フラワー・デザイン(読み)ふらわーでざいん(英語表記)flower design

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

花、葉、枝などを使って花をいけること。流儀や伝統、家元制度まである日本古来のいけ花とは違い、花を器にいけるだけでなく、もっと自由に日常生活のあらゆる場で、奔放な飾り方をするヨーロッパ風な「華道」といえる。またフラワー・アレンジメントflower arrangementともいい、日本のいけ花より装飾デザイン的で、花を多く使い、配色美や幾何学的な美しさを基本にする。室内装飾をはじめ、宣伝用ディスプレー、冠婚葬祭などの祭壇の飾り付け、祝い事、見舞いの贈り物などの際、素材を生かしてデザインすることなどもフラワー・デザインと称する。また、襟飾りや胸飾り、コサージュ、ブーケなど装身用アクセサリーにも取り入れられる。

[市川久美子]

歴史

世界の美術史や服装史などで、各国の花の使われ方を調べてみると、それぞれの国、時代の特色を反映していることがよくわかる。古代エジプト時代の王の墓にあったといわれる、スイレンとハスのアレンジメントが現在残っているもっとも古いものとされている。これはニューヨークのメトロポリタン美術館に展示されているが、スイレンの花、つぼみ、葉など形は単純明快だが、エジプト風の堂々とした威厳を備えている。エジプト人は生活のなかで花の観賞を楽しみ、上流社会では達者な花の職人に、手の込んだブーケや、花びらを連ねたカラー、リース(花輪)、ガーランド(花綱)などをつくらせ、儀式や日常生活に用いた。おもに使った花は、スイレン、ケシ、ユリ、ハマナスなど。また、果実、野菜などもバスケットなどに装飾的に盛られている。

 古代ギリシア時代は祝祭日が多く、その祭礼のために花はより多く用いられた。儀式にはガーランド、葉を集めてつくった杖(つえ)などがつくられ、撒(ま)く花は籠(かご)に盛った。捧(ささ)げ物である果実や野菜などがコーニュコピア(四角形の器)に盛り付けられた。また、アポロ(太陽神)の頭上にはかならず月桂樹(げっけいじゅ)の冠がのっているように、それぞれの神の花があり、祭りのときは神々を象徴する花のリースをつくり、それを頭にかぶって忠誠を表した。このリースは、勝利者をたたえるとき、死者を悼むときにも使われ、死者の柩(ひつぎ)などに添えて置いたりした。リースやガーランドは当時のギリシア人の生活の一部になっていたくらいで、リースの材料である花の栽培、リースのつけ方のエチケットなどについての解説書まで出されていたほどである。上流社会のある家では46人もの職人が使われていたという。それほど盛んでありながら、器に花をいけるという方法はほとんどとられていない。素材はバラ、クチベニズイセン、アネモネ、サンザシ、ケシ、オリーブ、ワタ、ザクロなどである。ローマ帝国時代になると、ギリシアの伝統を受け継ぎ、より豪華に宗教的儀式や祭りに大量に用いられた。宴会場には、多量に撒かれる花の香りが満ちあふれ、リースやガーランドもはでで手の込んだものになった。

 やがてローマ帝国が分裂し、キリスト教を最初に奉じたコンスタンティヌス1世は、ビザンティウムに東の首都を定めたが、ここでは西洋と東洋の文化が交錯したため、独特の文化が発展した。アレンジメントも、クリスマス・ツリーを小さくしたような丈高いシンメトリー型のものなどが流行した。まるで鳥の羽のように葉を重ね、その間に星を見立てたような花の飾り方をした。色彩も東洋的になり、オレンジ色がアクセントに用いられた。ローマ帝国が滅んだ5世紀から13世紀までは動乱の世情を反映してか、教会で用いられた植物にも象徴的な意味があった。バラは処女マリアの花、ブドウのつるはキリストとその弟子、バイオレットは謙遜(けんそん)とされた。

 新しい芸術の誕生したルネサンス時代になると、古代ギリシア・ローマのスタイルや中世のシンボリズムを復活させ、美しいガーランドの浮彫りを建築や装飾に用いた。花は器に挿されたが、なぜか食卓には飾られていない。

 そしてバロック時代。バロックとは不整形の大きな真珠という意味からきたともいわれ、華やかで誇張的な宮廷生活が投影される。花のデザインもダイナミックで大胆になり、量的にも多くの花を使った。花もちについての本も出版されている。次にロココ時代。花のデザインはバロック時代よりスケールが小さくなり、花の数も少ないかわりに、軽やかでデリケートなものとなったが、美しく気品があり、色も優しいパステル調に変化した。

 19世紀は、古典に対する反動としてロマン主義が台頭し、造花が流行した。作品はガラスの器などに飾られた。この時代はノーズゲイ、タズイマズイとよばれる小さな花束がつくられ、花束に鎖をつけ、その先に指輪をつけて小指にはめたりした。花のいけ方はロマンチックで、メランコリックに、やさしく、かわいい、というスタイル。ラブレターがわりに花束を用いたりもした。19世紀末のアール・ヌーボー時代は創造の時代といわれ、日本の美術も紹介されて自然のスタイルが好まれ始める。シンプルな日本のいけ花もそのまま取り入れられた。

 アメリカではその歴史的背景を象徴するように、大きくヨーロッパの影響を受けていたが、17世紀以後は独自の発展をするようになった。20世紀の初めごろから日本のいけ花の影響を受けるようになるが、それが第二次世界大戦という背景と相まって、ぜいたくに使えない花のアレンジメントは、日本的な少ない花材の効果的なデザインの研究を余儀なくされた。今日、ライン・アレンジメントとして主流をなすアメリカのフラワー・デザインは、日本いけ花の影響も大きく受けているのである。

[市川久美子]

種類

種類を二大別すると、フラワー・デザインには、室内装飾として生花(せいか)をいけるアレンジメントと、服飾としてブーケ、コサージュなど水につけないで目的に応じてデザインする方法とがある。

 フラワー・アレンジメントの基本は、バーティカル(直立形)、トライアングル(三角形)、ホリゾンタル(平行形)、インバーテッドT(逆T字形)、ラウンド(丸形)、ダイアモンド(菱形(ひしがた))などシンメトリー(対称的)なものと、それとは逆のLシェイプ(L字形)、クレッセント(三日月形)、Sカーブ(S字形)、ダイアゴナル(斜行形)、Yシェイプ(Y字形)などがある。

[市川久美子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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