サンザシ(その他表記)Crataegus cuneata Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「サンザシ」の意味・わかりやすい解説

サンザシ
Crataegus cuneata Sieb.et Zucc.

中国原産で,庭木として栽植されるバラ科の落葉低木。高さは1~1.5mで,多くの枝を出し,新枝は有毛でとげがある。葉は広倒卵形から楕円状長卵形で,上部で浅~深3裂することが多く,葉縁には鈍鋸歯がある。春に新葉が展開するとともに,枝の先に散房状に数花をつける。花は5弁,白色で,直径は約2cmである。秋に熟す果実球形で,直径約1.5cm,通常紅熟し,山楂(さんざ)と呼ばれ,薬用とされて利尿,通経に効きめがあるとされる。また血管を拡張して,血圧を降下させる作用があるといわれる。北中国原産のオオサンザシC.pinnatifida Bungeは,サンザシに似た低木で,枝は無毛。果実はサンザシと同様に薬用にされるほか,食用にもされ,大きなものでは直径2.5cmになる。

 サンザシ属Crataegus(英名hawthorn。この実の英名をthorn appleという)は北半球の温帯に広く分布し,とくに北アメリカで多くの種(人によっては900種以上を数える)が分化している。この属の種を細分する研究者は1000種以上の種があるというが,実際にある種数は150~200種ほどであろう。欧米では春咲きの花木として観賞され,とくにヨーロッパからアフリカ北部に分布するセイヨウサンザシC.oxyacantha L.em.Jacq.はイギリスでは〈5月の花May flower〉の名がある。多くの種が園芸品種にも区別され,花色は白だけでなく桃色や紅色もあり,また八重咲きも知られ変異に富むが,日本での栽培はまだ一般的ではない。繁殖はおもに種子で,乾燥しすぎると発芽力がなくなるので,秋に成熟した果実を砂に埋めて,春に播種(はしゆ)するのがよい。また観賞用のサンザシ類の八重咲きなどで結実しないものでは,サンザシへの接木も行われる。生育は遅いが,じょうぶなものが多いので,垣根や日当りのよい場所の植込みに利用する。
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サンザシに関する西洋伝説では,キリストの荆冠(けいかん)がこれで作られたとする話が有名で,冠をかぶせられたときに飛び散ったキリストの血がサンザシを清めたという。よって中世には厄よけの木となり,イギリスでは傷や腫(は)れを治すと信じられた。古くローマ時代には市民の健康を守る女神カルナCarnaの聖木とされ,この女神が新生児の血を吸う魔鳥を追い払う力をもっていたことから,赤ん坊の揺りかごにその小枝をのせる習慣も生まれた。イギリスのグラストンベリーに伝わる伝説では,アリマタヤのヨセフ聖杯を同地に運びこんだ際,疲労のあまりサンザシの杖を地面に突き刺して休んだところ,杖はたちまち根づいて花開いたという。花ことばは〈希望〉など。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンザシ」の意味・わかりやすい解説

サンザシ
さんざし / 山査子
[学] Crataegus cuneata Sieb. et Zucc.

バラ科(APG分類:バラ科)の落葉低木。高さ約2メートルで、枝を多く分け、短枝の変化した刺(とげ)がある。葉は互生し、倒卵形、長さ3~6センチメートルで上部は浅く3~5裂して鋸歯(きょし)があり、基部はくさび形である。托葉(たくよう)は半卵形で縁(へり)に鋸歯がある。5月に散房花序をなして径約1.5センチメートルの白色花が5~7個開く。花弁は扁円(へんえん)形で5枚、雄しべは20本で葯(やく)は赤く、雌しべは4~5本ある。果実は扁球形、径約2センチメートルのなし状果で、頂端に萼片(がくへん)が残り、9~10月に赤く熟す。果実が黄熟するものをキミノサンザシという。中国中部原産で享保(きょうほう)年間(1716~1736)には日本に入っていた。庭木や盆栽にし、繁殖は実生(みしょう)、挿木による。果実はクエルセチン、クロロゲン酸、オレアノール酸などのほか消化酵素を含み、消化促進作用があり、健胃、整腸薬に用いる。

 類似種のセイヨウサンザシC. laevigata (Poir.) DC.(C. oxyacantha L.)はヨーロッパ、北アフリカに分布し、メイフラワーとよばれ、小高木となり白色一重の5弁花を開く。日本ではセイヨウサンザシの園芸品種で紅色八重咲きのアカバナサンザシがよく植栽される。

[小林義雄 2020年1月21日]

文化史

中国では古くから知られ、紀元前2世紀の『爾雅(じが)』に「」の名で載る。サンザシ属は中国に16種あるが、中南部のサンザシ(野山楂)と北部のオオミサンザシ(山楂大果変種、山里紅)が代表的で、後者は果実が2.5センチメートルにもなり、生食以外に竹の串(くし)に挿し氷砂糖をまぶした氷糖壺、ゼリー(山楂膏)、ジュース(山楂汁)などの加工食品が親しまれてきた。漢方ではサンザシの実を健胃、消化不良、強心などの薬に使う。江戸時代には渡来しており、鉢植えで観賞された(『増補地錦抄(ぞうほちきんしょう)』1710)。セイヨウサンザシはイギリスでは5月に咲き、メイフラワーMay flower(5月の花)とよばれる。ローマ時代から厄除(やくよ)けに使われ、伝説や俗信が多い。

[湯浅浩史 2020年1月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サンザシ」の意味・わかりやすい解説

サンザシ
Crataegus cuneata; hawthorn

バラ科の落葉低木で,中国原産。薬用植物として渡来したものであるが,現在は庭木として栽植される。高さ 1.7mぐらいになり,分枝が多く,小枝が変形したとげがある。深緑色の葉は倒卵形で上方が3裂する。5月頃,枝先に散房状の花序をなして多数の白色花をつける。萼片,花弁各5枚,おしべは 20本あり,果実は球形で,萼が残ったまま赤または橙色に熟する。果実を乾燥したものが生薬の「山査子」で消化剤として用いる。セイヨウサンザシ C. oxyacanthaは地中海地方の原産で,日本でも古くから垣根に植えられている。しかし植物体にクマリンとアミノ化合物の混った悪臭があるので,花を持ってくると死人が出る前兆などという言い伝えが多い。この臭気のためハエが花粉の媒介をしている。

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百科事典マイペディア 「サンザシ」の意味・わかりやすい解説

サンザシ

中国原産のバラ科の落葉低木。日本には享保年間に薬用植物として朝鮮から渡来。茎はよく分枝し,とげがある。葉は倒卵形で,縁にはあらい鈍鋸歯(きょし)があり,上部は多くは3裂する。4〜5月,枝先に径1〜1.5cmの白色5弁花を散房状につける。果実は球形で,8〜9月赤熟。庭木とされ,食用,薬用となる。ヨーロッパ,北アフリカに自生するセイヨウサンザシは葉が卵形で深く3〜5裂。花は白色5弁で,5月ごろ開花,果実は9月に赤熟する。紅色,八重咲などの園芸品種も多い。

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