トリフェニルメチル(読み)とりふぇにるめちる(その他表記)triphenyl methyl

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリフェニルメチル」の意味・わかりやすい解説

トリフェニルメチル
とりふぇにるめちる
triphenyl methyl

炭素原子に3個のフェニル基のついた一価の基-C(C6H5)3をいう。IUPAC命名法ではトリチルという。ゴンバークMoses Gomberg(1866―1947)により1900年最初に発見された有機のフリーラジカル(ラジカル、遊離基ともいう)である。クロロトリフェニルメタンを、よく乾燥したベンゼン溶液中で空気をできるだけ除去した雰囲気下で銀粉あるいは亜鉛末と処理すると黄色を呈し常磁性を示す。これはこのラジカルの生成に基づく。


 しかし、このラジカルは会合して二量体を生成するので、溶液を濃縮してもこのラジカルを純粋な形で単離することはできない。

  2(C6H5)3C・二量体
 しかし、二量体をベンゼンなどの溶媒に溶かすと、解離してこのラジカルを生じ、二量体とこのラジカルとは平衡にある。この物質はラジカルであるので、酸素や一酸化窒素と速やかに反応して、それぞれ過酸化ビス(トリフェニルメチル)(C6H5)3COOC(C6H5)3やニトロソトリフェニルメタン(C6H5)3CNOを生ずる。

 なお、このラジカルが電子1個を失ったものが、トリフェニルメチル陽イオン(C6H5)3+である。

[徳丸克己]

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化学辞典 第2版 「トリフェニルメチル」の解説

トリフェニルメチル
トリフェニルメチル
triphenylmethyl

トリチルともいう.C原子に3個のフェニル基のついた一価の基(C6H5)3C-の名称.溶液中で黄色の遊離基として存在することが1900年,M. Gombergによって見いだされ,安定遊離基の最初の発見となった.ヘキサフェニルエタン(無色結晶)を空気を絶って溶媒に溶かすと,黄色を呈して常磁性を示すのは,解離によってこの遊離基を生じるためである.

(C6H5)3C-C(C6H5)3 2(C6H5)3C・

しかし,酸素があると,過酸化物(C6H5)3COO-C(C6H5)3をつくり,またハロゲンによりハロゲン化トリフェニルメチル(例:(C6H5)3CCl)となる.この遊離基が安定なのは,C原子上の不対電子が3個のベンゼン核のπ電子と共役するためと,立体障害のためと考えられる.トリフェニルメチル基はアミノ基および第一級ヒドロキシ基の保護基としてよく使われる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリフェニルメチル」の意味・わかりやすい解説

トリフェニルメチル
triphenylmethyl

最初に見出された長寿命の安定遊離基。 (C6H5)3C・ で表わされる。 1900年 M.ゴンベルグによって,トリフェニルクロロメタンに銀粉を作用させてつくられた。溶液状態では安定に存在するが,溶媒を除くと二分子重合してヘキサフェニルエタンになる。

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