改訂新版 世界大百科事典 「膨張主義」の意味・わかりやすい解説
膨張主義 (ぼうちょうしゅぎ)
expansionism
一般的には国家の領土的拡張を志向する運動ないし政策を指す。国内的には国家主義が強調される。すなわち,イデオロギー的には外国排斥の自国中心主義の立場にたち,政策レベルでは政治的,経済的に軍事優先の思考が浸透している状態である。また対外的には戦争,征服,支配といった軍事的強硬策がとられ,力の政策が一貫して追求される。この結果,しばしば領土的膨張自体が目的化することになる。ナポレオン帝国の膨張主義,ラインラント進駐やオーストリア併合からポーランド支配をへて西欧にまで拡大したナチス・ドイツの世界支配の衝動,満州事変から日中戦争をへて東南アジア侵略に進んだ大日本帝国の軍国主義などは,ここでいう膨張主義の典型例である。第2次大戦後では,東欧諸国や一部の第三世界諸国への政治的・軍事的支配を確立したソ連の地政学的な進出や,世界にその影響力を求めるアメリカの戦略的かつ経済的考慮を,世界への覇権を求める普遍主義的ナショナリズムの一種とみなすならば,それらが現代の膨張主義の一例といえるかもしれない。ただし,赤裸な力の追求による膨張主義が事実上むずかしくなっている今日の国際社会では,この用語はどちらかといえば,他国非難の記号として用いられがちであり,その実態は定かではない。
執筆者:高柳 先男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報