日本大百科全書(ニッポニカ) 「アネモネ」の意味・わかりやすい解説
アネモネ
あねもね
[学] Anemone
キンポウゲ科(APG分類:キンポウゲ科)イチリンソウ(アネモネ)属の総称。北半球に約150種の原種があり、日本には14種ある。園芸上は、秋植え球根として扱う。代表種はコロナリアgarden anemone, windflower/A. coronaria L. でボタンイチゲともいう。地中海沿岸原産で、英名のウィンドフラワーの名のとおり、風通しのよい所でよく育つ。秋植えですぐ発芽し、早春に15~20センチメートルの花茎を出し、径6~7センチメートルの花をつけ、3月下旬から5月上旬まで咲き続ける。葉はパセリに似ており、花色は白、赤、青、紫、桃色などがある。一重(ひとえ)咲きから八重(やえ)咲きまであり、セント・ブリジッド種は花茎30~40センチメートルで早春の八重咲き、デ・カン種は花茎40~50センチメートルで丸弁一重の早生(わせ)種。また、ブランダ種は白、青、桃色の一重咲きの矮性(わいせい)種である。繁殖は、塊茎の分球または実生(みしょう)によるが、実生球のほうが花つきがよいとされる。切り花、鉢植え、花壇に適するが、矮性種は切り花には向かない。交雑種の代表はフルゲンスA. fulgensで、鮮紅色のもののほかに、セント・ボバというパステルカラーの珍色種がある。
このほか、日本では原名不詳の吹詰(ふきづめ)咲きと称し、雌雄ずいが弁化して種子がつかない真紅色のものがある。
[川畑寅三郎 2020年3月18日]
栽培
植付け期は9月下旬、肥沃(ひよく)な中性の深い土を好み、日当り、排水、風通しのよい所にする。寒さには強いが、極寒期は敷藁(しきわら)などするとよい。高温を嫌うが、早春だとビニル栽培もできる。6月、葉が黄変したら掘り上げ、日陰で乾燥貯蔵する。
[川畑寅三郎 2020年3月18日]
民俗
アネモネの名はギリシア語のアネモスAnemos(風)に由来するが、風に吹かれて飛び散る花びらや綿毛のある種子からの結び付きであろう。ギリシア神話では、アネモネは、美の女神アフロディテが愛したアドニスが、不慮の事故で死ぬときに流す血から誕生する。イギリスやドイツの俗信では、十字軍の史実が絡んで、キリストの血と置き換わる。つまり、第2回十字軍遠征(1147)のころ、イタリアのピサ大聖堂のウンベルト僧正が運ばせた聖地からの土の中にアネモネの球根が混じっており、その土を使った十字軍殉教者の墓地から見慣れない血のような赤い花が咲いたという。これを殉教者の血のよみがえりと信じ、アネモネは「奇跡の花」としてヨーロッパに広がっていった。
[湯浅浩史 2020年3月18日]