ラグランジュ点(読み)らぐらんじゅてん(英語表記)Lagrangian points

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラグランジュ点」の意味・わかりやすい解説

ラグランジュ点
らぐらんじゅてん
Lagrangian points

天体力学で円制限三体問題の五つの平衡解のこと。質量の大きな二体間を結ぶ直線上にあるL1、L2、L3、および二体間を結ぶ直線を一辺とする正三角形の頂点となるL4とL5ラグランジュ点である。ラグランジュ点にある物体は、二体と相対的位置を変えずに周期運動を続けることができる。三体の物体の運動は解析的には解けない。しかし三体の物体の一つの質量が無視できる場合、残りの二体への三体目からの影響がなくなり、二体の運動は楕円(だえん)軌道になる。その軌道がとくに円軌道である場合を考えた問題が円制限三体問題である。1760年ころにオイラーが制限三体問題の解として、主星と従星を結ぶ直線上にあるL1からL3までの解(オイラーの直線解)を発見、その後ラグランジュが1772年に主星・従星を一辺とする正三角形の頂点(L4、L5)も解であることを発見した。ラグランジュ点のなかでもL4とL5が比較的安定で、軌道がずれても復元力が働き、大きくずれることがない。太陽-木星系の場合、L4とL5に該当する位置にトロヤ群とよばれる小惑星が集合している。また太陽-地球系の場合、比較的安定なので、スペースコロニー宇宙望遠鏡の配置候補になっている。

[山本将史 2022年7月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラグランジュ点」の意味・わかりやすい解説

ラグランジュ点
ラグランジュてん
Lagrange point

天文学における平衡点であり,二つの巨大質量の天体に対して,質量の無視できる第三の天体がほぼ静止した状態を保つ点。ラグランジュ点では,第三の天体に働く引力遠心力が釣り合う。二つの天体に対してラグランジュ点は五つ存在し,その内訳は,二つの天体を結ぶ直線上に三つ(L1,L2,L3),二つの天体を結ぶ線分を一辺とする正三角形の頂点に二つ(L4,L5)である。ラグランジュ点に存在する天体に,太陽火星間 L5のエウレカ,太陽―木星間 L4および L5のトロヤ群小惑星などがある。
太陽―地球間のラグランジュ点には複数の探査機が配置されている。地球から太陽側に約 150万km離れた L1は,太陽や地球の日照側を観測するのに理想的な場所である。地球に対して太陽と逆側の同じ距離にある L2は,宇宙全貌を観測するのに有利な場所でジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や観測衛星「ガイア」が配置されている。地球から見て太陽の裏側にある L3は遠く,探査機は周回していない。L4 では地球のトロヤ群小惑星 2個の存在が確認されている。また,2017年に日本の探査機はやぶさ2が L5付近で観測を行なったが,小惑星は確認できなかった。

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