暗黒物質(読み)あんこくぶっしつ(英語表記)dark matter

翻訳|dark matter

日本大百科全書(ニッポニカ)「暗黒物質」の解説

暗黒物質
あんこくぶっしつ
dark matter

光を星のように放出することはない、みえない物質。「ダークマター」ともよばれる。重力によってのみその存在がわかる。銀河系の質量は、光学な測定から求めた恒星の数、あるいはその回転運動の速度から推定できる。一方、銀河系内には水素ガスが漂っており、水素原子から発生する電波によっても銀河の広がりや質量が推定できる。ところが、この方法で得た銀河の質量は、光っている星の測定で求めた質量の10倍も大きくなる。このことから、可視光で観測されている銀河円盤の外に、光や電波を放出したり吸収することのない正体不明の物質が大量にあり、水素ガスは重力によってそれらの物質に引き寄せられ回転しているのではないかと考えられている。暗黒物質の正体についてはアクシオンニュートリノ超対称粒子などいくつかの候補があげられているが、確実な証拠は得られていない。近年、暗黒物質についてニつの有力な観測がなされた。一つは、素粒子観測装置スーパーカミオカンデにおける、太陽から飛んでくる電子ニュートリノが他のニュートリノにかわったという、いわゆるニュートリノ振動の観測である。これは、ニュートリノが質量をもつときに限りおこりうる。他の一つは、1997年、理化学研究所とマックスプランク研究所のグループが発見した暗黒銀河団で、約90億光年離れた宇宙の彼方に銀河数百個分の質量をもつ天体を発見した。この天体は光を発することがなく、X線を利用してはじめて観測できた。ニュートリノおよび暗黒銀河団は、暗黒物質の候補になるものとして注目を集めている。なお2007年(平成19)1月、ハワイのマウナ・ケア山頂にある世界最大の光学望遠鏡「すばる」により、暗黒物質の3次元的な空間分布が世界で初めて測定され、暗黒物質が大規模構造を形成していることが明らかになった。

[広瀬立成]

『須藤靖著『ダークマターと銀河宇宙』(1993・丸善)』『M・リオーダン、D・N・シュラム著、青木薫訳『宇宙創造とダークマター――素粒子物理からみた宇宙論』(1994・吉岡書店)』『大浜一之著『宇宙を支配する暗黒物質(ダークマター)とは何か!?――人類起源から量子論まで、解かれざる謎に最新科学が挑む』(1996・PHP研究所)』『ジョン・グリビン、マーティン・リース著、佐藤文隆・佐藤桂子訳『宇宙の暗闇・ダークマター――暗黒物質が解く宇宙進化の謎』(講談社・ブルーバックス)』


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知恵蔵「暗黒物質」の解説

暗黒物質

電磁相互作用をしないため通常の観測手段では検出できないのが暗黒物質。その存在は1930年代に米国の天文学者F.ツビッキーによって示唆された。彼は、銀河団の銀河の速度が非常に大きく、観測される銀河を合わせた質量では銀河を引き留めておけないことから、光を放出しない物質が大量に存在し、その重力が銀河を銀河団中に引き留めている、との考えから発想した。個々の銀河にもその周りを大きく暗黒物質が取り囲んでいることが、渦巻き銀河の回転曲線の形や楕円銀河中の星の速度分散から知られ、光を放出する普通の物質から見積もられた質量の数倍存在する。現在観測されている銀河、銀河団、超銀河団など宇宙の構造の形成は、暗黒物質の密度ゆらぎが成長することから始まる。暗黒物質の高密度部分の重力に引き付けられてバリオン物質の密度ゆらぎが成長し、銀河をつくる小さなができ、それらが合体することで銀河ができる。さらに銀河同士が集まって銀河団が、銀河団が集まってきて超銀河団が形成される。暗黒物質の正体は不明で、質量を持った相互作用の非常に弱い素粒子と考えられている。

(二間瀬敏史 東北大学大学院理学研究科教授 / 2007年)

暗黒物質

宇宙の構成要素の4分の1弱を占める、目に見えない「暗い物質」のこと。ふつうの物質の約6倍もある。影も形もないが、それが密集していると強い重力で近くを通る光を曲げ、遠くの天体の姿をゆがめて見せる。この重力レンズ効果から、その存在が裏付けられている。この物質は、天文学者だけでなく物理学者にとっても関心の的。素粒子論を組み立てるうえで、あってほしいのに見つかっていない粒子が、その中に含まれるかもしれないからだ。いま最も期待されているのが超対称粒子。実験物理学者の間で、これを探す観測競争が始まっている。岐阜・富山県境付近の神岡鉱山地下にある東京大学宇宙線研究所の施設では、「XMASS」と呼ばれる装置をつくって観測する計画が進んでいる。ちなみに、宇宙の構成要素の4分の3弱は物質ではなく、宇宙膨張の原動力となる暗黒エネルギーとされている。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

化学辞典 第2版「暗黒物質」の解説

暗黒物質
アンコクブッシツ
dark matter

宇宙空間に存在する,光や電波などの観測では見えない物質の総称.多数の銀河や銀河間に存在する高温ガスが逃げていかないことや,銀河の形が保たれていることを説明するためには,観測にかかる物質の10倍から100倍に達する暗黒物質が宇宙を満たしている必要がある.暗黒物質の候補として,暗い赤色矮星白色矮星褐色矮星ニュートリノ,理論(超対称性標準モデル)的に存在が推定される素粒子(ニュートラリーノ)などが考えられている.このなかで白色矮星,赤色矮星は,2001年にハッブル(Hubble)宇宙望遠鏡などを使って観測された.素粒子の探査も,地底の検出装置を用いて日本やヨーロッパで試みられている.検出装置は素粒子と媒質との相互作用による発光(媒質:ヨウ化ナトリウム,液体キセノンなど),発熱(媒質:ゲルマニウム,ケイ素など)を利用する.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

デジタル大辞泉「暗黒物質」の解説

あんこく‐ぶっしつ【暗黒物質】

宇宙に存在する、光を放出も反射もしない未知の物質。銀河の回転運動や銀河団内の銀河の運動から質量を推定すると、星や銀河として光っている物質の質量の約10倍になる。大半を占める「見えない質量(ミッシングマス)」の正体は明らかになっていないが、ニュートリノのように観測にかかりにくい素粒子や、褐色矮星のような明るく輝かない星などが候補に挙がっている。2001年に打ち上げられた宇宙背景放射探査機WMAPによる詳細な観測から、宇宙全体の物質・エネルギーの割合は、約73パーセントが暗黒エネルギー、23パーセントが暗黒物質、水素やヘリウムなどの通常の物質が4パーセントと見積もられている。ダークマター。

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