ガムシ(英語表記)Hydrophilus acuminatus

改訂新版 世界大百科事典 「ガムシ」の意味・わかりやすい解説

ガムシ
Hydrophilus acuminatus

甲虫目ガムシ科の昆虫黒色で光沢があり,体長約34mm。日本各地のほか朝鮮半島,中国などにも広く分布する。池や沼,水田などに生息し,成虫水草を食べる。昼間も活動するが,夏の夜灯火に飛来することもある。水中での呼吸は,頭を水面に近づけ,触角で水面を破り空気をとり入れる。空気は体の腹面に密生する微毛の働きで空気膜となり気門に運ばれる。初夏のころ,50~100個の卵を卵囊に包んで水草に産みつける。卵囊についた煙突状の管は水上に突出するが,この管は空気を卵囊に送り込む作用があるといわれる。孵化(ふか)した幼虫は卵囊を破って外に出るが,卵囊中の空気を吸い込むことで浮力がつき水面に浮き上がって呼吸ができるといわれる。幼虫は発達した大あごで水中にすむ昆虫類を捕食する。皮膚は淡黄褐色で各腹節の側縁に細長い突起がある。十分に成長した幼虫は水からはい出して土中へ潜って蛹化(ようか)する。1年に1世代,成虫で越冬する。かつては各地にふつうに見られたが,開発や農薬などの影響でその数が著しく減じた。ガムシ科Hydrophilidae(英名water-scavenger beetle)は世界から約2000種,日本から80種近くが知られ,水生陸生に大別できる。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガムシ」の意味・わかりやすい解説

ガムシ
Hydrophilidae; water scavenger beetle

鞘翅目ガムシ科の昆虫の総称。微小ないし大型の甲虫で大多数は淡水生,一部は陸生である。体は多くは卵形で背面が強くふくらみ,なめらかで光沢の強いものが多い。下面は平たい。頭部は短く,前胸の中に納まる。触角は短く,6~9節から成り,第1節は最長で湾曲することもある。第6節は杯状,先端3節は微毛におおわれた球稈を形成する。小腮枝が細長く,触角と同長またはそれ以上であることが本科の著しい特徴となっている。大腮は強力で有歯。肢は長く,跗節は5節。淡水生のものでは後肢に遊泳に適した長毛がある。一般に草食性であるが,陸生種には動物の糞やその他の腐敗物に集るものが多い。世界に約 2000種,日本に約 75種を産する。ガムシ Hydrophilus acuminatusは体長 32~35mmで日本産ガムシ科中の最大種。体は楕円形で翅端はややとがる。全体黒色で光沢があり,触角,小腮枝などは黄褐色である。上翅には4条の点刻列がある。中・後胸板の正中線は顕著な隆条になり,その後端は鋭く針状にとがる。腹節の正中線も隆条となる。沼,池などの止水に多くみられ,水草などを食べる。本州以南の日本全土,朝鮮,中国に分布する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガムシ」の意味・わかりやすい解説

ガムシ
がむし / 牙虫
[学] Hydrophilus acuminatus

昆虫綱甲虫目ガムシ科に属する昆虫。本州、四国、九州のほか朝鮮半島、中国に分布し、池沼、水田などにすむ。体長33ミリメートル前後。黒色でボート形、背中が膨らんでおり、小あごひげが細長く、触角の先が膨らむのでゲンゴロウとは見分けられる。また脚(あし)は細く、胸下面後方には腹部上に突出した鋭い突起がある。成虫は春から夏に現れ水草を食べるが、幼虫はほかの昆虫を捕食する。雌は水面に浮かぶ水草に細い柄(え)のついた卵塊を産み付ける。北海道には近似種がいる。

 ガムシ科water scavenger beetlesは、世界に約2000種が知られており、日本産は約80種である。水生のものはガムシのほか、コガムシ、ヒメガムシ、ヒラタガムシ、シジミガムシ、ゴマフガムシなどの類があり、体の下面や脚、触角先端部に微毛を密生し、そこに空気を蓄えて呼吸に利用する。陸生の類にはハバビロガムシ、マグソガムシ、ケシガムシなどがあり、腐敗動植物質や動物の糞(ふん)に集まる。近縁の科にダルマガムシ、ホソガムシがある。

[中根猛彦]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ガムシ」の意味・わかりやすい解説

ガムシ

ガムシ科の甲虫の1種。体長33mm内外,黒色。胸部腹面に長く鋭いとげがあるので牙虫という。日本全土,朝鮮,中国に分布。幼虫,成虫共に水中にすみ,水草などを食べる。一見ゲンゴロウに似ているが,背面が隆起する。ガムシ科には多くの種類があり,陸上の腐植質や汚物中にすむ種類もある。準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「ガムシ」の解説

ガムシ
学名:Hydrophilus acuminatus

種名 / ガムシ
解説 / 池やぬま、水田にすみます。成虫は雑食ですが、幼虫は肉食です。
目名科名 / コウチュウ目|ガムシ科
体の大きさ / 33~40mm
分布 / 北海道~九州
成虫出現期 / 一年中
幼虫の食べ物 / ほかの昆虫

出典 小学館の図鑑NEO[新版]昆虫小学館の図鑑NEO[新版]昆虫について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android