滑稽(読み)コッケイ

デジタル大辞泉 「滑稽」の意味・読み・例文・類語

こっ‐けい【滑稽】

[名・形動]
笑いの対象となる、おもしろいこと。おどけたこと。また、そのさま。「滑稽しぐさ
あまりにもばかばかしいこと。また、そのさま。「今さら強がっても滑稽なだけだ」
[派生]こっけいさ[名]
[補説]「滑」は「乱」、「稽」は「同」の意で、弁舌巧みに是非を言いくるめること。また、「稽」は酒器の名で、酒がとめどなく流れ出るように、弁舌のよどみない意ともいう。
[類語]面白いおかしいひょうきんコミカル愉快痛快

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精選版 日本国語大辞典 「滑稽」の意味・読み・例文・類語

こっ‐けい【滑稽】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ことばが滑らかで、知恵がよくまわること。機知に富んだ言動をすること。巧みに言いなすこと。転じて、ばかばかしくおかしいことばや言いかた。諧謔。おどけ。ざれごと。
    1. [初出の実例]「弁正法師者俗姓秦氏。性滑稽、善談論」(出典:懐風藻(751)釈弁正伝)
    2. 「とりなりの異相と口の滑稽(コッケイ)なるより」(出典:浮世草子・新竹斎(1687)五)
    3. [その他の文献]〔史記‐樗里子伝〕
  3. より転じて、俳諧のこと。また、風来山人に始まる滑稽を主とする戯作。
    1. [初出の実例]「猿蓑者芭蕉翁滑稽之首也」(出典:俳諧・猿蓑(1691)六)
  4. ( 形動 ) いかにもばかばかしいこと。くだらなくみっともない感じを与えるさま。
    1. [初出の実例]「洋楽書生の大穿(だいうが)ち〈略〉滑(コッケイ)恢諧御評判御評判」(出典:安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三)

滑稽の語誌

( 1 )史記索隠」には「滑稽」について、口が達者でうまく言いくるめる、酒樽から酒が流れ出るようにことばが溢れ出る、カッケイと読んで「俳諧」と同義、などと注する。
( 2 )日本でも上代から基本的には同じ意味で使われており、近世には「利口」、あるいは「滑稽太平記」の「滑稽」のように文学ジャンルとしての「俳諧」と同義とされることもある。

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改訂新版 世界大百科事典 「滑稽」の意味・わかりやすい解説

滑稽 (こっけい)
comic

ギリシア語のkōmos(歌と踊りのある祝祭行列)に由来する。言葉によるのであれ,身振りや音や色や形によるのであれ,誇張によって引き起こされる笑いを基本とした表現方法の一つである。人間がなぜ滑稽を感じるのか,滑稽がどのような要素から成り立っているのかについては,哲学や喜劇論,心理学などの分野でさまざまに語られてきた。アリストテレス以後,カントシラーベルグソンハルトマンフロイトなどの論究がある。卑俗な滑稽もあり,精妙な滑稽もあるが,共通して,直接的な怒りや悲しみ,同情に訴えるのではなく,自由な感情というものを前提としており,きまじめな常識では達成できない批評機能を含んでいる。セルバンテスの《ドン・キホーテ》におけるように,滑稽と感じながら主人公の人間性に魅惑される場合もあれば,シェークスピアが生み出したフォールスタッフにみるように,滑稽を通じて規制ずくめの日常的秩序を思い知り,そこからの解放感を覚える場合もある。意表を突いたり,グロテスク化して得られる滑稽の効果は,文学ではとりわけ風刺パロディに,演劇では中世の謝肉祭劇や近世の民衆劇,現代の不条理劇に多くみられる。近代絵画ではドーミエが戯画化による滑稽を巧みに用いて人間典型を描き出した。批評機能としての滑稽の要素は,シュルレアリスム絵画やポップ・アートにも認めることができる。
喜劇
執筆者:


滑稽 (こっけい)
gǔ jī

古代中国,戦国から秦・漢時代にかけての宮廷には,機転の利いたユーモアと迫真の演技力をまじえながら,流れるように滑脱な弁舌をもって,君主の気晴しの相手となり,また風刺によって君主をいさめる人々が仕えていた。滑稽の原義はそのような人々,またはそのような能力を意味する。幇間(たいこもち),道化,あるいは言葉の原義での〈俳優〉の一種であるが,そのなかには漢の武帝に仕えて〈滑稽の雄〉といわれた東方朔のように教養ゆたかな文士もいた。司馬遷は彼らが諷諫によって君主の愚行を改めさせた点を高く評価し,《史記》の中に〈滑稽列伝〉を立てて表彰する。《漢書》も〈東方朔伝〉を詳しく記すが,以後この種の人々は宮廷に少なく,おそらく後漢末に〈俳優饒言〉と形容された禰衡(でいこう)を最後として姿を消す。中国では古代の宮廷に特有な一群の人々であり,以後,滑稽はただ形容詞として残ることになった。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「滑稽」の意味・わかりやすい解説

滑稽
こっけい
das Komische; comicality

喜劇の本質的成分 (喜劇美) をなす美的範疇の一つ。笑いの原因の一つであるが,両者の間に一定の関係は認めえず,笑いを伴わない滑稽も存在する。滑稽を感取するにはその対象との利害を離れた一種の無関心性が必要であるから,それは本来的に美的契機を含んでいる。滑稽はなんらかの突然の変化に基づいており驚きを伴っている。この変化が否定的力をもつこともあり,それゆえモリエールは喜劇の道徳的矯正力を語った。滑稽の様態としては機知,風刺,アイロニー (エイロネイア) ,ユーモアなどがあり,美的にはユーモアを最も価値あるものとする考えが多い。

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普及版 字通 「滑稽」の読み・字形・画数・意味

【滑稽】かつ(くわつ)けい・こつけい

酒器の名。転じて、よどみない弁舌で人を惑わし、笑わせること。〔史記、孔子世家〕夫(そ)れ儒は滑稽にして、軌法とすべからず。

字通「滑」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の滑稽の言及

【嗚呼∥烏滸】より

…この滸人を《後漢書》などにいう(おこ)の国(南蛮の愚かな風俗をした国)の人とする説が古来行われているが,ここはオコな人と考えてよい。散楽は当時行われた雑芸で曲芸,軽業,滑稽な物真似,侏儒舞(ひきひとまい),傀儡子(くぐつ),滑稽な対話芸などがあったが,〈今日の事散楽の如し〉(《小右記》)などのように滑稽の代表のようにも考えられ,さらに猿楽(さるがく∥さるごう)ともいわれて,滑稽なことを意味するふつうのことばともなった。猿楽と書かれるようになるには,大嘗祭・鎮魂祭の神楽の舞などに奉仕した猿女(さるめ)の故事と混交したためと考えられるが,それは散楽のようなオコな行為が古代の芸能・祭式にともなっていたためと思われる。…

※「滑稽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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