翻訳|Illinois
アメリカ合衆国、中北部の州。面積14万6075平方キロメートル、人口1241万9293(2000)。州都スプリングフィールド。「プレーリーの州」と俗称されるとおり、南端部を除く州土の90%が、更新世(洪積世)の氷河作用を受けた平坦(へいたん)なプレーリーで、その肥沃(ひよく)な黒土は、中央部地域を中心に豊かな農業地帯を形成する。州域には275の河川があるが、これらはすべて、西の州境をなすミシシッピ川か、南の州境を流れるオハイオ川に注ぐか、あるいは北東の州境をなすミシガン湖を経由してセント・ローレンス川に注ぐ。気候は湿潤大陸性で、一般的には寒冷で多雪の冬と暑い夏が特徴であるが、気温が短時間で急激に変化することが少なくない。イリノイ州は、商工業から、交通、政治、財政に至るまで、合衆国の中枢的な存在で、合衆国の縮小版であるといってもよい。南北戦争後、農機具の発明と肥沃な土地によって発達した農業は、工業と並ぶ主要産業である。農業収入は、穀物が全国第2位、畜産が第8位で、全体で第4位、穀物栽培面積も第2位の規模を誇る。主要農産物では、トウモロコシ類および大豆が産高第2位であるほか、小麦、オート麦、干し草の栽培が行われる。酪農、畜産も盛んで、ウシ、ブタ、ヒツジの飼育が多い。
シカゴを中心に大工業地帯が形成されている。同市は州の商工業、金融、教育、文化の心臓部であるとともに、陸上、水上、航空の各輸送交通の要(かなめ)ともなっている。州のおもな工業は、機械、電気器具、電子器材、食品加工、化学などである。州工業の発達に重要な役割を演じた石炭、石油および天然ガスが、鉱物産額の75%を占め、蛍石(ほたるいし)は全米の主要産地となっている。
人口の約80%はシカゴを中心とした大都市圏に居住し、ドイツ系、イタリア系、イギリス系、ロシア系が上位を占め、15.1%は黒人である。生活水準は一般的に高いが、人種問題や、労働、公害などの都市問題も多く抱えている。大学は154校あり、シカゴ大学、シカゴ州立大学、ノースウェスタン大学がその中心である。
イリノイ川をさかのぼってフランス人が探検に入り、1680年にはフランスの要塞(ようさい)が築かれた。フレンチ・アンド・インディアン戦争の結果、1763年イギリスが領有し、83年には合衆国に譲渡された。1809年にインディアナ準州から分離して準州となり、18年には第21番目の独立州となった。1847年、シカゴに農具会社の工場が設立されたころから工業が発展し始め、南北戦争後、食肉出荷業を中心に拡大した。1880年代から20世紀にかけて、シカゴを中心に労働運動が盛んとなり、これが社会保障制度の確立に大きく貢献した。1920年代~30年代のシカゴの暗黒時代は、アル・カポネの名前で有名である。
[作野和世]
アメリカ合衆国中西部の州。略称Ill.。連邦加入1818年,21番目。面積14万6075km2,人口1283万0632(2010)。州都はスプリングフィールド,最大都市シカゴ。州名はイリノイ川沿岸地域に住んでいたイリニIllini(インディアンの族名,〈完全な人〉の意)からとられた。ミシシッピ川とその支流オハイオ川,ウォーバシュ川およびミシガン湖に囲まれ,南北620kmにわたる長い州。一部に丘陵があるが,大部分は平坦である。湿潤大陸性気候と湿潤温暖気候の漸移地帯で,冬は北部では雪が多く夏は高温となる。アメリカ中西部の中心に位置し,河川および五大湖水運,鉄道,さらに航空路の交差する地域にあたり,アメリカ全体に影響を与えるような事件の舞台となることが多かった。ブラック・ホーク戦争(1832),リンカンとダグラスの論争(1858),ヘイマーケット事件(1886),プルマン・ストライキ(1894),聖バレンタイン・デーの虐殺(1929),民主党全国大会での騒動(1968)などはその例である。そして,リンカンをはじめ,ジェーン・アダムズ,アル・カポネ,リチャード・デーリーらを生み出した。豊かなプレーリー土壌に恵まれ,トウモロコシ地帯の農業州としてトウモロコシ(全米2位,1980),ダイズ(2位),畜産物の生産が盛んであるが,シカゴを中心とする商工業の発達した州でもあり,外国移民や黒人も多い。農工利害の対立はシカゴ対州南部という形で,州の政治に現れている。
執筆者:正井 泰夫+岡田 泰男
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