ヨウスコウカワイルカ(英語表記)Lipotes vexillifer; baiji

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨウスコウカワイルカ」の意味・わかりやすい解説

ヨウスコウカワイルカ
Lipotes vexillifer; baiji

クジラ目ハクジラ亜目ラプラタカワイルカ科ヨウスコウカワイルカ属。雄は体長約 2.3m,体重約 135kg,雌は体長約 2.6m,体重約 240kgに達する。出生体長は約 95cm以下。体色は黒青灰色で,背部から腹部に向ってより淡色となる。噴気孔は1個で頭部正中線上にある。嘴 (くちばし) はきわめて細長く上方にそる。嘴のつけ根から前頭部が急に盛上がる。眼は小さい。背鰭 (せびれ) は低く長く,その頂点は体の後方3分の2に位置し,前縁も後縁も後方に傾く。背鰭の後縁から尾鰭に向ってキール (稜状の隆起) を形成する。胸鰭はきわめて大きく,三角形状である。上下顎骨に円錐歯が左右 31~38対並ぶ。2~6頭の群れで行動する。水上には頭部と背鰭の一部をみせる程度しか浮上しない。出産期は2~4月にかけてである。食性範囲は広く,多種の魚類を捕食する。チャン (長) 江 (揚子江) の中流から下流にかけて分布するが,環境汚染,ダムによる回遊の分断,漁業による餌生物の減少,チョウザメの引き延縄による混獲などで,現存数が激減した。絶滅危惧種

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知恵蔵 「ヨウスコウカワイルカ」の解説

ヨウスコウカワイルカ

2000万年以上前から長江(揚子江)流域に生息していたと考えられる淡水イルカ。別名はバイジー。2006年12月に、日中米など6カ国の科学者で構成された合同調査団は、ヨウスコウカワイルカが事実上絶滅したと発表した。クジラ目カワイルカ科に属し、雄は最大体長2.5m、体重160kgを超え、くちばしは細長く、先端がわずかに上向いているのが特徴。20世紀末から水質環境の悪化による絶滅が危惧(きぐ)されるようになり、中国政府は絶滅危惧種に指定し、1983年に捕獲を禁止した。 しかし、長江の汚染はとどまることなく、80年代初めには約400頭いた個体数が年々減少し、97年の調査ではわずか13頭しか確認されず、2004年以降、目撃例はなかった。クジラ目の哺乳類の絶滅は人類史上初めてとなる。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2008年)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨウスコウカワイルカ」の意味・わかりやすい解説

ヨウスコウカワイルカ
ようすこうかわいるか / 揚子江河海豚
baiji
whitefin dolphin
[学] Lipotes vexillifer

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目カワイルカ科のハクジラ。揚子江(ようすこう)の三峡より下流に分布する体長2.5メートルに達するカワイルカ。背面は青灰色、下面は白色である。

[粕谷俊雄]


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世界大百科事典(旧版)内のヨウスコウカワイルカの言及

【カワイルカ(河海豚)】より

…この系統はインダス川のダム建設の影響で,500~1000頭前後に減少した。 ヨウスコウカワイルカLipotes vexillifer(英名white flag dolphin)は長江(揚子江)に分布し,魚類を食べる。1950年代までは長江のとなりの富春江にも分布した。…

※「ヨウスコウカワイルカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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