日本大百科全書(ニッポニカ) 「イルクーツク物語」の意味・わかりやすい解説
イルクーツク物語
いるくーつくものがたり
Иркутская история/Irkutskaya istoriya
ロシアの劇作家アルブーゾフ(1908~86)の二部構成の戯曲。1959年モスクワのワフタンゴフ劇場で初演。シベリアのイルクーツク近郊のアンガラ川発電所の大建設現場に働く3人の若者を中心に、恋愛、友情、労働、連帯感をめぐる葛藤(かっとう)を叙情的に描く。男女たちとの浮き名が絶えない「安売りのワーリャ」は、ビクトルと恋仲だが、真摯(しんし)な作業班長セルゲイの求愛にひかれて結婚する。彼女を失ってビクトルは初めて苦悶(くもん)する。セルゲイの急逝という悲劇にみまわれたワーリャは、子供を抱え、夫の思い出を抱きつつ、たくましく生きていく。ギリシア劇のコーラスの導入による叙事的展開など、実験的試みがなされている。
[中本信幸]
『泉三太郎訳『イルクーツク物語 他1編』(旺文社文庫)』