには毒性があるともいわれるので、過度の食用は避けるべきである。
栽培に際してはアルカリ性土壌を好むが、石灰を多くやりすぎると土が硬くしまるので注意を要する。形のよい株をつくるためには摘芯(てきしん)をし、挿木で殖やす。
[森田洋子]
ノウゼンハレン科の一年草で、インディアンクレスともよばれる。和名はキンレンカまたはノウゼンハレン。日本には江戸時代の終わりごろに渡来し、観賞用の園芸種として栽培されることになった。自然の抗生物質と崇(あが)められてきたナスターチウムの葉は、赤血球の形成促進、泌尿生殖器の感染症の治療に用いられる。すり傷などには、つぶした種子を温湿布すると消毒作用を発揮しながら傷を治す。
観賞用、薬用だけでなく料理にも用いられる。葉はミネラルやビタミンCを含んでいるので、生のままサラダに散らしたり、サンドイッチなどにもよい。花はその鮮やかさをそのままサラダに散らしたり、料理に添えて食べる。つぼみは3日間塩水につけて(水は毎日かえる)水気をきったあと、密閉ビンに入れ、タラゴンとホースラディッシュを加え、一度煮立てたワインビネガーを冷まして入れ、塩、コショウで味を整えて保存するとケイパーの代用品となる。
花の収穫を多く望むときには、やせた土に植える。アブラムシがつきそうな植物の近くに植えると天敵であるハエを寄せることができ、その植物を守る効果もある。春から夏にかけてはよく育ち、花数も多い。
[森田洋子]
シソ科の常緑低木で、和名はマンネンロウ。耐寒性に富み白い花を咲かせるミスジェサップアップライトやピンクの花を咲かせるマジョルカピンク、青紫の花のサフォークブルー、紫色の花のアルバス、さらに細い葉が特徴のプロストラタスやセバンシーなどの種類もある。アンサンシェ(香木)という古いフランス名をもち、その香りは薫香として用いられてきた。香りの持続性は長く、そのために記憶の象徴とされ、また変わらぬ友情の証(あかし)として、また永遠の愛と貞節のシンボルとして扱われてきたことが、ロジャー・ハットの『結婚への贈り物』(1607)に記されている。
またローズマリーは頭痛のすぐれた治療薬でもあった。その鎮痛作用は、かつてハンガリーの女王が痛風と手足の麻痺を完治させたとして有名であるが、薬に含まれる成分ジオスミンによって血行を促進させることで、血行障害、リウマチ、肩こり、筋肉痛などに対する効能も認められている。そのほか、精油をシャンプー後のすすぎに数滴たらすと、髪につやが出るリンス効果も評価されている。化粧水や入浴剤としても用いられる。
また、肉の臭みをとり、風味を添えるため、豚、鶏、子羊などの肉料理に用いられるほか、ハーブ・ティー、ハーブ・ビネガーなど幅広く利用される。
石灰質のやせた土地で育てると芳香は一段と高くなる。香りを強くするために卵の殻を土に混ぜる方法もある。挿木で殖やすことができ、3月と10月ぐらいが適している。冬の間に芯を摘み、脇芽(わきめ)が出てくるようにして株の姿を整える。
[森田洋子]
シソ科の多年草で、マヨラナまたはマジョラムともよばれる。和名はハナハッカ。マージョラムはギリシア語の「山の輝き」「山の喜び」に由来する。
マージョラムの葉はオーク材の家具の光沢を保つため、ワックスの代用として重宝がられた。乾燥した後もよい香りが残ることから、匂い粉、匂い袋にも用いられ、防腐剤としてローションなどにも含まれていた。
中世の修道院でハーブを育てていた修道士たちが、この香りをかぐことで禁欲生活をしているにもかかわらず多情になるため、マージョラムの栽培禁止令が出されたといわれているが、精油の成分が、副交感神経を刺激し交感神経の機能を低下させ、眠気すらおこさせることでも修行のじゃまになったに違いない。また体を温める作用もあり、かぜをひいたときの薬湯としても欠かせなかったといわれている。
その風味は料理用のハーブとしても大いに重宝がられ、サラダ、卵料理、肉料理などに使われる。ピッツァやパスタなどのイタリア料理に、トウガラシとあわせてメキシコ料理に、そのほかさまざまなトマト料理に利用されることが多い。
栽培に際しては肥えた土地で育てるとよりよい香りに育つ。黄色の葉をもつタイプは、やや日陰に植えるとよい。
[森田洋子]
シソ科の多年草。野生種、栽培種、交配雑種を入れるとその種類は数えきれない。日本ではハッカと総称される。さわやかな清涼感あふれる香りは、昔から世界各地で愛されてきた。元気の出る香りとされ、ギリシア・ローマ時代の男性は、活力の証としてミントの葉を体中にこすりつけ、自らを誇示してきた。また食欲を促す香りであることから、古代ローマ人たちは宴会のとき、ミントの葉をテーブルにこすりつけ歓迎の意を表した。
おもな成分であるメントールには抗菌作用もあり、その成分の量は種類によって異なる。リンゴの香りのするアップルミント、パイナップルの香りのするパイナップルミント、レモンの香りのするレモンミント、生姜(しょうが)の香りのするジンジャーミントなどそれぞれの香りには個性がある。なかでもペパーミントがメントールを多く含んでいるため、精油を抽出するのに用いられる。この精油(ハッカ油)には抗炎作用、冷却作用があるため湿布剤などにも用いられる。ミントの葉は歯が痛いときに噛むと痛みが和らぎ、ミントのお茶は消化不良を助けるなど、手軽な薬として人々は口にしてきた。歯を白くする効果や食欲、活力を生み出す効果などもあるため、練り歯みがきにミントが使われているのは理にかなっている。ポプリや匂い袋(サシェ)にもむく。料理にも最適で、肉や魚料理、ソース、ビネガー、フルーツサラダ、菓子、デザート、飲料などその味と香りを生かして広く使われる。
かつて日本で大量のミントが栽培され、世界のミント生産の7割ほどを占めた時代もあった。交配しやすいので、各種類別に離して植える。
[森田洋子]
シソ科の多年草。種類は多く、香りが微妙に違う。ペルシア、エジプト、イタリアと、文献資料によってその原産地の記述が異なるが、ディオスコリデスの『薬物誌』のなかで、「ガリア地方の海岸のはずれに育つ」と記されていて、その歴史は紀元1世紀から始まる。ラテン語のラワーレ(洗う)に由来するラベンダーは、ローマ人の沐浴(もくよく)には欠かせないものであった。学名のラバンデュラLavandulaは中世以来一般的な呼び名となり、修道士たちによって広まっていった。聖母マリアの植物とされ、肉欲を払い去るとして修道院の庭にはかならず植えられてきた。
ラベンダーの薬効については、何世紀にもわたってその真価が認められ、神からの贈り物とされてきたが、1500年代、ギリシア・ローマ時代の蒸留技術に関する資料が発見され、精油(ラベンダー油)の蒸留が行われるようになった。
1920年には、フランスの科学者ガットフォセが火傷(やけど)した際、患部にラベンダー油をかけたところ、みごとに完治した。この事実が精油研究のきっかけとなり、1927年アロマテラピー(芳香療法、アロマセラピーともいう)ということばが世に出ることとなった。日本でも特性の一つである鎮静効果について研究発表されているが、抑鬱(よくうつ)症、ヒステリー症、不眠、扁桃腺(へんとうせん)痛、神経の緊張などに効果を示す。乾燥させたラベンダーを詰めた枕(まくら)や匂い袋は、神経を休ませる効果が期待できる。
ドライ・フラワーにするには、開花後、できるだけ早く刈り取り、涼しく風通しのよいところで陰干しする。またラベンダーはポプリの代表的な材料でもある。さらに、生の葉や花を、ハーブ・ティーやフルーツサラダ、ワインや冷たい飲み物として利用し、香りを楽しむこともできる。
栽培には石灰を含む土壌を好む。湿気を嫌うので水はけのよい場所であることが必要である。冬の間は株が眠っているので、刈り込んでやることもたいせつである。挿木で殖やす。
[森田洋子]
生命力が旺盛(おうせい)なハーブは、比較的育てやすい。多くのハーブは日照量が多いこと、風通しがよいこと、水はけがよいことなどの植物の基礎的な条件が整っているとよく育つが、なかにはニオイスミレ(バイオレット)、セロリ、チャービルなどのように半日陰、日陰を好むハーブもある。また地中海地方のような乾燥した地を好むローズマリーやマージョラムなどは、風や太陽に水分をとられないようにその葉は小さく、湿潤な気候の土地に育つハーブは大きな葉をもつものが多い。いずれにせよ、ハーブには適応能力があるので、実際に育てる敷地内で、それに近い条件のところに植えるようにするとよい。
土壌は園芸用の土、ハーブ用の土など市販されている土を利用することから始める。土づくりも、できることなら天然の堆肥(たいひ)を用いる有機栽培が望ましい。堆肥の使用は、土を細かくし、通気性をよくするなどの利点があるのはもちろん、十分な土壌細菌や微生物が繁殖する有機質土壌は、雑草の種子や病害虫の発生を減らし、調和のとれた生態系を保つ。野生で生育しているときと同じ環境、たとえばチコリーはカルシウムやアルカリ性物質に富んだ水はけのよい白亜質土、タラゴンは砂の量が多くやせた砂質土、レディスマントル(ハゴロモグサ)は砂と粘土がほぼ同量混ざり合いバランスのとれた土(ローム)、ワームウッドは微粒子が多く含まれ、夏は固く冬は粘着性の粘土質がよい。下層土がその条件を備えている土質のときは、最良のハーブが育つと考えられている。
[森田洋子]
ハーブは庭にとっても有益で、花や野菜、果物といっしょに植えることでその力を発揮する。有害な昆虫を近づけないために、トマトの近くにバジルを植えて成育を守ったり、ミネラルを多く含むボリジはミツバチを誘うため、イチゴの近くに植えればその収穫量が増える。リンゴの腐敗病を守るのはチャイブ、ブドウの収穫量を増やすのはヒソップ、モンシロチョウを近づけないためにキャベツとセージをいっしょに植えるのもよい。「植物の医者」とよばれるカモミールを植えることで植物の病気を防ぎ、マリーゴールドの根から分泌する成分は害虫を殺すといったように、それぞれが影響しあい、花壇、菜園などを健全に守っていることが、過去数多くの栽培者から報告されている。
[森田洋子]
『リチャード・メイビー著、難波恒雄監修、神田シゲ・豊田正博訳『ハーブ大全』(1990・小学館)』▽『森田洋子著『おしゃれ香り学』(1993・三省堂)』▽『森田洋子著『おしゃれ香草学』(1994・三省堂)』▽『レスリー・ブレムネス著、高橋良孝監修『ハーブの写真図鑑』(1995・日本ヴォーグ社)』▽『山岸喬著『日本ハーブ図鑑』(1997・家の光協会)』▽『広田靚子著『ハーブスタディ』(1998・日本放送出版協会)』▽『阿部誠ほか監修『ハーブ スパイス館』(2000・小学館)』
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…クサリヘビ科マムシ属Agkistrodonに含まれる危険な毒ヘビの総称。10種が日本を含むアジア全域および北アメリカに分布する。マムシ類はハブ,ガラガラヘビなどとともに,眼の前方に赤外線に敏感なピット器官をもつ。頭部は長三角形で大型のうろこに覆われる。頸部(けいぶ)がくびれ,胴はむしろ太短く尾も短い。 ニホンマムシA.blomhoffi(イラスト)は吐噶喇(とから)海峡以北の日本に産する唯一の毒ヘビで,北海道,本州,四国,九州および伊豆七島,対馬,大隅諸島に分布し,全長40~60cm,最大75cmほどで毒ヘビとしてはむしろ小型。…
…肛門裂は体軸に直角に開き,雄には1対の陰茎があって交尾を行う。1回の産卵数は10~20個ほどで最少は2個,最多は100個あまりで,孵化(ふか)には一般には30~40日を要するが,早いものは日本産のヒメハブなどの1~2日で,ほとんど卵胎生に近い。長いものはエラブウミヘビの約5ヵ月。…
※「ハーブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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