バローズ(読み)ばろーず(英語表記)Edgar Rice Burroughs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バローズ」の意味・わかりやすい解説

バローズ(William Seward Burroughs)
ばろーず
William Seward Burroughs
(1914―1997)

アメリカの小説家。セント・ルイスの有名なバローズ計算機製造業者の長男として生まれる。ハーバード大学卒業後、ニューヨークに住み、ビート・ジェネレーション(第二次世界大戦後、物質文明や因習、常識などに反発し、そこからの離脱を目ざした若者世代)の中心的存在となるジャック・ケロアック、アレン・ギンズバーグと知り合い、その先駆者的な存在となった。その後メキシコモロッコ、ヨーロッパ各地を放浪し、パリではシュルレアリスムの画家、詩人であるブリオン・ガイシンBrion Gysin(1916―1986)と出会った。これらの交友関係と薬物の使用が彼の表現活動に大きな影響を与えた。1953年、ウィリアム・リーの筆名で自らの麻薬中毒の体験を描いた『ジャンキー』(俗語で「麻薬中毒者」の意)を出版して、一躍有名になる。続く『裸のランチ』(パリ版1959、ニューヨーク版1962)では、麻薬中毒者の生活を伝統的な物語の枠を無視して、強烈なシュルレアリスティックなイメージで表現し、暴力や性の表現をめぐって発禁騒ぎとなった。裁判の結果、処分は取り消され、アメリカでの文学作品の検閲が廃止される契機となった。その後の作品『ソフト・マシーン』(パリ版1961、ニューヨーク版1966)、『爆発した切符』(パリ版1962、ニューヨーク版1967)、『ノバ・エクスプレス』(1964)、『ワイルド・ボーイズ』(1971)なども超現実的な傾向の強い作品で、ジョイスランボー、カフカからの文章の抜粋や、イメージをコラージュ風に羅列する「切り込み」(カットアップ)や「折り込み」(フォールドイン)と称する特異な実験を試みている。この手法は印刷物の文章を、実際にはさみを使ってばらばらにし、それらをつなぎ合わせて散文として再構成するというものである。1970年代中ごろから書き続けていた三部作『赤い夜の都市』(1981)、『死の道の場所』(1984)、『西にある国々』(1987)は、現代の文明社会を否定し、時間空間を超越して自分なりの理想社会、ユートピアを模索した小説である。初期の個人的な麻薬体験を描く小説とは異なるが、彼独特の文明思想、複雑な構成、描写、イメージなどによって、いずれも難解である。その後も執筆活動を続け、1995年に最後の作品となる『私の教育――夢の本』を出版した。現代社会の権力機構に反逆、抵抗するだけでなく、私生活でも、妻を誤って射殺したり、同性愛者であったり、映画に出演するなど、マスコミをにぎわすことも多かった。1983年、アメリカ芸術院会員に選ばれ、彼が批判してやまなかったアメリカの公式文化から認知されるという皮肉なことになった。『裸のランチ』は、1991年デビッド・クローネンバーグDavid Cronenberg(1943― )により映画化された。

[渡辺利雄]

『飯田隆昭訳『爆発した切符』(1979・サンリオ)』『鮎川信夫訳『ジャンキー』(1980・思潮社)』『飯田隆昭・諏訪優訳『麻薬書簡』(1986・思潮社)』『鮎川信夫訳『裸のランチ』(1992・河出書房新社)』『山形浩生訳『ノヴァ急報』(1995・ペヨトル工房)』


バローズ(Edgar Rice Burroughs)
ばろーず
Edgar Rice Burroughs
(1875―1950)

アメリカの小説家。ミシガン陸軍士官学校に学び、短期間合衆国騎兵隊に入隊。その後さまざまな職業を転々としたがいずれも失敗し、心機一転、SF的冒険小説『火星の月の下で』(のち『火星のプリンセス』と改題)を1912年に発表して、作家としての地位を確立した。ときに37歳。当時はまだSFという概念は成立していなかったが、心霊旅行によって火星に飛来した地球人のヒーローが縦横無尽の大活躍をするこの小説は大好評を博して、ついに全11巻に及ぶ長大な『火星シリーズ』に発展し、20、30年代に開花するスペース・オペラヒロイック・ファンタジーに多大の影響を与えた。SF的な作品としてはこのほかに、地球空洞説に基づく『ペルシダー・シリーズ』七巻、『金星シリーズ』五巻、『月シリーズ』二巻、『時間に忘れられた国』などがある。

 またアフリカの密林を舞台にした『ターザン・シリーズ』も1914年から発表し始め、30年代のハリウッドによる映画化の人気により全世界に普及して26巻にも達した。バローズは生前70冊ほどの作品を書き、普通小説、西部小説、歴史小説などの分野でも作品を残したが、なんといっても彼が本領を発揮したのはSF的冒険小説で、同時代の作家や作品の大半が過去に埋もれてしまったなかにあって今日でも依然として続み継がれているのは、彼がもつ天成の物語作家としての魅力によるというほかはない。

[厚木 淳]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バローズ」の意味・わかりやすい解説

バローズ
Burroughs, William S.

[生]1914.2.5. ミズーリセントルイス
[没]1997.8.2. カンザス,ロレンス
アメリカ合衆国の小説家。フルネーム William Seward Burroughs。計算機メーカー,バローズ(→ユニシス)の創業者の孫として恵まれた環境で育ったが,1936年ハーバード大学卒業後ヨーロッパを放浪,帰国後職を転々とした。1943年ニューヨークに移り住み,ビート・ジェネレーションを代表する二人の作家ジャック・ケルアック,アレン・ギンズバーグと知り合う。1944年頃からヘロイン中毒になる。1953年ウィリアム・リー William Leeの筆名で麻薬中毒者の生活を描いた第一作 "Junkie: Confessions of an Unredeemed Drug Addict"(1977『ジャンキー』Junkyとして再発行)を発表し,1959年には『裸のランチ』The Naked Lunch(アメリカ国内では Naked Lunch〈1962〉。1991デービッド・クローネンバーグ監督で映画化)をパリで出版した。意図的に風変わりに仕上げた文体のなかに悪夢のような,そしてときにはユーモアのある世界を呼び起こす実験的な小説は,バローズの同性愛者としての性的志向や,薬物依存の経験を語る際の率直さとあいまって,ビート作家のなかで一定の信奉者を獲得する要因となった。そのほかの作品に『ソフトマシーン』The Soft Machine(1961),『猛者(ワイルド・ボーイズ)―死者の書』The Wild Boys(1971),『おぼえていないときもある』Exterminator!(1973),『ウエスタン・ランド』The Western Lands(1987),『夢の書―わが教育』My Education: A Book of Dreams(1995)などがある。

バローズ
Burroughs, John

[生]1837.4.3. ニューヨーク,ロクスベリー近郊
[没]1921.3.29. オハイオ
アメリカの随筆家。教師,新聞記者,農夫などを経て財務省に勤務後,1872年ニューヨーク州イソーパス付近の農園に移り,ソローにならった自然を主題とする随筆を著わした。国内を広く旅行し,アラスカ探検隊にも参加した。『ホイットマン覚え書』 Notes on Walt Whitman as Poet and Person (1867) は友人であったこの詩人の最初の伝記。初期の自然観察の作品『ウェーク・ロビン』 Wake-Robin (71) ,『鳥と詩人』 Birds and Poets (77) などは詩的であるが,後期の作品にはダーウィンやベルグソンの影響がみられる。ほかに,詩集『鳥と枝』 Bird and Bough (1906) 。

バローズ
Burrows, Abe

[生]1910.12.18. ニューヨーク
[没]1985.5.17. ニューヨーク
アメリカの劇作家,演出家。 1950年ミュージカル『野郎どもと女たち』 Guys and Dollsの台本を担当,1200回をこえるロングランとなりトニー賞を受賞。以後『カンカン』 Can-Can (1953) ,『努力しないで成功する方法』 How to Succeed in Business without Really Trying (61,ピュリッツァー賞,トニー賞) ,『サボテンの花』 Cactus Flower (65) などを書き,演出も行なった。

バローズ
Burroughs, Edgar Rice

[生]1875.9.1. シカゴ
[没]1950.3.19. カリフォルニア,エンシーノ
アメリカの大衆小説作家。ジャングルに捨てられ,猿に育てられたイギリス人を主人公とする『猿人ターザン』 Tarzan of the Apes (1914) を発表,一躍有名になり,以後ターザン物をおよそ 30冊ほど書いたほか,『火星の王女』A Princess of Mars (17) 以下の SFで,宇宙活劇ともいうべき「スペース・オペラ」の第一人者と目された。

バローズ
Barrows, Harlan H.

[生]1877
[没]1960
アメリカ合衆国の地理学者。ミシガン州立師範学校でマックファーレンに師事して地理学を学び,のち 1912~42年までシカゴ大学の地理学科を率いて今日のアメリカ地理学の基礎を築いた。北アメリカ,南アメリカに関する多くの研究を残したが,自然環境について可能論的な理解を示した。 22年アメリカ地理学会の会長として行なった演説『人間生態学としての地理学』は,当時のアメリカ地理学の環境論的な考え方を示している。

バローズ

「ユニシス」のページをご覧ください。

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