ペニス羨望(読み)ペニスせんぼう(英語表記)penis envy

翻訳|penis envy

改訂新版 世界大百科事典 「ペニス羨望」の意味・わかりやすい解説

ペニス羨望 (ペニスせんぼう)
penis envy

S.フロイトの精神分析概念の一つ。男性のペニス(男根)に対して女性が無意識的・意識的に抱く羨望をいう。フロイトの幼児性欲論に従えば,男根期(3,4歳~6,7歳)の前半において,女児は,自己の身体にペニスがないことを発見し,やがてこれを承認するようになって,男の子になりたい,すなわち男の子のようにペニスを所有したいとうらやむようになる。これはあたかもエディプス期に一致しているので,ペニスを与えてくれなかった母を軽視し,父のペニスを所有したいという願望空想となる。エディプス・コンプレクスの克服を意味するこの空想の断念は,やがてペニスと等価物である子どもが欲しいという願望に変化する。これは女性の人格発達の正常な帰結だが,エディプス・コンプレクスが未解決で,しかもペニス羨望が強く残った場合には,神経症者,女子同性愛者,あるいは男性との競合に異常な執心をみせる〈男性コンプレクス〉の所有者となる。ペニス羨望の強調は,近親相姦願望に対する防衛,万能的な母に圧倒されまいとする反抗現象,男性優位の社会にみられる女性の野心の表現などとさまざまに解釈されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペニス羨望」の意味・わかりやすい解説

ペニス羨望
ペニスせんぼう
penis envy

女性の性に対するフロイトの見解は,性感帯の変化 (陰核から膣〈ちつ〉へ) と,対象の変化 (母親への前エディプス的愛着から,父親へのエディプス的愛着への交代) を前提とする女性性へと向かう精神的・性的発達の中で,ペニス羨望 (せんぼう) に本質的地位を与えている。この変化の種々の段階でちょうつがいの役割を演じるのが,去勢コンプレクスとペニス羨望である。ペニス羨望は,性の解剖学的差異の発見から生れる。女児は,男児と比べ自分が傷つけられていると感じ,男児のようにペニスを持ちたいと思う (去勢コンプレクス) 。次いで,ペニス羨望はエディプスコンプレクス途上で,2つの派生形態をとる。一つは自らの内にペニスを獲得したいという望みであり (主に子供を持ちたいという形で) ,一つは性交においてペニスを享受したいという望みである。ペニス羨望は,病的なあるいは昇華された多様な形態をとることがある。

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