改訂新版 世界大百科事典 「赤外線天体」の意味・わかりやすい解説
赤外線天体 (せきがいせんてんたい)
infrared sources
赤外線を放出する天体の総称。赤外線星ともいう。1960年代初頭,カリフォルニア工科大学のレイトンR.B.Leighton,ノイゲバウァーG.Neugebauerらは波長2μmで全天の観測を行い,赤外線の非常に強い天体を数多く発見した。これら天体の多くは,その後のスペクトル観測の結果,温度が1000K以下の低温度の天体であることがわかった。この放射は星をとりまく塵粒子(星間塵)が星の光を吸収し,あらためて波長の長い赤外線として再放出するものと考えられている。一方,オリオン星雲をはじめ数多くの暗黒星雲の中に200~300Kという温度をもつ天体が発見されている。これらの天体は星間ガスの収縮によってできた生まれたての星(原始星)だと考えられている。また,原始星をとりまく暗黒星雲は20~50Kという極低温度の塵粒子を含んでおり,それが100μm付近の遠赤外線源として観測されている。
この塵粒子が星の光を吸収して暗黒星雲として見えているのであるが,このため遠距離の星の研究は光(可視光)ではできない。赤外線は光に比べて波長が長いので塵粒子の吸収が少なくなる。この透過性のよさを利用して銀河系の中心部が赤外線で観測された結果,今まで知られなかった銀河系の腕構造が見つかり,また中心部に大量の星と質量の密集するいわゆる銀河中心核の存在が明らかにされた。そこには直径100光年以内に数千万個の星が群がり,直径3光年以内には太陽質量の100万倍以上の質量が詰まっていると推定されている。また太陽総放射量の1000万倍ものエネルギーが遠赤外線として放射されていることも観測されている。
さらに強力な赤外線放射が多くの系外銀河で見つかっている。とくにセイファート銀河やクエーサーと呼ばれる活動的な銀河では,われわれの銀河系の1000倍から1万倍に達する強い赤外線が放出されていることがわかっている。
執筆者:奥田 治之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報