西洋音楽で用いる演奏記号の一種。テンポ・ルバートtempo rubatoの略で、その語源は「盗む」を意味するイタリア語ルバーレrubareにある。具体的には、音符の長さを長くしたり短くしたりすることを意味し、一つの楽句のなかでテンポあるいはリズムをいくぶん自由に演奏するよう指示する。ただし、音価に自由が与えられるのは部分的であって、けっして楽曲全体の基礎テンポは変化させてはならない。また、ルバートの技法が用いられるのは旋律に限られ、伴奏(ピアノ音楽では左手部分)は厳格にテンポを保守することになっている。すなわち、ルバートでは、厳格な基礎テンポに対するずれによって緊張感がもたらされ、そこに豊かな旋律的表現力が生み出されることとなる。
歴史的には、ルバートはすでに17世紀の鍵盤(けんばん)音楽で用いられている。18世紀以降より頻繁に用いられるようになるが、その使用はすべて演奏者の自由に任されていた。作曲者自身から指示されるようになるのは、19世紀のショパンまで待たなければならない。彼のピアノ曲、マズルカ第一番嬰(えい)ヘ短調(1830)がその最初といわれている。
[黒坂俊昭]
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…〈盗まれたテンポ〉の意。単に〈ルバート〉ともいう。音楽の表出力を高めるために,演奏に際してテンポを変化させること。…
※「ルバート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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