日本大百科全書(ニッポニカ) 「キビィ」の意味・わかりやすい解説
キビィ
きびぃ
Aleksis Kivi
(1834―1872)
フィンランドの作家。キウィともよばれる。貧しい仕立屋の息子として生まれ、病弱のためほとんど独学で大学入学を果たした。民族叙事詩『カレバラ』にみえる兄妹相姦(そうかん)の悲劇の英雄に取材した『クッレルボ』(1860)が、フィンランド文学協会賞を獲得し出世作となった。早くからドイツ、スウェーデンのロマン主義に親しんでいたが、シェークスピアの手法によるこの作品には、すでに独特のリアリズムとユーモア文学の萌芽(ほうが)がみられた。このころからロンクビスト嬢の世話を受けた7年間に作風に深みを増し、二つの名作を生む。国家賞を受賞した戯曲『寒村の靴屋』(1864)には、デンマークの劇作家ホルベアの影響がみえ、農民を鮮明に描き、今日もなお上演され続けている。しかし、その名を不朽にしたのは、構想10年にしてなった『七人兄弟』(1870)で、言語芸術の香り高く、素材にした語り伝えや歌謡がリアリズムに強さ、風刺、叙情味を付加できる可能性を示し、独特なリアリズム文学の誕生であった。森の寒村に住む粗野な7人兄弟が社会生活に適応できるまでに成長していく過程が、個性強く、ユーモラスに描かれている。しかし、行きすぎたリアリズムと非難され、同時代人に受け入れられず、キビィは心労とアルコール中毒による精神障害が原因で、2年後に若くして世を去った。死後、評価が高まり、この国の作家、作曲家、画家たちを刺激し、キビィは国民文学の父と称され、作品は30か国語以上に翻訳され、世界文学史に名を残した。
[高橋静男]