森鴎外(おうがい)の短編小説。1909年(明治42)7月号の『スバル』に発表。題名は、ラテン語で「性生活」を意味し、主人公金井湛(しずか)の、幼時から25歳の結婚時に至るまでの性欲史をつづったもの。性欲中心の自然主義文学に刺激された鴎外が、自分の性生活史を材料とした自伝的作品で、自然主義とは違った、いかにも医学者らしい、フィジカルな、突き放した性の叙述に特色がある。情緒的な自然主義に突きつけた知的作品であるが、この作品を掲載した雑誌は発売禁止となり、陸軍省医務局長森鴎外は、陸軍次官から譴責(けんせき)処分を受けた。
[磯貝英夫]
『『ヰタ・セクスアリス』(角川文庫・新潮文庫)』
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…《スバル》《三田文学》など,耽美主義の拠点となった雑誌の精神的支柱として自然主義と対立したが,自身の作風はロマンティシズムの枠をこえて,はるかに多彩だった。自己の性欲史を冷徹に点検,叙述した《ヰタ・セクスアリス》(1909)は発禁処分を受けて話題になったが,身辺の事実に題材を求めた短編も多い。かつての戦闘的な啓蒙性は影をひそめ,作風は総じて玲瓏(れいろう)かつ端正で,口語体に統一された文体も格調が高い。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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