翻訳|Americanism
1781年にジョン・ウィザスプーンが〈アメリカ英語〉の意味で用いたのがこの言葉の最初とされ,現在までその意味を保ってきているが,1797年,T.ジェファソンは合衆国の愛国主義の意味でこれを用い,世間的にはこの用法がひろまっている。
新世界に植民地を建設したピューリタンは,ヨーロッパを腐敗の地,アメリカを真のキリスト教の世界たるべき地と見なした。一種の神国意識である。独立戦争は,さらにこの国が〈自由〉の地であるという信念を,アメリカ人の間に燃え上がらせた。戦争当時のいくつかの愛国歌はアメリカを〈神〉と〈自由〉の聖地のごとくにうたったが,この二つは以後もアメリカニズムの支柱となってきている。
アメリカが多様な歴史と利害関係をもつ諸州からなり,しかもさまざまな人種の移民によって発展してきたことは,国家と国民を統合する力として,いやがうえにもアメリカニズムを高揚させる必要を生じた。そのためには,独立宣言と合衆国憲法が精神的,制度的に中心の役割を演じたが,もっと日常的に機能する統合役も生まれた。星条旗はその代表で,現在でも連邦機関はもとより民間の多くの場所でかかげられ,民衆にアメリカ人意識を植えつけている。自由の女神などが極端に畏敬の念をもって扱われるのも,その観点から理解しなければならない。
アメリカニズムは,ヨーロッパと違うデモクラシーの制度を神聖視する考えを生み,それがアメリカ大陸全土にひろまるべきだという〈明白な運命(マニフェスト・デスティニー)〉の観念を育てもした。またアメリカが万民に成功のチャンスを与えるという〈アメリカの夢〉の意識をかき立てもした。文学の世界では,自由な自然のままの人間を宣揚するホイットマンの詩なども,アメリカニズムの所産といえる。デモクラティックな自由人の能動性を重んじるプラグマティズムは,アメリカニズムの思想的な所産であろう。
しかし他面で,アメリカニズムは独善的な狭隘さや,〈翼をひろげた鷲〉のイメージが象徴する,他国と他民族への威圧的態度spread-eagleismも生んだ。19世紀中ごろの〈アメリカ党(別名〈ノー・ナッシング党〉)〉は,純粋なアメリカ人の尊重を標榜しつつカトリック系移民を排除したが,同様な態度はなんども形を変えてアメリカに現れ続けた。〈100パーセント・アメリカニズムを永続させる〉ことをうたった〈アメリカン・リージョン(在郷軍人団)〉は,互助団体であると同時に,伝統的愛国主義の牙城となってきた。
アメリカニズムは,長い間,アメリカ人にほとんど当然のこととして信奉されてきた。ソローが強烈な個我主義の立場から,またマーク・トウェーンが反帝国主義の立場から,アメリカニズムに反対するようなことはあったが,その種の主張は世間一般にほとんどうけいれられなかった。1960年代になって,少数派人種の反乱,ベトナム反戦,デモクラシーのゆきづまりなど,さまざまな要素が重なり,ようやく単純なアメリカニズムに自己反省が生まれた。しかしアメリカニズムが崩壊してしまったわけではなく,アメリカ的理想主義は生き続けたし,〈古き良きアメリカ〉〈強いアメリカ〉への回帰といった形での愛国主義もまたふたたび台頭してきている。
執筆者:亀井 俊介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
このことばが最初に使われた18世紀末には、アメリカ英語をさす程度のものであったが、その後の社会発展のなかで、アメリカ合衆国に固有の価値観、信条、生活様式、政治諸制度の卓越性を強調する姿勢、さらに、これに同調しない者への政治的不寛容の姿勢をも意味するようになった。それには、この国が独立革命によって成立し、近代史上最初の共和国になったという事情がある。事あるごとに自由と平等に基づく建国の精神が顧みられ、旧世界に卓越する民主主義的諸制度が強調された。また、この国が移民とその子孫からなる多民族国家であることが、国民的統一のための共通なアメリカ人意識を育成する必要を生んだ。そのうえ不断に流入する移民の同化過程によってアメリカニズムは強固なものとなる。ことに、文化的背景を異にした南欧、東欧系移民の大量渡来する19世紀末になると、移民のアメリカ化はいっそう強化されて、主流をなすアングロ・サクソン系文化の優越性を強調し、これに合致せぬ者を排斥、差別する風潮となった。
対外的にはモンローの「孤立主義」として、また「マニフェスト・デスティニー」(明白な運命)にみられる選民意識となって西部への領土拡大を「劣等人種の指導」という「天命」によって正当化する姿勢となった。同じ姿勢は、アメリカが帝国主義的発展を遂げた19世紀末、キプリングの詩『ホワイトマンズ・バードン』(白人の責務)にみられるように、後進国に対する指導者としてのアメリカの使命を強調する海外膨張主義となった。
第二次世界大戦後、アメリカニズムは、海外では「コカコーラニゼーション」Cocacolonizationや風俗のアメリカ化を意味したが、国内では冷戦下のマッカーシズムにみられる狂信的反共主義として姿を現す。共産主義から自己を優越的に峻別(しゅんべつ)し遮断する政治姿勢は、この国の伝統的価値への国民的熱狂を生み、人々を民主主義の神話の世界に住まわせ、これに同調せぬ者を「非米的(アン・アメリカン)」として糾弾するなど、思想統制のための政略上の道具と化したため、多くの批判を浴びた。
[中島和子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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