スティーリー・ダン(読み)すてぃーりーだん(その他表記)Steely Dan

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スティーリー・ダン」の意味・わかりやすい解説

スティーリー・ダン
すてぃーりーだん
Steely Dan

アメリカのロック・グループ。ニュー・ジャージー州生まれのドナルド・フェイゲンDonald Fagen(1948― 、ボーカル、キーボード)とニューヨーク州生まれのウォルター・ベッカーWalter Becker(1950―2017、ベース、ギター)のソングライターコンビを中心に結成された。謎めいた皮肉たっぷりの歌詞ジャズの影響濃いサウンドをもつ洗練された都会的な音楽で、1970年代に高い人気を誇った。

 1967年にニューヨーク州にあるバード・カレッジの学生だったフェイゲンとベッカーが出会い、ともにジャズと作家のウィリアム・バローズの熱心なファンだったことから意気投合する。ジェイ&ジ・アメリカンズのバック・バンドの仕事などをしながら、2人はニューヨークの音楽出版社に自作曲を売りこむ。ジャズとビート文学に影響を受けた若者2人の書く曲はほとんど売れなかったが、その独得の作風に可能性を見いだしたプロデューサーのゲーリー・カッツGary Katzの紹介で、1971年にABC/ダンヒル・レコードの専属ソングライターの職を得て、ロサンゼルスに移った。

 しかし、彼らのちょっと風変わりな曲を取り上げる歌手は少なく、結局2人は自分たちで歌うためにグループを組む。スティーリー・ダンというグループ名は敬愛するバローズの小説のなかからとられた。ニューヨーク時代のバンド仲間だったギタリストのデニー・ディアスDenny Diasを呼び寄せ、もう1人のギタリストのジェフ・バクスターJeff Baxter(1948― )、ドラマーのジム・ホッダーJim Hodder、そして歌手のデビッド・パーマーDavid Palmerを加えた6人が創立メンバーで、1972年のデビュー・アルバム『キャント・バイ・ア・スリル』は高い評価を受け、このなかから「ドゥ・イット・アゲイン」「真夜中の放浪者」のチャート・トップ10入りするヒット曲が生まれた。

 1973年の『エクスタシー』の制作前にパーマーが脱退し、フェイゲンが全曲を歌うことになる。1974年の『プレッツェル・ロジック』から「リキの電話番号」が大ヒット、アルバムは初のトップ10入りを果たす。このアルバムにはフェイゲンとベッカーのジャズへの興味が明確に表れ、録音には腕利きのセッション・ミュージシャンが多数起用されるようになった。そして2人は同年のツアーを最後にコンサート活動を一切止め、スタジオでの作業に専念する。またツアー終了後にホッダーとバクスターが脱退。バクスターはドゥービー・ブラザーズに加わった。

 1975年の『うそつきケイティ』、1976年の『幻想摩天楼』ではスティーリー・ダンは通常の意味でのグループではなく、フェイゲン&ベッカーの描くコンセプトのもとに一流スタジオ・ミュージシャンやジャズ界の有名ソロイストが集まり、演奏するプロジェクトになっていた。その方法論が結実したのが、1977年の傑作アルバム『彩(エイジャ)』であり、全米ヒット・チャート第3位まで上がるベストセラーとなった。そして、さらに長い時間をかけて制作された『ガウチョ』を1980年に発表したが、1981年2人は別々の道を歩むと発表し、スティーリー・ダンは解散する。

 1982年にフェイゲンはソロ・アルバム『ナイトフライ』を発表したが、1980年代の大半を活動停止に近い状態で過ごした。ベッカーはプロデューサーに転じ、シンガー・ソングライターのリッキー・リー・ジョーンズRicky Lee Jones(1954― )などのアルバムを手がけたが、仕事のペースはゆっくりとしたものだった。その後2人は、1993年にフェイゲンが久しぶりに発表したアルバム『KAMAKIRIAD』のプロデュースをベッカーに依頼したことがきっかけとなって旧交を温め、スティーリー・ダンを再結成する。

 1993~1994年、彼らは約20年ぶりのツアーを行い、2000年にアルバム『トゥ・アゲインスト・ネイチャー』を発表。翌2001年のグラミー賞で年間最優秀アルバムを含む4部門で受賞した。また同年にはロックン・ロールの殿堂入りも果たしている。2003年に『エヴリシング・マスト・ゴー』を発表。

[五十嵐正]

『ブライアン・スィート著、藤井美保訳『スティーリー・ダン――リーリング・イン・ジ・イヤーズ』(1997・リットー・ミュージック)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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