落語。十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の『東海道中膝栗毛(ひざくりげ)』の弥治郎兵衛(やじろべえ)・喜多八(きたはち)の道中記を素材にした旅噺(ばなし)。江戸っ子3人が滑稽(こっけい)な言動をしながら旅を続ける長い噺。昔は東海道五十三次を順を追って全部演じたというが、しだいに消滅し、いまでは「発端」「神奈川宿」「鶴屋善兵衛」「おしくら」「京見物」とくぎって演じている。演(や)り手が多く、型も多い。東海道のほかに中山道(なかせんどう)を舞台にする場合もある。「鶴屋善兵衛」のなかで、3人が小田原の近くで馬に乗り、馬子(まご)とユーモラスなやりとりをするくだりがもっとも知られ、この部分の原話は1820年(文政3)の噺本『初恵比寿(はつえびす)』中の「駕舁(かごかき)」である。宿屋でそれぞれが女を買う「おしくら」の原話は1796年(寛政8)の噺本『廓寿賀書(みせすががき)』中の「比丘尼(びくに)」で、これは上方(かみがた)落語の『尼買い』と同種のものである。旅噺は上方落語でも重要な演目で、『伊勢(いせ)参り』『東の旅』『西の旅』など作品が多い。
[関山和夫]