スペース望遠鏡(読み)スペースボウエンキョウ(その他表記)space telescopes

デジタル大辞泉 「スペース望遠鏡」の意味・読み・例文・類語

スペース‐ぼうえんきょう〔‐バウヱンキヤウ〕【スペース望遠鏡】

宇宙望遠鏡

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スペース望遠鏡」の意味・わかりやすい解説

スペース望遠鏡
すぺーすぼうえんきょう
space telescopes

地球大気圏の外の宇宙空間に置かれた望遠鏡。宇宙望遠鏡ともいう。宇宙を観測するとき、地上の望遠鏡では地球の大気による光の散乱のために像がぼやけたり、光の波長によっては吸収のために見えなくなったりする。望遠鏡を大気圏外にもっていけばこの大気による光の吸収と散乱の影響を避けられる。このアイデアは1920年代のロケット登場とともに生まれた。実現したのは1960年代後半からで、1968年にアメリカが打ち上げたOAO-2と、1971年にソビエト連邦が打ち上げた宇宙ステーション・サリュート1号に搭載されたOrion1が最初である。ともに、地上では観測できない紫外線観測用の望遠鏡であった。最大の成果をあげたのが1990年にスペースシャトルで打ち上げられた、紫外線や可視光から赤外線までを観測するハッブル宇宙望遠鏡である。

 衛星軌道の望遠鏡には、たとえば気象衛星のように地球を観測するためのものもある。宇宙を観測するスペース望遠鏡と地球を観測する地球観測衛星とは用途が異なるため区別されるが、観測装置の技術面では共通する部分も多い。

 地上望遠鏡は動かない地面を基準にして指向方向を制御する。スペース望遠鏡は不動の基準を自らつくり衛星の姿勢を安定させるとともに、それを基準にして望遠鏡を駆動する。この指向方向制御の仕組みが両者の違いである。

 スペース望遠鏡の特徴は地球大気の影響を受けないことである。地上からの宇宙観測における大気の影響には次のようなものがある。(1)雲による可視光の遮蔽(しゃへい)(曇ると星は見えない)、(2)風などの大気の密度ゆらぎによる光の散乱(星のまたたき)、(3)大気中の窒素や酸素による電磁波の強い吸収(可視光と電波領域しか大気を透過できない)、(4)太陽と月の光の散乱(昼間や満月の近くは星が見えない)、(5)都市の人工光の散乱(夜空が明るくなり暗い星が見えない)、(6)大気光(大気自体が光る)。これらの影響を受けないため、スペース望遠鏡は地上望遠鏡では困難な、望遠鏡の光学性能(回折限界)で決まる観測精度(空間分解能)でつねに観測できるという利点がある。

 スペース望遠鏡の欠点は次の3点である。(1)ロケットで打ち上げるため、大きさと重量に厳しい制限がある。(2)不動の地面がないため望遠鏡の姿勢制御がむずかしい。(3)修理が困難で運用期間が短い。これらはいずれも地上の望遠鏡に比べて非常に費用がかかる原因となっている。

 スペース望遠鏡の地球周回軌道は高度350キロメートルから650キロメートルのものが大部分であるが、近地点2000キロメートル、遠地点2万キロメートルのような長楕円(ちょうだえん)軌道のものまで観測目的によって軌道が選ばれている。2010年代になると地球周回軌道でなく、地球と太陽のラグランジュL2点(地球から太陽の反対方向に150万キロメートルの地点)に送ることができるようになった。L2では太陽がつねに地球の陰になること、太陽と地球による引力と軌道運動の遠心力がつり合うため軌道が安定しているという大きな利点がある。全天で3°Kの宇宙背景放射をきわめて精密に測定したPlanck(プランク)とWMAP(ダブルマップ)はL2軌道である。将来の大型スペース望遠鏡の多くがこのL2軌道を想定している。

 望遠鏡の性能の一つである空間分解能は口径で決まる。電波領域では離れて設置した複数の望遠鏡を1台の大きな望遠鏡として扱う超長基線電波干渉計VLBI)がある。地上では干渉計の最大実効口径は地球の直径を超えられないが、スペース望遠鏡ではこの制限を超えることができる。これがスペース望遠鏡のもう一つの利点である。その一例が1997年に日本が打ち上げ、地上の電波望遠鏡と一緒にVLBI観測を行った「はるか」である。

[水本好彦 2017年2月16日]

資料 おもなスペース望遠鏡

(2016年時点)
〔γ(ガンマ)線観測用〕
SAS(サス)-2
1972~1973年運用。γ線点源を発見
COS-B
1975~1982年運用。SAS-2の後継。γ線点源を発見
CGRO(Compton Gamma-Ray Observatory)
1991~2000年運用。四つの装置を搭載し、20keV(キロ電子ボルト)から30GeV(ギガ電子ボルト)までγ線を観測する重量16トンの大型衛星。γ線の全天マップやGRB(γ線バースト)の観測で大きな成果を出す
INTEGRAL(インテグラル)(International Gamma-Ray Astrophysics Laboratory)
2002年~運用中。ESA(イーサ)とNASA(ナサ)の共同開発。ロシア連邦宇宙局(RKA)が打上げ。地球の放射線帯を避けた近地点9000キロメートル、遠地点15万3000キロメートル、周期72時間の長楕円軌道
Swift(スウィフト)
2004年~運用中。GRB観測用
Fermi Gamma-Ray Space Telescope(GLAST(グラスト):Gamma-ray Large Area Space Telescope)
2008年~運用中。GRB、γ線点源、ダークマター暗黒物質)の観測

〔X線観測用〕
SAS-1(Uhuru)
1970~1973年運用。初めてX線で全天掃天観測をした衛星で約300個のX線点源を発見
HEAO-1(High-Energy Astronomy Observatory 1)
1977~1979年運用。1年半の観測期間で約800個のX線源を発見
HEAO-2(Einstein Observatory)
1978~1981年運用。X線撮像ができる最初のスペース望遠鏡
はくちょう
1979~1985年運用。日本最初のX線天文衛星
EXOSAT(エクソサット)(European X-ray Observatory Satellite)
1983~1986年運用。ESAが打ち上げた長楕円軌道の衛星
てんま
1983~1988年運用。はくちょうの後継、鉄のスペクトルの精密観測が特徴
ぎんが
1987~1991年運用。てんまの後継、全天モニターとGRB検出器を搭載
あすか
1993~2001年運用。鉄のスペクトルの精密観測
BeppoSAX
1996~2002年運用。イタリア、オランダが共同で打ち上げたGRB観測衛星。GRBの方向を短時間で特定できることが特徴
ROSAT(ローサット)(Rontgen Satellite)
1990~1999年運用。ドイツ、アメリカ、イギリスが共同で打ち上げた衛星。全天掃天観測で15万個のX線天体カタログを作成
XTE(Rossi X-Ray Timing Explorer)
1995~2012年運用。X線天体の時間変動の観測が主目的
Chandra(チャンドラ) X-ray Observatory
1999年~運用中。X線CCDによる高精細撮像分光器が特徴。近地点1万6000キロメートル、遠地点14万キロメートル、周期64時間の長楕円軌道
XMM-Newton(ニュートン)
1999年~運用中。ESA打ち上げ。CCDカメラによる高精細X線撮像が特徴。周期48時間の長楕円軌道。搭載した可視光カメラとの同時観測でX線点源の光学対応天体を同定することができる
すざく
2005~2015年運用。アメリカと共同で作成した日本5番目のX線衛星
MAXI(マキシ)(Monitor of All-sky X-ray Image)
2009年~運用中。国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟きぼうに設置された広視野X線カメラ。全天のX線変動天体を監視

〔紫外線観測用〕
EUVE(ユーブ)(Extreme Ultraviolet Explorer)
1992~2001年運用。801個の紫外線天体の全天カタログ作成
IUE(International Ultraviolet Explorer)
1978~1996年運用。NASA、ESA、UKSRC(United Kingdom Science Engineering Research Council、科学工学研究会議。イギリス)が共同で打ち上げた衛星。彗星(すいせい)、惑星から恒星など多様な天体を観測
OAO-2(Stargazer)
1968~1973年運用。NASAが打ち上げ、初めて成功した軌道天文衛星
OAO-3(Copernicus)
1972~1981年運用。NASAが成功した2番目の軌道天文衛星
Orion1
1971年運用。ソ連の宇宙ステーション、サリュート1に設置。紫外線フィルム使用
Orion2
1973年運用。ソユーズ13号に搭載。紫外線分光器で紫外線フィルム使用
FUSE(ヒューズ)(Far Ultraviolet Spectroscopic Explorer)
1999~2007年運用。天体の重水素量の測定がおもな目的

〔可視光観測用〕
Hipparcos(ヒッパルコス)
1989~1993年運用。ESAの打ち上げた位置天文衛星。太陽系近傍の恒星の固有運動と年周視差をはかり、11万個の星の高精度カタログを作成
ハッブル宇宙望遠鏡
1990年~運用中。スペースシャトル・ディスカバリーで打ち上げ。重量約11トンの大型衛星。口径2.4メートルの望遠鏡で近紫外から近赤外線までの観測ができる
ケプラー宇宙望遠鏡
2009年~運用中。地球型の惑星探査が目的。約10万個の主系列星の明るさ変化を連続観測する
Gaia(ガイア)
2013年~運用中。ESAがL2点に打ち上げた位置天文衛星。銀河系の詳細な三次元地図を作成することが目的

〔赤外線観測用〕
IRAS(アイラス)(Infrared Astronomical Satellite)
1983年運用。アメリカ、オランダ、イギリスが共同で打ち上げた衛星。赤外線による全天掃天観測で35万個の近赤外線天体を発見
ISO(アイソ)(Infrared Space Observatory)
1995~1998年運用。ESAが打ち上げた口径60センチメートルの冷却望遠鏡。IRASの1000倍の感度をもち、個々の赤外線天体の精密観測を行う
SIRTF(Space Infrared Telescope Facility,Spitzer Space Telescope)
2003年~運用中。口径85センチメートルの冷却望遠鏡搭載。太陽周回軌道
あかり
2006~2011年運用。日本の全天赤外線掃天観測衛星。口径68.5センチメートルの冷却望遠鏡搭載。高度700キロメートルの太陽同期軌道(極軌道)
FIRST(Far Infrared and Submillimetre Telescope, Herschel Space Observatory)
2009~2013年運用。ESA打ち上げ。地球―太陽のL2点を中心とするリサジュー軌道。遠赤外線観測用の口径3.5メートルの冷却望遠鏡搭載。恒星や銀河の化学進化の探査が目的
WISE(ワイズ)(Wide-field Infrared Survey Explorer)
2009年~運用中(2011~2013年観測中断)。口径40センチメートルの冷却望遠鏡。高度525キロメートルの太陽同期軌道(極軌道)。超高感度の掃天観測

〔2.7°Kの宇宙背景放射(CMB)観測専用〕
COBE(コービー)(Cosmic Background Explorer)
1989~1993年運用。高度900キロメートルの円軌道。全天観測により宇宙背景放射の揺らぎを測定
WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)
2001~2010年運用。地球―太陽のL2点を中心とするリサジュー軌道。宇宙背景放射の温度揺らぎの測定から、宇宙年齢などの宇宙論パラメータや宇宙の物質、暗黒物質とダークエネルギーの割合を決定
Planck
2009~2013年運用。地球―太陽のL2点を中心とするリサジュー軌道。口径1.5メートルの望遠鏡でWMAPに比べ高い感度と角度分解能をもち、偏光観測もできる

〔電波観測用〕
はるか(VSOP)
1997~2005年運用。日本の打ち上げた口径8メートルのメッシュアンテナをもつ電波干渉計衛星。近地点560キロメートル、遠地点2万1400キロメートルの長楕円軌道。地上の電波望遠鏡といっしょに超長基線VLBI観測を実施


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