日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
スラプスティック・コメディ
すらぷすてぃっくこめでぃ
slapstick comedy
アクション(動き)のおかしさや、論理的な飛躍などギャグを主体とした喜劇映画のことで、日本ではどたばた喜劇ともいわれる。スラプスティックとは、寄席(よせ)芸人が舞台で相棒をたたくのに使った棒のことである。この種の映画はコメディア・デラルテの伝統のあるイタリアやその影響を強く受けていたフランスで1900年代に始まった。アンドレ・デードAndré Deed(1884―1938)、マックス・ランデMax Linder(1883―1925)、ポリドールPolidor(1887―1977)などが活躍、さらにその影響はイギリスを経てアメリカに伝わり、マック・セネットが1912年におこしたキーストン社を中心に、破壊とスピードの狂騒的映画を生み出した。メイベル・ノーマンドMabel Normand(1894―1930)、ロスコー・アーバックルRoscoe Arbuckle(1887―1933)らのスターの時代の後で、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、ハリー・ラングドンHarry Langdon(1884―1944)らが1920年代以後も活躍を続けた。映画がサイレント(無声)からトーキーになるとともにこの種の純粋な作品はみられなくなったが、1960年代から70年代にかけて、現代文明の狂気を映し取る手段として再認識され、広範囲に取り入れられた。しかし80年代になるとテレビ出身のコメディアンが増えたことなどから喜劇の芸風が大きく変わり、従来のスラプスティック芸はパロディ的に消化・拡散されたり、特殊効果で代用されたりして、大きく退潮している。
[出口丈人]