イ語を表記する文字。中国で漢文の史書では爨(さん)文とか韙(い)書と呼ばれているが,最近ではイ(彝)文という。一般にはロロLolo文字の名で知られる。創作年代は正確にはわからない。地域によって字形と配列法が異なり,縦書きも横書きもある。字数は8000字以上もあるといわれ,文献も豊富に残っている。明代のものが多く,《鐫字崖(せんじがい)》(1533),《千歳衢碑記(せんさいくひき)》(1546)などの碑文のほか,《西南彝志》(24巻)や多数の経典(文学)がある。象形字形の表意文字から表音文字に転じた文字で,《倮儸(ロロ)訳語》という資料から,清朝初期には東川府(雲南の北部)ではなお表意文字として1字を2音節で読んでいたことがわかる。1975年に古い字形を整理統一した規範イ文が試行され,80年に正式公布された。それは声調の相違も字形で弁別する厳密な表音節文字で左から右へ横書きし,字数は819字もある。いまではかなり普及して,この文字の新聞や教科書などが刊行されている。規範イ文に対して以前のイ文を老イ文と呼ぶ。
執筆者:西田 龍雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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