日本大百科全書(ニッポニカ) 「シングルレコード」の意味・わかりやすい解説
シングルレコード
しんぐるれこーど
アメリカのRCAビクター社が開発、1949年に発売した直径17センチメートル、毎分45回転のレコード。ジュークボックスによる自動連続演奏を前提として開発されたもので、正確にレコードを選択・交換できるように、保持に利用される中心孔は従来のレコードより大きな38ミリメートル径が採用され、その形状からドーナツレコード(ドーナツ盤)ともよばれた。演奏時間は片面5分程度で、普通ポピュラー曲1曲分が収録された。なおシングルレコードまたはシングル盤という呼び方は通称であり、正式名称は与えられていなかった。
発売1年前の1948年にコロムビア社が開発したLPレコードと市場での競争になったが、1曲の演奏時間が長いクラシック音楽の分野では、いかに連続演奏ができるといっても限界があり、LPレコードが優位であった。市場では、クラシック音楽鑑賞を含めて一般用にはLPレコード、ポップスなどのシングル曲を簡便に鑑賞するユーザー層向けおよび業務用ジュークボックスにはシングルレコードという、それぞれの特長を生かしたすみ分けが定着していった。
アメリカでは、RCAビクター社が家庭向けのシングルレコード専用プレーヤーを発売したが、日本には普及しなかった。日本では、手持ちの毎分33と3分の1回転および45回転兼用のレコードプレーヤーが利用された。大きな中心孔をもつシングルレコードはそのままでは安定してターンテーブルにセットできないため、シングルアダプターが用いられた。これは、ターンテーブルの7.2ミリメートル径のスピンドル(回転軸)にはめて38ミリメートル径のスピンドルに変換する小道具で、普通はターンテーブルの付属品として用意されていたが、単品として販売もされた。
中心孔38ミリメートル径と7.2ミリメートル径を兼用したシングルレコードもあった。これは38ミリメートル径の中心孔を開けっぱなしにするのでなく、3か所で折り取りができるようにして部分的に残し、ここに7.2ミリメートル径の中心孔を設けたものである。折り取らなければ、そのまま7.2ミリメートル径のスピンドルにセットでき、折り取れば38ミリメートル径のスピンドルにセットできるという、親切なくふうがなされていた。
回転数はそのままの毎分45回転で演奏時間を延長したEPレコード、回転数をLPレコードと同じ毎分33と3分の1回転に落として演奏時間をさらに長くしたコンパクト盤など、シングルレコードと同じサイズの発展形もつくられ、広く使われたが、LPレコードと同様に、コンパクトディスク(CD)が発売され始めた1980年代以降は生産枚数が激減した。
[吉川昭吉郎 2019年9月17日]