気象要素を観測したり,無人の観測所や船舶等から気象観測資料等を収集する機能を持った人工衛星。地球表面から800~1000kmぐらいの高度を比較的短い時間(1時間40分前後)で地球を1周する中高度気象衛星と赤道の上空3万5786kmにある静止気象衛星がある。静止気象衛星は衛星直下点を中心に半径7000kmの円内を観測できるという利点があるが,赤道上空にあるために極付近の観測はできない。また小さな現象の観測にも不向きである。一方,中高度気象衛星は,小さな現象や気温・水蒸気等の鉛直分布観測に適している。太陽同期極軌道を飛行しているので静止気象衛星では観測できない極地方の観測も可能であるが,中緯度~赤道では同じ場所は12時間間隔でしか観測できない。このために静止気象衛星と中高度気象衛星が必要である。衛星に搭載されている測器等はほぼ同じものであるため,日本の静止気象衛星〈ひまわり〉を例にとって説明する。
静止気象衛星〈ひまわり〉は,東京の真南,東経140°の赤道上空にある。衛星観測用センサーシステムのおもな機能は次の通りである。
(1)可視赤外回転走査放射計 visible andinfrared spin scan radiometer(略称VISSR(ビッサ))0.5~0.75μmの可視光と,水蒸気等による吸収が少なく温度観測に適した10.5~12.5μmの赤外光に感度を持ち,分解能は衛星直下点でそれぞれ1.25km,5kmで,直下点から離れるにつれて低下する。衛星の1分間100回の自転(衛星の姿勢を一定に保つために衛星をこまのように回転させている)を利用して,北極側から走査鏡で地球を西から東に走査する。1回転するごとに少しずつ鏡の光軸を南に下げ25分間(2500回になる)で南限までの走査を終える。このデータは地上局に送信され,雲画像が作られる。さらに30分間隔で観測した3枚の雲画像から雲の移動を計算し上層風を求める。また赤外線データは温度を表しているので,このデータを利用して海面水温分布図も作られる。
(2)宇宙環境モニター 陽子,α粒子および電子等の到来数を測定している。
(3)気象観測データの収集 海上のブイ,船舶などで観測されたデータを中継し地上局へ送る。
(4)雲画像の衛星中継 地上局で作成した雲画像を中継し,データ利用局へ送る。
〈ひまわり〉5号(1995年3月18日打上げ)のVISSRでは次の変更がなされた。可視光域は0.55~0.9μmに拡張され,赤外光域は10.5~11.5,11.5~12.5μmの2帯域に分割され,6.5~7.0μm(水蒸気観測用)が追加された。10.5~11.5,11.5~12.5μm帯では水蒸気の吸収が異なり,同一物体を観測すると水蒸気の吸収の少ないチャンネルの温度の方が高く現れるので,この情報と水蒸気データから水蒸気の吸収量の補正をして対象物の正確な温度が得られる。宇宙環境モニターは〈ひまわり〉5号から廃止された。
〈ひまわり〉5号以後は気象庁が運輸省所属の関係で,気象観測のほかに航空・航海等に関する任務を持った運輸多目的衛星になる。この衛星は3軸安定方式で衛星の自転利用観測方式のVISSRに替わってイメージャーimagerというセンサーが採用され,観測波長域には次の変更・追加がある。可視光域は0.55~0.8μmに変更。赤外光域では10.5~11.5μmを10.3~11.3μmに変更し3.5~4.0μmを追加する。衛星から送信される赤外光域の観測値が8ビット(256段階)から10ビット(1024段階)に改善され,詳細な温度情報が得られる。なおアメリカ,ヨーロッパの第2世代静止気象衛星でもイメージャーに変更された。
(1)アメリカ 世界最初の気象衛星は,1960年4月1日に打ち上げられた中高度気象衛星TIROS(タイロス)(television and infra-red observation satelliteの略)1号である。1966年からは実用タイロスTiros Operational System(略してTOS(トス))シリーズが打ち上げられ,この衛星はenvironmental survey satelliteとも呼ばれていたため,打上げ成功後はESSA(エツサ)と呼ばれた。このうちの偶数番号の衛星は自動送画automatic picture transmission(略称APT)装置で観測した雲画像を送信した。簡単な受画装置で雲画像を受画できたため,世界中で衛星データが利用され始めた。改良型TOS(improved TOS,略してITOS(アイトス))シリーズの衛星は1号が1970年1月23日に打ち上げられた。このころ気象衛星を運用していたESSA(エツサ)(環境科学庁Environmental Scientific Service Administration)がNOAA(ノア)(海洋大気庁)と改名したこともあって,ITOSの2番目の衛星はNOAA1号と命名され,以後5号(1976)まで打ち上げられた。TIROS-Nシリーズは,1978年より打ち上げられ,2番目の衛星(1979)からNOAAシリーズの名前を継続した。このほかの系列にNIMBUS(ニンバス)(雨雲)シリーズがあり,新測器実験用に1号(1964)から7号(1978)まで打ち上げられた。このほかに中高度気象衛星として軍用気象衛星DMSP(defence meteorological satellite programの略)もある。
静止気象衛星は,ATS(application technology systemの略)1号(1966)と3号(1967)で実験が行われ,実用静止気象衛星計画SMS/GOES(ゴーズ)計画に発展した。SMS(synchronous meteorological satelliteの略)は1974年に1号が打ち上げられ,2号まではSMS/GOES(geostationary operational environmental satellite,略してGOES)と呼ばれていたが,3番目の衛星(1975)をGOES1号とし,以後連続番号をつけている。
(2)旧ソ連・ロシア 最初の気象観測実験は科学衛星COSMOS(コスモス)122号(1966)で行われ,数個の衛星で実験した後に実用気象衛星METEOR(メテオール)1号が1969年3月26日に打ち上げられ,年に3~4個の打上げが続いている。平均高度860kmぐらいの円軌道に打ち上げられている。1994年10月31日には静止気象衛星Electro(エレクトロ)1(GOMS N1ともよぶ)がインド洋上空に打ち上げられた。
(3)日本 日本は最初は中高度気象衛星を計画していたが,1969年地球大気開発計画(GARP)に参加するためおよび実用目的から,静止気象衛星にすることに計画変更をした。最初の静止気象衛星〈ひまわり〉は,1977年7月14日にアメリカのケープ・カナベラルからNASAによって打ち上げられた。〈ひまわり〉2号(81年8月11日打上げ)以後は,種子島宇宙センターから宇宙開発事業団により国産ロケットによって打ち上げられている。なお外国にはGMS(geostationary meteorological satellite)の名が通用している。
執筆者:土屋 清
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データの収集・配信を目的として打ち上げられる人工衛星。気象衛星は、地球規模での雲、水蒸気、海面温度、海上風、降雨などを一日に何度も観測することで、天気予報や気候変動の研究などに活用される。
気象衛星には静止衛星と極軌道の周回衛星がある。静止気象衛星を利用した地球全体の気象観測は、世界気象機関(WMO)の地球大気開発計画(GARP(ガープ))に基づく五つの静止衛星などで行われている。日本は1977年(昭和52)に最初に打ち上げられた静止気象衛星「ひまわり」で参画している。「ひまわり」は赤道上約3万6000キロメートルの静止軌道から、地球の約3分の1を常時観測する。5号機まではスピン安定式であったが、6号機以降は3軸制御衛星となり、8号機は2014年に打ち上げられ東経140度付近に静止している。8号機の観測センサーの機能・性能は格段に向上し、黄砂と噴煙の識別、集中豪雨の観測、火山灰、煙霧質(エアロゾル)の観測機能が向上した。分解能はこれまで可視光域で1キロメートルが0.5キロメートルに、赤外域では4キロメートルが2キロメートルに、撮像間隔は30分が10分に短縮された(日本付近は2分30秒ごとに常時監視が可能)。観測チャンネルはこれまでの5チャンネルから16チャンネルに増加し、カラー画像の作成が可能となった、8号と同じ機能の9号は2016年11月に打ち上げられ、8号のバックアップとして軌道上で待機している。データは通信衛星(JCSAT)経由で配信される。
世界初の気象衛星はアメリカのタイロス1号TIROS1で、1960年に打ち上げられた。アメリカはその後GOES(ゴーズ)シリーズを1975年から打ち上げ、2016年時点では静止位置に3機(GOES-12、GOES-13、GOES-15)を配置し運用している。ロシアの新世代気象衛星Elektro(エレクトロ)-L(GOMS(ゴムス) 2号)は2015年に打ち上げられ、東経76度のインド洋上で運用中である。ヨーロッパではヨーロッパ気象衛星開発機構(EUMETSAT(ユーメットサット))が運用するMeteosat(メテオサット)シリーズで、7号(東経57度、1997)、8号(東経41.5度、2002)、9号(東経9.5度、2005)、10号(東経0度、2012)、11号(軌道上待機中、2015)がヨーロッパ、アフリカを中心に観測運用を実施している。インドは通信と気象観測機器を搭載したINSAT(インサット)シリーズを2003年から25機打ち上げ、2016年時点で12機を運用している。中国は風雲(FY)シリーズを打ち上げ、FY-2D(東経86度)、FY-2E(東経123度)、FY-2F(東経112度)、FY-2G(東経123度)の4機を配置している。中国は静止気象衛星のほかに、極軌道の周回気象衛星3機を運用している。韓国は海洋観測と気象観測の実証衛星であるCOMS(コムス)(千里眼)を2010年に打ち上げた。
極軌道からの気象観測は、高度約1400キロメートルの円軌道で、軌道傾斜角を約102度にすることで南北両極の近くを通り、太陽の動きに同期させて午前9時あるいは午後3時など、毎日ほぼ同じ地方時に全世界を昼夜各1回観測することができるようにしている。これにより静止気象衛星がなしえないグローバルな気象情報や高緯度地方の海氷情報等を得ることができる。アメリカがNOAA(ノア)衛星、ロシアがMETEOR(メテオール)衛星を運用している。
[森山 隆 2017年1月19日]
『気象衛星センター編『気象衛星画像の解析と利用 一般気象編』(2012・気象衛星センター)』▽『伊藤譲司他著『ひまわり8号気象衛星講座』(2016・東京堂出版)』
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(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
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…また一方向的通信というべきものに放送衛星があり,これも静止衛星が利用できるようになって登場したものであって実用衛星の中では新しい歴史をもつ。宇宙通信衛星通信衛星放送
[気象観測]
気象衛星は人工衛星から雲の画像をカメラでとって地上に送ってくるもので,アメリカはタイロス,ニンバスの各試験研究用,そしてエッサによる実用にはいずれも低高度衛星を用いた。ソ連のメテオールも同様な気象衛星である。…
…絹(巻)雲は昔は〈霊之雲〉とも呼ばれていたが,細い絹状などの構造をもち,絹(巻)積雲はよくまだら状を示し,絹(巻)層雲は一様な層状構造でよく日暈,月暈をかぶる。これらの雲はジェット気流の南側に広範囲に現れることを気象衛星が報じている。(b)中層の雲 高積雲,高層雲,乱層雲は対流圏の中層にできる雲(多くは水滴の雲で,上層に氷晶を含むことがある)で,この中層では上昇流も比較的活発なので,上層の雲と構造が異なっている。…
…軍事衛星には,次のような種類がある。
[通信衛星]
戦略・戦術通信のほか,偵察衛星や気象衛星などのデータを中継する目的の衛星。民間の通信衛星とは使用周波数帯が異なり,対妨害性,秘匿機能および高い残存性をもつ。…
※「気象衛星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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