日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショービニズム」の意味・わかりやすい解説
ショービニズム
しょーびにずむ
chauvinism 英語
chauvinisme フランス語
盲目的愛国主義、排外主義、排外的愛国主義、好戦的愛国主義などと訳される。熱狂的愛国感情が生み出す排他的思想態度のこと。英語のジンゴイズムjingoismと同義の政治用語。ナポレオン1世の第一帝政時代のフランス軍兵士ニコラ・ショーバンNicolas Chauvinが、ナポレオンを神のごとく崇拝し異常な熱狂と極端な愛国心により戦場での勇敢さを示したことに由来するとされている。
愛国主義patriotisme(フランス語)が、共同体に対する帰属意識である郷土愛の延長上で自国に対する強度な帰属意識をさすのに対して、ショービニズムは、この愛国主義を偏狂的かつ排他的に高揚せしめて、他国ないし他民族に対する攻撃的敵対感情にまで昇華させる。この意味で、愛国主義は国際主義と結び付くことが不可能ではないが、ショービニズムは国際主義やコスモポリタニズムと絶対的に対立する。原始的社会集団に本能的に内在する排他性も多かれ少なかれショービニズム的傾向を含んでいたが、近代においては、これが国民国家的愛国主義と結び付き、しかも支配者がこれを帝国主義的拡張主義・侵略主義の方向へ意識的に動員しようとするところから、非合理的な思想感情としてのショービニズムが開花してくる。
ショービニズムは、単に対外的抑圧・侵略に用いられるばかりではなく、国内に居住する他民族への抑圧や、国際主義的な社会運動家たちへの弾圧にも利用される。関東大震災時の朝鮮人虐殺や共産主義者を「アカ」として村八分的に扱う態度も、ショービニズムのあらわれであった。ナチスのユダヤ人虐殺はその極端な表現であり(ここでは人種主義と結び付いていた)、ベトナム戦争時のアメリカ軍兵士のベトナム人に対する態度にもショービニズム的行動様式がみられた。社会主義者の場合であっても、第一次世界大戦時のドイツ社会民主党指導部の場合のようにショービニズムと無縁ではありえず、レーニンはこれを社会ショービニズムsocial chauvinismとして非難した。
[加藤哲郎]