エトロフ(読み)えとろふ

日本歴史地名大系 「エトロフ」の解説

エトロフ
えとろふ

漢字表記地名「択捉」のもとになったアイヌ語に由来する地名(島名)。天保郷帳の「東地嶋々之分」に「子モロ持場」のうち「ヱトロフ嶋」とみえ、「右嶋蝦夷人居所之分」として「タン子モイ」以下一一ヵ所があげられている。仮名表記は「ヱトロフ」が多いが(「蝦夷志」「蝦夷拾遺」「風俗人情之沙汰」「東蝦夷地場所大概書」など)、古くは「ゑとろほ」(元禄郷帳)、「えとろほ」(享保十二年所附)、「ゑとろふ」(寛政蝦夷乱取調日記・東蝦夷地場所大概書)、「えとろふ」(児山「蝦夷日記」)などと記され、片仮名では「ヱトロウ」(蝦夷拾遺)、「ヱトロツフ」(木村「蝦夷日記」、「東海参譚」)、「ヱトロプ」(渡島筆記)もある。仮名・漢字交じりおよび漢字表記は「恵登呂府」(児山「蝦夷日記」、玉虫「入北記」など)、「ゑと路婦」(東行漫筆)、「恵覩呂府」(玉虫「入北記」)がみられる。語義について「風俗人情之沙汰」は「此嶋の中央にモシリノシケといふ処に、ヱトロフワタラと云岩山あり。此山あげまきの形に似たり。此岩に縁て当嶋をヱトロフと名附けたりと。往昔ヲキクルミ、シヤマイグルといふ二人、誠に神ともいふへき人、蝦夷地に渡り来りたるが、其人の太刀の柄の鐶に提たる鼻緒の形に似たる迚、ヱトロフと云といへり。ヱトロは鼻、フは緒、ワタラは岩といふ義なり。此二人は義経と弁慶両人なりと云説あれども、いまだ詳なる事を得ず」とアイヌの口頭伝承および源義経伝説にまつわる口碑を紹介している。これに対し「東行漫筆」には「ヱトロフ イトロとハ鼻いきの事を云。此島ニ穴ありて波の出入はないきの如し。依之名とす」(文化六年四月二九日条)と記される。

島の様子は「東蝦夷地場所大概書」に「此島未申より丑寅に流れて周廻凡弐百余里、南はクナシリ島に渡り、北はウルツフ島に連り、東西は大洋にして島中には高山並ひ峙ち、蝦夷村は西浦にありて東浦には近来土人住居なし。松前より行程凡三百里なり」とあり、「風俗人情之沙汰」は「九州の幅闊程」の島と表現している。「北夷談」には「クナシリよりヱトロフ嶋へ渡海は汐路一筋ありて渡り甚六ケ敷」とみえ、木村「蝦夷日記」にも通詞の「熊二郎の言」として、エトロフへの渡りは「東流ノ汐ニ西ヨリ東ヘ向テ乗故難儀ナラン」とあるが、復路は「汐流ニ随ふ故安カラン」(寛政一〇年七月二七日条)とある。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

世界大百科事典(旧版)内のエトロフの言及

【日露和親条約】より

…最大の問題は国境問題であった。プチャーチンはサハリン(樺太)での分界を提案し,クリル列島(千島列島)ではエトロフ(択捉)島のロシア帰属ないし分有を主張した。日本側はエトロフ島は日本領だと固執し,サハリンでは北緯50度での分界を主張した。…

※「エトロフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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