クレジット・デリバティブ(読み)くれじっとでりばてぃぶ(英語表記)credit derivatives

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

クレジット・デリバティブ
くれじっとでりばてぃぶ
credit derivatives

従来デリバティブが市場リスク(資産価格の変動に伴うリスク)を売買対象とするのに対して、信用リスク債務不履行などにより資金が回収不能になるリスク)に関する原資産を対象とする金融派生商品のことである。具体的には、ローンや社債などの債務不履行リスクを取引対象とする。たとえば、金融機関がローンをリスクヘッジ(リスクを避けたり低下させたりすること)したい場合、顧客との関係を維持するためにローンの売却を回避しながら、同様の効果を得ることが期待される。

 クレジット・デリバティブは、(1)クレジット・デフォルトスワップcredit default swapCDS)、(2)トータル・レート・オブ・リターン・スワップtotal rate of return swap(TROR)、(3)クレジット・リンク債credit linked note(CLN)の三つが代表的な存在である。

(1)CDS 債権信用リスクを回避しようとする買い手が一定のプレミアムを売り手に支払うが、もし債権にデフォルト(債務不履行)が発生した場合には売り手がその全額を保証するという契約である。債権保有者には従来の銀行保証と同様の機能が発揮される。

(2)TROR 債券を対象に行われる取引で、債券のトータル・リターン(利息収入と債券価格の評価損益の和)と市場金利とを交換する。なんらかの事情で保有する債券を売却できない保有者が利用する方法で、帳簿上は債券を保有したまま売却と同様の効果を得ることができる。

(3)CLN CDSの仕組みを債券に取り入れたもので、債券の信用リスクを別の債券の信用とリンクさせる。その仕組みは、あらかじめ契約で指定した企業に信用問題が発生しなければ満期日額面で償還されるが、デフォルトなどの問題が発生した場合には指定企業が発行する債券で償還されるというものである。

 クレジット・デリバティブは、商品設計の自由度が高く、多様な信用リスクに対応することが可能である。その半面相対(あいたい)取引であることから取引条件が標準化されておらず、かならずしも取引の公正さや流動性が保証されないという問題点もある。

[高橋 元]

『河合祐子・糸田真吾著『クレジット・デリバティブのすべて』第2版(2007・財経詳報社)』『矢島剛著『CDO――クレジット・デリバティブと証券化のコラボレーション』第2版(2008・金融財政事情研究会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 の解説

クレジット・デリバティブ

貸付債権や社債等の信用リスクの売買を目的とする金融派生商品。信用リスクを移転したい者が買い手となり、信用リスクへの投資を望む者が売り手となる。形態は様々だが、「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」、「トータル・リターン・スワップ(TRS)」が代表的。CDSは、貸付債権の債務者・社債発行法人の経営破綻などの「クレジット・イベント」時に発生する損害額と、一定のプレミアム(保険料に近い)を売買する。TRSはLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)などの市場金利や参照資産の評価損等と、参照資産から発生する利息や評価益等を売買する。ヘッジしたい信用リスクに応じて取引内容を柔軟に設定できる、参照資産そのものの移動を伴わないため、債務者や社債発行法人等に影響を与えずに信用リスクを移転できるという長所がある。他方、個々に取引内容を設定するため、契約内容の整理・交渉に苦慮するとの短所があったが、ISDA(国際スワップデリバティブズ協会)から契約書のひな形と用語定義集が発表され、契約書の標準化が進んだ。それに伴い市場規模も拡大している。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android