翻訳|racism
発生的にせよ環境の作用であるにせよ、諸人種の間には優劣の差があり、優秀な人種が劣等な人種を支配するのは当然である、という思想ないしイデオロギー。人種の優劣説にはまったく科学的根拠がないにもかかわらず、最盛期の19世紀ほどではないにしても、人種主義はいまなお根強く信奉されている。人種主義は、同一人種から構成される一部の部族社会に身体上の特徴(身長や皮膚の色)に基づいて現れたり、また一部の社会にそれぞれ独立して局地的に現れる場合もあるが、人種主義を世界規模に拡大し定着させたのは植民地主義である。その意味で人種主義は、人類史を通じて全地球上に現れる普遍的な思想ではない。これに対して、エスノセントリズムethnocentrism(自己集団中心主義。人種・民族を含めてあらゆる異質集団に対して、自分の属する集団を中心に据え、これを尺度として評価を下す態度ないし思想)、および、ある集団または個人が身体的ないし文化的特徴の著しく違う者に違和感・距離感を抱くのは自然の現象であり、普遍的である。もともと人種という概念が科学的に明らかにされ、人間の類別を意味するようになったのは19世紀であり、こうして西ヨーロッパに発達した人種思想と結び付いて、人種主義は政治・経済上の諸条件に基づいて歴史的に形成されたのである。科学的人種主義という皮肉な呼称もこうした歴史的事情から生まれた。
こうして形成された人種主義はやがて、思想ないしイデオロギーのレベルを超えて、現実の慣行や態度をも含めて、人種差別、ないし人種上の不利益を生む諸要因を包摂した複合体をもさすようになった。もともと人種主義が生まれるのは、ある社会に異なる複数の人種、または同一人種内の集団差が存在し、その身体的特徴の集団差が不平等な社会的地位や文化の相違と結び付く場合である。歴史的には、軍事的征服、植民地や支配地域の拡大、および強制を伴う移民や奴隷に付随して、白人の有色人に対する人種主義として現れる場合が多いが、しばしば黄色人の黒人に対する人種主義も現れる。このことは、人種主義を大規模に展開したのが主として植民地主義ないし帝国主義であることを物語っている。これを推進した思想家は、フランス人のゴビノーとイギリス人のチェンバレンHouston Stewart Chamberlain(1855―1927)である。ヒトラー、T・ルーズベルト、南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策の生みの親であるフルウールトらは、大衆操作のイデオロギーとして人種主義を利用した典型的な政治家である。
イギリスの詩人キップリングに代表されるように文学の世界はもちろん、一般的な世論においても、人種主義は、大衆の心に深く浸透し、世界の全域に行き渡っている。日本におけるアイヌ系、朝鮮人・韓国人、アジア系、および黒人についても、日本人の人種主義は深く作用している。最近、とくに第三世界では、有色人は白人よりも優秀だとする対抗人種主義counter racismが台頭している。こうした現状から推して、人種主義を克服するには多くの困難が横たわっている。
[鈴木二郎]
『鈴木二郎著『人種と偏見』(1969・紀伊國屋書店)』▽『L・ブルーム著、今野敏彦訳『人種差別の神話』(1974・新泉社)』▽『R・シーガル著、山口一信・榛名善樹訳『人種戦争』上下(1971・サイマル出版会)』▽『C・レヴィ・ストロース著、荒川幾男訳『人種と歴史』(1970・みすず書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
人種を生物学的な固定・不変の形質,「血」の問題とし,それを精神的な特質と結びつける,とりわけ19世紀以降のヨーロッパに特徴的な考え方。先天的に人種間で優劣が存在し,人間の歴史も人種間の闘争によって決定づけられてきたとするイデオロギー。人種主義がドグマ化されたのは,ヨーロッパで帝国主義的植民地支配が正当化された時期である。ナチ体制は,人種主義を優生学や民族衛生学と結合させ,ユダヤ人大量虐殺の正当化にも用いた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…〈新移民〉は〈旧移民〉ほど速く同化できなかったし,有色人種は白人のように簡単には同化できなかった。この事実には人種主義racismが深く関係している。同化の速度には文化の序列づけも関係している。…
…皮膚の色などに見られる身体的差異は明らかだが,すべての人類は単一の遺伝子集団を構成しているのである。 このような科学的根拠があるにもかかわらず,人種にまつわる二つの神話的・非科学的信仰に支えられる人種主義racism,racialismが存在する。第1の神話は,人種と文化がストレートに関連するとするものであり,第2の神話は,ある人種は知的にすぐれているというものである。…
※「人種主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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