レーザー分光学(読み)レーザーぶんこうがく(その他表記)laser spectroscopy

改訂新版 世界大百科事典 「レーザー分光学」の意味・わかりやすい解説

レーザー分光学 (レーザーぶんこうがく)
laser spectroscopy

レーザー光を利用した分光学。分光学とは,電磁波物質にあててその間の相互作用を調べ,物質のさまざまな性質を検知しようとする学問である。物質の応答は主としてスペクトル線として観測される。この際どれだけ接近したスペクトル線まで分離して観測できるか(分解能),どれだけ弱いスペクトル線まで観測できるか(感度),スペクトル線の位置や強度をどれだけ正確に決められるか(精度)が測定上の重要な要素となる。従来の分光学では分光器の性能がこれらを制約していた。レーザーによって光源の性質が著しく向上し,しかも分光器が本質的には不要となったため,これら三要素はいずれも飛躍的に改善された。さらに従来の方法では求めにくかった物質の非線形的特性や超高速の緩和現象などが求められるようになった。

 レーザー分光法は,レーザー光のエネルギーが,あるときにはスペクトル的に,あるときには空間的に,そしてあるときには時間的に非常に狭い範囲に集中できることを利用する。単色性のより強力な光を用いた飽和分光法,誘導散乱分光法,多光子吸収分光法,コヒーレント過渡分光法などは非線形分光の代表的な例である。これらの実験では,レーザー光のもつよい指向性が測定を容易にし,かつ質を向上させている。またレーザー装置が制御性がよく,かつ超短光パルスを発生できるところから,ナノ秒分光,ピコ秒分光と呼ばれる,きわめて短い時間を対象とする分光学が発展した。この場合,スペクトル的には精緻(せいち)な情報は得られないが,高密度の物質系の中での非常に速い現象をとらえることができる。

 多くのレーザーの発振周波数は同調することがむずかしいため,レーザー分光はごく限られた対象にのみ適用されるような場合が多かったが,色素レーザー半導体レーザーなどでは限られた範囲内ではあるが発振周波数が同調でき,このようなレーザーが開発されてからは,測定可能な対象の範囲も飛躍的に増大し,レーザー分光学はかなり一般的な分光法としての地位を得るに至った。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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