カルムイク語
かるむいくご
Калмык/Kalmïk
ロシア連邦カスピ海北西岸のカルムイキア(カルムイキア・ハリムグ・タングチ)共和国に住むモンゴル系カルムイク人の言語。カルムイク人は17世紀初めにジュンガリア方面から移動し、ボルガ川下流に住み着いたオイラート人の一部で、言語人口約17万4000。母音は前舌のi,eäと後舌のu,o,aのほかに、前舌円唇のü[y]とö[∅]をもつ。長母音と短母音の別がある。ut「長い」、ūt「袋」。名詞には単数と複数の別があり、9格に変化する。名詞al「火」において、属格の「の」では-in、与格「に」では-d、対格「を」では-ig、奪格「から」では-as、具格「で」では-ar、共格「と」では-ta、競合格「とともに」では-la、方向格「のほうへ」では-urがつき、所有語尾が名詞に付加される。ax-m「私の兄」、ax-tšn「君の兄」。また、代名詞bi「私」、tši「君」、bidn「私たち」、tadn「君たち」が動詞形の末尾に添加されて人称変化をつくりだしている。nād-na-w(←bi)「私が遊ぶ」、nād-na-tš(←tši)「君が遊ぶ」。-na-は現在時制を表す。表記法は1938年にキリル文字化されたが、それ以前は蒙古(もうこ)文字が使用されていた。
[小泉 保]
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カルムイク語 (カルムイクご)
Kalmyk
モンゴル諸語オイラート方言(オイラート語)の中の有力な言語で,しばしば,オイラート方言の別称としても用いられる。歴史的には,17世紀初めにイリ地方からボルガ河岸に移住したオイラート族の言語が時の経過につれてカルムイク語として形成されたものである。現代のカルムイク語は,ロシア連邦北カフカスのカルムイク共和国のカルムイク人およびアストラハン,ロストフ,ボルゴグラードの諸地域に住むカルムイク人(約14万人)によって話され,デルベト,トルグート,ブザーワの3方言に分かれている。現代の標準カルムイク文語は,上のデルベト,トルグート2方言を基盤として成立した。カルムイク語は,モンゴル諸語の中にあって,比較的古形を保存している点で注目される。
執筆者:小沢 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
カルムイク語
カルムイクご
Kalmyk language
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のカルムイク語の言及
【オイラート語】より
…オイラート方言ともいう。オイラート語はさらに,(1)カルムイク方言([カルムイク語]ともいう)と,(2)その他のオイラート下位方言,すなわちコブト地域のドルボド方言とバイト方言,アルタイ地域のトゥルグート,ウリヤンハ,ザハチン,ミンガトの諸方言,ダムビのオロート方言などに分かれる。オイラート人は,古く1648年にホシュート族の高僧ザヤ・パンディタZaya Panditaによって創案されたトドTodo文字(〈明白な〉文字の意で,蒙古文字([モンゴル文字])に若干の改良を施したもの)をもって自己の言語を書写してきたが,これが,いわゆるオイラート文語であり,この文字は現在でも中国の新疆ウイグル自治区に住むオイラート人によって用いられている。…
【モンゴル諸語】より
…しばしば[ハルハ語]とも)と内モンゴル自治区で話されるチャハル・モンゴル語(チャハル方言)をあげることができ,また,西部方言の代表として,ロシア連邦のカルムイク共和国のカルムイク・モンゴル語(カルムイク方言。しばしば[カルムイク語]とも)をあげることができる。また,同じくロシア連邦のブリヤート共和国で話されるブリヤート・モンゴル語(ブリヤート方言。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」