〈明白な運命(天命)〉〈膨張の宿命(天命)〉などと訳されるアメリカ膨張主義思想の典型。ニューヨーク市のジャーナリスト,オサリバンJohn L.O'Sullivan(1813-95)が《デモクラティック・レビュー》誌の1845年7月号に発表した《併合》と題する論文で使った語である。〈年々増加していく幾百万のわが国民の自由の発展のために,神によって与えられたこの大陸にわれわれが拡大するというマニフェスト・デスティニーの偉大さ……〉と,オサリバンは記した。直接にはオレゴン領有をめぐるイギリスとの紛争(オレゴン問題)のなかで主張されたのだが,ほとんど全国民的な膨張気運を代弁しながら,膨張を倫理的に正当化したことが特徴であり,大陸帝国建設の思想として力を発揮した。もともとアメリカの膨張主義思想は,農民を選民とするジェファソン主義や,モンロー主義に表れた〈地理的予定説〉を中心としていたが,〈明白な運命〉説の普及によって,大陸への膨張は自由の拡大という使命の遂行にほかならぬとされるようになった。こうした考え方はやがて地理的限定を越え,大陸外への膨張,帝国主義をも正当化する思想として役割を果たしつづけた。そのため,〈地理的予定説〉から20世紀の〈国際警察力〉論,〈世界の指導者〉説などにいたるアメリカの膨張思想を〈マニフェスト・デスティニー〉の語で一括することが多い。
執筆者:清水 知久
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1840年代にアメリカ合衆国の西方への領土拡張を正当化するために使用されたスローガン。「明白な運命(天命)」と訳される。当時アメリカの西境はロッキー山脈に達していたが、その領土を太平洋岸にまで拡大することは、神が予定した「明白な運命」である、というのがその主張であった。1845年、ジャーナリストのジョン・L・オサリバンが『デモクラティック・レビュー』誌7.8月合併号掲載の、テキサス共和国のアメリカ併合を支持する論文「併合」において使ったのが最初である。同年12月27日、ニューヨーク『モーニング・ニューズ』紙がオレゴン獲得を論じた社説でふたたび用いてから流行語となり、領土拡張主義にたつ政治家たちが愛用した。その後、一般的にアメリカの膨張主義、帝国主義を示す代名詞としても使用されるようになった。
[平野 孝]
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