エスキモーやイヌイットなど極北に住む先住民族が水上での猟に用いる1人乗りのカヌー。アリュート(アレウト)人や南アラスカのエスキモーは2人乗りのカヌーを用いる。エスキモーの文化要素のうちもっとも古くから西欧社会に知られたものである。アイスランドの『サガ』は、紀元1000年ごろグリーンランドから北アメリカ大陸を南下したバイキングがスクレーリング(おそらくはエスキモー)と出会い、彼らが皮舟を使用していたと記している。カヤックは長さ7メートル、幅50センチメートルほどの木の枠組みを、脂肪を削り取って軽くしたアザラシの皮で覆ってつくり、中央に丸い穴をあけて操縦者が座れるようにしてある。櫂(かい)は1本で操縦する。1人で持ち運べるほど軽量でかつ快足、方向転換も自由にきく。エスキモーにはカヤックのほかにウミアックとよばれる大型のボートがあり、これはおもに鯨猟で用いられた。
[岡 千曲]
新大陸の極北地域に居住するエスキモーが昔から使用している小型ボート。名称は東エスキモー語に由来し,男性用ボートとも呼ばれる。
構造的には木材(流木)を組み合わせて木枠とし,座席以外は全面をアザラシの皮を張り,縫い合わせたもの。座席の部分はほぼ円形の開口部で,漕ぎ手はここに正座の姿勢ですわり,両端に偏平部のある木製のパドル(櫂)で推進する。アラスカ南西部やカナダ東部には複座式の例もある。おもな用途は水上における狩猟用で,アザラシ,オットセイ,セイウチなどの海獣と湖沼や川に追い込んだカリブーなどの狩猟に用いられる。甲板に相当する上部には,もりや槍を保持するための支えもある。漕ぎ手はふつうアノラックと呼ぶアザラシの腸で作った防水着を身に着け,その裾を開口部の外側に紐で結びつける。そのため荒天でも浸水せず,転覆してもパドル操作で容易に復原できる。軽量のため運搬も簡単であり,操縦性にも富むボートである。
→ウミヤック →カヌー
執筆者:小谷 凱宣
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…競技用カヌーには2種類ある。(1)カヤックkayak(略号K) グリーンランドのエスキモー・カヤックに起源をもつ。舟はデッキで覆われ中央部に座席がありそこに腰をおろす。…
…皮舟の代表的なものの一つが,イギリスやアイルランドの河川で用いられているようなコラクルcoracleと呼ばれる舟であるが,似た形の皮舟は古代メソポタミアでもすでに知られていた。このほか,エスキモーのウミヤック,カヤックなども皮舟の一種である。ウミヤックはボート型で,おもに運搬や漁などに用いられ,エスキモーのほかにも,シベリアのチュクチ,コリヤーク,カムチャダール,ヤクートなどの民族が利用している。…
※「カヤック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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