気孔(読み)キコウ(その他表記)stoma

翻訳|stoma

デジタル大辞泉 「気孔」の意味・読み・例文・類語

き‐こう【気孔】

維管束植物表皮の、孔辺細胞およびその間にある小孔。狭義には、すきまだけをいう。光合成呼吸蒸散などの際に空気や水蒸気の通路となる。陸生植物では葉の裏面に多い。
[類語]穴ぼこ窪みホール落とし穴縦穴横穴抜け穴節穴オゾンホール

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精選版 日本国語大辞典 「気孔」の意味・読み・例文・類語

き‐こう【気孔】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 維管束植物の表皮にあって、孔辺細胞でできている部分、および、その間に生ずる小孔。光合成、呼吸、蒸散などの際に空気や水蒸気の通路となる。一般に陸生植物の葉の裏面に多い。
    1. [初出の実例]「故に葉は〈略〉植物の呼吸機関にして、養気、其気孔と名づくる葉背の小孔より」(出典:牙氏初学須知(1875)〈田中耕造訳〉四上)
  3. きもん(気門)
    1. [初出の実例]「昆虫は口にて呼吸せず〈略〉空気を吸放するために外面に各々九個の気孔を開き」(出典:動物小学(1881)〈松本駒次郎訳〉下)
  4. 毛穴のこと。
    1. [初出の実例]「肌膚(はだ)を清潔にすれば身体の気孔を開いて」(出典:男女美顔法(1903)〈坂本李堂〉)
  5. 一般に、空気の出入りする穴。また、空気を取り入れるための穴。空気穴。
    1. [初出の実例]「其気孔を填塞し、顔色を美にせんと、磁油を発明したるを、陶器の始めとす」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉三)

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改訂新版 世界大百科事典 「気孔」の意味・わかりやすい解説

気孔 (きこう)
stoma

陸上植物の表皮にある通気孔で,炭酸ガス・酸素・水蒸気などの出入口となっている。水中に起源した植物が約4億年前に陸上に進出してきたとき,乾燥にどう適応するかは最も重要な進化の条件の一つであった。維管束によって水の通道をよくし,表皮組織をクチクラで包んで水が漏れるのを防ぐ一方で,通気孔としての気孔をつくり,かつ気孔の縁にある2個の孔辺細胞guard cellの開閉によって水の蒸散の調節を行うことで,植物はこの課題を克服している。孔辺細胞の周辺に2~4個の助細胞subsidiary cellのある場合もあり,これらの細胞も含めて広義の気孔(または気孔装置)ということもある。植物体の水の蒸散量は気孔を経ないいわゆるクチクラ蒸散が5%前後であるのに対し,面積では1%にも満たない気孔が95%も関与しているということから,気孔の役割の大きさが理解される。孔辺細胞はふつう腎臓形で壁の厚さに部域差があるため,細胞内の膨圧の変化に伴って変形し,気孔の開閉が行われるようだが,開閉のメカニズムについては諸説があり,まだ明らかにされていない。種子植物では表皮組織の細胞には葉緑体が含まれていないのに,孔辺細胞には含まれている。このことからも,炭酸同化や呼吸に伴って孔辺細胞の内部に生じる変化が膨圧の変動の一因をなしていることが確かめられる。

 気孔はふつう葉の裏面にみられるが,表面のみにあるもの(スイレン),両面に同じように分布するもの(ヒロハコヤナギ,カラスムギ)もあり,茎の表面にもふつうにみられる。また維管束植物でも,水の中で生活しているもの(水生顕花植物など)では気孔がなくなっている例があるし,コケシノブ科のように葉面の細胞層が1層に単純化しているものでも,当然のことながら,気孔は発達しない。ホウビシダの半水生変種であるヤクシマホウビシダでも,葉面の細胞層の単純化に対応して気孔が失われている。コケ植物では,ツノゴケ類胞子体に気孔がみられ,ゼニゴケ類などでは配偶体に気室air chamberがつくられ,細胞壁の垂直方向の割れ目が呼吸口として開口する。フローリンR.Florinは裸子植物の気孔の構造を比較研究し,その形成過程に2型あることを明らかにしたが,その差が裸子植物の系統分化の過程と一致していることを示した。このように,気孔の形成過程と植物の類縁との関連も重視されている。また,植物体内の過剰水分を排出する装置としては水孔water poreもあるが,これは葉の先端や葉縁などの脈端にあって,2個の孔辺細胞で構成されるが,水孔の孔辺細胞には特殊な壁肥厚もなく,葉緑体ももっていないので細胞の変形による開閉は行わない。温度の低い早朝など,葉末にたまる小さな水玉は水孔から排出された水の滴である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「気孔」の意味・わかりやすい解説

気孔
きこう

植物体の表面にある小さな穴。植物体の地上部の大部分表皮細胞によって覆われているが、ところどころに二つの孔辺細胞によってつくられるすきまがあり、これを気孔という。気孔は二つの孔辺細胞の働きによって開閉し、植物体内外のガス交換に役だつ。気孔は茎よりも葉に多く存在し、また葉では裏面に多いのが普通である。ただし、コルク形成層が分化して樹皮をもつようになった樹木の茎の表面では、コルク形成層が特殊化してつくる皮目があり、機能を失った気孔にかわって働く。

 一般に、陸上に生活する植物は、土壌から水分を吸収して地上の部分に送って生活しているが、地上部は空気に接しているので乾燥しやすい。そこで、植物体の表面を覆う表皮細胞の表面にはクチクラがあって蒸散を防いでいるが、一方で、とくに葉からの適当な蒸散は植物体内の物質の流れを生ずる意味からも必要であり、気孔はその開閉によって蒸散の調節を行っている。葉は光合成を行うとき、外界から二酸化炭素を取り入れて酸素を放出する必要があり、また光合成を行わないときでも、呼吸に必要な酸素を取り入れて二酸化炭素を放出する必要があり、気孔はこのようなガスの出入の調節も行っている。気孔のすぐ内方の葉の組織には比較的大きな細胞間隙(かんげき)があり、さらに葉の中の細胞間隙へと連絡しているので、葉の中の細胞は外界からくる空気に直接に触れることができる仕組みとなっている。

 普通の表皮細胞には葉緑体が顕著でないが、気孔の孔辺細胞には葉緑体が存在して光合成を行うのが特徴で、ここでつくられる炭水化物が孔辺細胞の膨圧変化に関係していると考えられる。そして、孔辺細胞の形がその膨圧変化によって変わることが、気孔の開閉に関与しているとみられている。しかし、気孔の開閉の機構については、成長ホルモンの介在も考えられるなど、植物生理学上、現在も多くの研究が行われている。

[原 襄]


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百科事典マイペディア 「気孔」の意味・わかりやすい解説

気孔【きこう】

陸上高等植物の表皮にあって,ガス交換を営む装置。若い茎や葉などにあり,特に葉の裏面に多い。2個の半月形の孔辺細胞と,その間のすき間からなり,隣接細胞の膨圧の変化によって開閉する。光合成,呼吸による酸素・二酸化炭素の出し入れ,蒸散作用に伴う水蒸気の放出を行う。
→関連項目

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岩石学辞典 「気孔」の解説

気孔

火成岩にある小さな卵形状または不規則な形状の空洞で,ガスが逸散したために形成されたものである.気孔は一般に空で二次鉱物で充填されていない空孔である.ラテン語のvesicaは英語のbladderで,浮袋,空気袋などの意がある.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「気孔」の意味・わかりやすい解説

気孔
きこう
stoma

高等植物の葉の表皮にみられる構造。孔辺細胞の間にある2つのレンズ状の間隙で,ここを通して気体が葉の柔組織の腔所に出入りする。この開閉は蒸散,呼吸,同化の諸作用と密接な関係がある。葉の裏面に多く,表面に少いのが通則であるが,例外も多い。

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普及版 字通 「気孔」の読み・字形・画数・意味

【気孔】きこう

気門。

字通「気」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の気孔の言及

【葉】より


[構造]
 被子植物の葉は,外側に1層(まれに多層になることもある。ムラサキツユクサなど)の表皮があり,おもに裏面に気孔がみられる。気孔は2個の孔辺細胞の間にできる穴であるが,孔辺細胞の周辺に助細胞など,特殊な細胞がつくられることもある。…

※「気孔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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