延縄(読み)はえなわ(英語表記)longline

翻訳|longline

精選版 日本国語大辞典 「延縄」の意味・読み・例文・類語

はえ‐なわ はへなは【延縄】

〘名〙 一本の長い幹縄に適当な間隔をおいて多くの枝糸をつけ、これに釣ばりをつけて魚を釣る漁具。はいなわ。
日本山海名産図会(1799)三「同小鯛 是延縄(ハヘナハ)を以て釣るなり。又せ縄とも云」

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デジタル大辞泉 「延縄」の意味・読み・例文・類語

はえ‐なわ〔はへなは〕【延縄】

1本の幹縄みきなわに、釣り針を先端に付けた枝縄、浮子あばを付けた浮け縄を間隔を置いて結び付けた漁具。走る船から繰り出し、一時に広範囲の魚を捕る。マグロタラなどの漁に用い、浮き延縄底延縄がある。「延縄漁業」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「延縄」の意味・わかりやすい解説

延縄
はえなわ
longline

釣り漁具の一種。日本古来の漁具で、その発祥は古い。『古事記』『日本書紀』にある千尋縄(ちひろなわ)とは、現在の延縄の原形であると考えられている。延縄とは、1本の縄に多数の枝(えだ)縄を結着させ、その先端に釣り針を取り付けて魚類を釣り上げる構造で、漁獲対象とする魚種の生息水深によって浮(うき)延縄と底(そこ)延縄に大別される。浮延縄が潮流に流されるままに漁具が移動するのに対して、底延縄は海底に錨(いかり)などで漁具を固定して底生魚類を漁獲対象としている。

 延縄一組の漁具は、1本の幹(みき)縄、釣り針を着装した数本から数十本の枝縄および浮子(あば)(浮子玉)を取り付ける浮縄(うけなわ)によって構成されており、この一組の漁具を鉢(はち)とよび、一般に浮子玉間の間隔を1鉢とよんで漁具の単位としている。これは従来、延縄を300メートルごとに籠(かご)に収納していたことから、延縄単位を1鉢、2鉢としたことに由来する。1回の操業に数鉢から数百鉢用いる。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

構造と漁法

漁具を設置するときは、船を一定針路に保ち全速で航走しながら船尾甲板から大ボンデン(大旗)、浮子玉、ボンデン竿(ざお)、浮縄、幹縄(みきなわ)、枝縄の順に投入する。漁具投入後3~4時間待機(縄待ち)してからの揚縄(あげなわ)作業を行う。従来は1鉢ごとに延縄を分離したが、昭和50年代(1975~1984)に入ると延縄を連続して巻き取るリール式、あるいは直接漁具庫にコイルして収納するワインダー方式が普及し、大幅な労働の省力化に成功した。

 延縄漁具のうち幹縄、枝縄、浮縄には、従来は藁(わら)、麻類、綿などの天然繊維が用いられたが、昭和30年代(1955~1964)ごろからポリビニル系のビニロン、ポリアミド系のナイロン、ポリエステル系のテトロンなど210デニールの55~60本合わせの合成繊維が使用され始めた。1990年(平成2)ごろからは、幹縄にナイロンテグスの約300号、枝縄に約100号の単糸が使用されるようになった。釣り針は、鋼鉄製の錫(すず)メッキした100~115ミリメートルのふところの狭いものが使用されている。漁獲水深の調節は浮縄の長さを調節して行う。一般に、キハダメバチなどを漁獲対象とする場合の釣り針の数は1鉢(300メートル)に5本付け(50メートル間隔)、ビンナガを対象とするときは、1鉢(200メートル)に12本付けが普通である。浮子玉は、漁具を水中で支えるために1鉢ごとに取り付けてあり、昔はガラス玉を使用していたが、現在ではハイゼックス製浮子玉(径30~33センチメートル)で、20~30気圧に耐えられるものが使用されている。そのほか揚縄作業が夜間になることを考慮して、浮標灯(ダルマ灯とも称する)を20鉢ごとに1個の割合で取り付ける。さらに同様の役割を果たす漁具として、ボンデン竿がある。これは長さ約4メートルの竹竿の先端にコーナーリフレクター(電光反射板)を取り付けたものである。また揚縄開始の最初の部分に大ボンデンを取り付ける。これらは縄待ちどきに延縄漁具を見失わないようにするための目標物である。延縄の揚げ終わり前の20鉢目ごとにはラジオブイ(5~7個)も取り付ける。これは操業中に縄切れで延縄を見失った際に方向探知機でラジオブイの方向を探知するための漁具探索用として使用される。マグロ延縄漁業の一操業時には、延縄は450~500鉢(全長135~150キロメートル)にも及ぶ。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

延縄漁業

延縄を使用する漁業を延縄漁業という。浮延縄漁業では主体となるマグロ延縄のほか、サケ・マス延縄、シイラ延縄、トビウオ延縄などがあり、底延縄漁業としてはタラ延縄、タイ延縄、カレイ延縄、タコ延縄、フグ延縄、アナゴ延縄などがある。

 遠洋マグロ延縄漁業を除いて、沿岸域で操業する延縄漁船は小規模なものが多く、使用する漁船も小型のものが多い。延縄漁業が日本の漁業・養殖業に占める割合は、およそ生産量3.5%である。また、延縄漁業の漁獲量の約80%強をマグロ延縄漁業が占めている(以上、2014年の統計による)。

 浮延縄漁法として代表的なものはマグロ延縄漁であるが、マグロ類は大回遊する魚種で、産卵期を除けばまばらな群で行動している。遊泳水深も種類によって異なり、日中はキハダで150~250メートル、メバチで200~500メートル(水温躍層の上部と下部にすみ分けている)、ビンナガは比較的表層を遊泳しているため、漁具構造は対象魚種、漁期、操業海域および漁船の規模によって千差万別である。

 遠洋マグロ延縄漁業は120トン以上の漁船によって操業される。太平洋、インド洋大西洋の主として中・低緯度海域が漁場である。肉質がよいマグロ類の漁獲を目的として、海洋気象条件がきびしいインド洋・大西洋の高緯度海域やタスマン海に出漁する漁船もある。近海マグロ延縄漁業は20トン以上120トン未満の漁船によって日本近海を漁場として操業する。沿岸マグロ延縄漁業(小型マグロ延縄漁業)は20トン未満の漁船によって日本沿岸を漁場に操業する。漁業法上、遠洋・近海マグロ延縄漁業は農林水産大臣の許可漁業、沿岸マグロ延縄漁業は届出漁業である。

 多くのマグロ類の漁獲が減少しているため、地域あるいは魚種別にマグロ類の地域漁業管理機関(RFMO:Tunas regional fisheries management organization)が設立され、漁獲量制限などによって資源保護を進めている。これらの機関として大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT:The International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas。条約適用水域は大西洋全域、条約対象魚種はクロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガなど)、インド洋まぐろ類委員会(IOTC:Indian Ocean Tuna Commission。インド洋、メバチ、キハダ、ビンナガなど)、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC:Inter-American Tropical Tuna Commission。東部太平洋、クロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガなど)、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC:Western and Central Pacific Fisheries Commission。中西部太平洋、クロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガなど)、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna。特定水域なし、ミナミマグロ)がある。日本はこれらすべての機関に参加している。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

『稲村桂吾他著『漁船論』(1973・恒星社厚生閣)』『谷川英一他著『水産学通論』(1977・恒星社厚生閣)』『能勢幸雄著『漁業学』(1980・東京大学出版会)』『本多勝司著『漁具材料』(1981・恒星社厚生閣)』『斎藤昭二著『マグロの遊泳層と延縄漁業』(1992・成山堂書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「延縄」の意味・わかりやすい解説

延縄 (はえなわ)
long line

釣漁具の一種で,魚群を対象とし多数の魚を捕獲できるようにくふうされている。釣針は枝縄につけ,多数の枝縄を長い幹縄につなぐのが基本的構造である。目的に応じて適当な長さ,適当な針数に仕立て,籠などにおさめたものを1鉢(バスケットbasket)と呼ぶ。漁場ではなん鉢もつなげて用いる。近年のマグロはえなわのように長く,また投縄,揚縄を専用の機械で行うようになると,枝縄は装着・脱着自在の構造として別に保管し,長い幹縄はリールにまき,あるいは格納庫に収納しておく。海の沿岸,沖合,外洋,また河川,湖沼と広く用いられる。世界各国に見られるが,アフリカの湖で使われていたのが祖型ともいわれる。はえなわは取扱いが簡単で,しかも大型魚類も漁獲できるので,古くから沖合に進出した漁法である。沖合の堆,礁などにある魚類資源はトロールが発達するまでもっぱらはえなわによって開発された。表層で用いる浮はえなわと水底に設置する底はえなわとがある。前者はマグロ,サケ・マス類,トビウオ,サヨリ,ブリ,サバなどを,また後者はタラ類,ヒラメ・カレイ類,タイ類,カサゴ類,フグ,アナゴ,ハモ,サメ類などを対象とする。魚以外にタコなどのはえなわもある。珍しいものではアメリカ,チェサピーク湾のカニはえなわがある。これは針を使わないはえなわでトロットラインtrotlineと呼ばれるが,布片といっしょに餌を結びつけておくだけである。カニは餌と布にとりつき,揚網時もこれを離さない。あがってきたカニは玄側でローラーにあたって設置してある網の中に落ちる。構造的には長い縄に多数の針を並べてつけているということではえなわと同じだが,機能的には異なる漁具がある。カスピ海でソ連の,また黒海でトルコの漁民がチョウザメを対象として仕掛けるものだが,間隔の短い釣針ののれんといった趣で,餌もつけず,釣るのではなく,通過するチョウザメを引っかけることをねらっている。東ヨーロッパの南部およびソ連南部での延縄魚業は,悪影響が大きすぎるので現在はほとんど禁止されている。同種の漁具は中国にもあった。

 はえなわは水域も対象もひじょうに幅広く用いられたが,網漁具の進歩に伴い,浮魚は巻網,底魚は底引網におされ,特別のものを除いては網漁具が使えない磯や岩礁地帯で行われている。依然として盛んなのはマグロはえなわで,この漁業は江戸期の延享年間(1744-48)に房総半島の布良(めら)村(現,館山市)で始まったとされている。これとは別にマグロ長縄釣という漁法があったが,これは樽に100尋(ひろ)ほどの糸をつけて流す型の漁法で,はえなわではない。現在,日本のマグロ類の漁獲量は年間30万tから40万tだが,この70%近くがはえなわによる漁獲である。漁獲量が急激に増大したのは昭和30年代だが,これは漁場の拡大によるもので,1952年インド洋,57年大西洋へ進出,58年オーストラリア西岸のミナミマグロ沖合漁場開発,さらに66年オーストラリア南方のミナミマグロ漁場発見,69年にはオーストラリア南方から南インド洋を経て大西洋南部にまで達した。マグロ資源の開発はほぼ極限近くまで進み,いくつかの魚種では漁獲禁止の声も欧米から出ている。

 このほかのはえなわ漁業として重要なものは,3~6月に日本海で行われるカラフトマス,サクラマスを対象としたサケ・マスはえなわ漁業と,9~3月に北海道周辺を中心として行われるスケトウダラはえなわ漁業である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「延縄」の意味・わかりやすい解説

延縄
はえなわ

「のべなわ」または「ながなわ」ともいう。中心になる1本の幹縄に釣針をつけた枝縄を一定間隔に付し,ある時間水中に放置したのち引上げて,掛かった魚をとる漁法。定置延縄と流し延縄の2つがあり,また設置する水中の層によって浮き延縄,底延縄に分けられる。歴史は古く,すでに『古事記』上巻にみえている。縄は古代には栲縄 (たくなわ,こうぞの繊維で編んだ縄) が用いられ,その後,麻縄から木綿縄に代り,さらに合成繊維の発達に伴ってナイロンなどの合成繊維製品が用いられるようになった。

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